NHK札幌放送局

アフガニスタンの女性とともに

いぶりDAYひだか

2021年10月6日(水)午前11時15分 更新

「タリバンから身を隠している」、「隣国へ移住したい」。アフガニスタンの友人たちから次々と届くメッセージ。受け取っているのは、室蘭工業大学の清末愛砂教授(49)です。長年、アフガニスタンの女性に対する暴力や差別を研究してきました。8月にイスラム主義勢力タリバンが再び権力を握り、女性の人権に対する懸念が高まる中、清末教授に話を聞きました。(室蘭放送局 篁 慶一)

アフガニスタン研究のきっかけは

「なぜ工業大学?」と意外に思われた方も多いかもしれません。実は、清末教授は憲法学や家族法が専門で、大学では一般教養の講義などを受け持っています。アフガニスタンの女性の人権に関心を持ったのは、20年前の9・11同時多発テロがきっかけでした。テロの後、アメリカは首謀者を旧タリバン政権がかくまっているとしてアフガニスタンでの軍事作戦に踏み切りましたが、後に「女性の人権」が攻撃の正当化に利用されたように感じたということです。

室蘭工業大学 清末愛砂教授
「攻撃の理由として、『女性の解放』、『女性の人権』がうたわれましたが、攻撃をしても人が殺されたり、けがをしたりするだけで、女性たちが解放されるわけではありません。アメリカは、当初は『テロとの戦い』と言っていたのに、いつの間にか『女性の人権や尊厳を守る』と主張し始め、強い違和感を持ちました。本当に現地の女性のことを考えているのかと」
2015年 カブール滞在中の清末教授

清末教授はその後、1970年代から女性の自由や権利向上を訴えているアフガニスタンの人権団体、「アフガニスタン女性革命協会(RAWA)」の活動の支援を始めました。現在は、日本の「RAWAと連帯する会」の共同代表を務めています。現地を度々訪ね、識字教室や職業訓練を見学したり、市民への聞き取りを行ったりしてきました。そこでは、イスラム教の極端な解釈をもとに女性の教育や就労を厳しく制限した旧タリバン政権や、アフガニスタン社会に根強い家父長的な考え方の影響を目の当たりにしたと言います。

清末愛砂教授
「旧タリバン政権時代に就学年齢だった人たちの中で、特に女性は字を書けない人が多いです。もっと上の世代であっても、『女性は教育を受けるべきではない』と考えたり、経済的に貧しく男性だけを学校に通わせたりする家庭が多く、字が書けない女性は非常に多いです。職業訓練では、父親や男兄弟の反対を恐れて、ばれないように受けに来る女性もいました」
字や計算を学ぶ女性たち(2015年 カブール)

タリバン復権 女性は

9・11同時多発テロの後、旧タリバン政権はアメリカの軍事作戦によって崩壊しましたが、ことし8月に首都カブールを制圧し、再び権力を握りました。タリバンは「女性の権利を尊重する」と表明していますが、逆行するような動きも出ています。9月末の時点で、暫定政権の閣僚に女性が任命されない一方で、かつて女性を抑圧してきたことで知られる政府機関を復活させました。教育の面では、大学で男女共学が認められず、講義を行う教員と学生は同性に限る方針が示されました。清末教授は、この状況に強い不安を感じています。

清末愛砂教授
「アフガニスタンの大学では、もともと女性の教員が少なく、教えられる分野も限られています。だから、女子学生が女性の教員からしか教えてもらってはならないと厳格に決められてしまうと、いくら『女性の教育を認める』と言ったところで、必然的に女性が学ぶ機会は大きく失われてしまいます。そのことを私も現地の人たちも非常に心配しています」
タリバン兵

旧タリバン政権では、映画や音楽といった娯楽も禁止されていました。特に、女性が楽器を弾くことなど考えられない時代だったと言います。しかし、20年前に政権が崩壊すると、都市部を中心に少しずつ状況が変わり始め、音楽を楽しむ女性も現れるようになりました。清末教授の友人もその1人でしたが、9月にSNSを通じて送られた彼女のメッセージには、「楽器をタリバンに壊された」と書かれていました。他の友人からも、不安を訴えるメッセージが多く届きました。

友人からのメッセージ
清末愛砂教授
「将来に対して『大丈夫だ』なんて考えている人は誰1人としていません。心が折れそうな思いでいる人もいます。今後どうなるか分からないという状況ですから、大変な局面を迎えていると思います」

声上げる女性たち

一方で、アフガニスタンでは女性が参加した抗議のデモや集会も起きています。そこには、清末教授も支援を続ける人権団体、RAWAのメンバーや多くの若い女性たちも含まれていたと言います。その光景を見て、清末教授は、現地の女性たちが困難な状況の中でも権利を求めて闘い続けると確信していました。

清末愛砂教授
「旧タリバン政権が崩壊した後の20年で女性が一定の自由を得て、声を上げるようになったという見方もできるとは思います。ただ、それ以上に、女性のために40年以上活動してきたRAWAなどの団体が、若い世代の育成に力を入れてきた成果が現れているように感じています。アフガニスタンの女性の権利を求める闘いは、すぐに社会が変わらないことを分かっているので、非常に長いスパンで行われているんです」
(RAWAのfacebookより)

現地で状況を確かめたいとの思いが募る一方で、清末教授は2015年を最後にアフガニスタンへの入国は出来ずにいます。治安の悪化が理由です。今は、これまでの活動をまとめた著書を出版したり、オンラインでの勉強会に講師として出演したりして、アフガニスタンに対する関心を高めようとしています。

オンラインイベントで話す清末教授

アフガニスタンを忘れない

清末教授は、タリバン統治下での女性の人権に強い懸念を示しています。その一方で、タリバンだけを問題視するのではなく、アフガニスタン社会に根強い家父長的な考え方と多角的かつ長期的な視点で向き合っていく必要があると訴えています。その際、国際社会が上から目線で変化を押しつけないことが重要だと言います。

2001年のカブール

9・11同時多発テロの後、一時的にアフガニスタンに対する国際社会の関心が高まりましたが、アメリカがイラクに侵攻すると、その関心はあっという間に薄れていったと清末教授は振り返りました。再びアフガニスタンに注目が集まっている今、どうすれば人々の関心をつなぎ止め、権利を守るために闘う現地の女性たちの力になれるのかを考え続けています。

清末愛砂教授
「どんな苦境に置かれても、なんとかしようと思う人たちは確実にいます。私は、アフガニスタンの女性の人権に対し、できるだけ多くの人の関心が持続するように、自分にできる活動を地道にやっていきます。アフガニスタンを忘れないことが、とても重要だと思っています」

2021年9月24日放送

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