NHK札幌放送局

音楽で十勝に明かりを灯す

ローカルフレンズ制作班

2021年10月28日(木)午後5時49分 更新

ディレクターが地域に1か月滞在して“宝”を探す「ローカルフレンズ滞在記」。10月は十勝を舞台に、「カルチャー」に関わる人たちと出会いを重ねてきました。最終週となる4週目は幕別町。十勝を音楽で盛り上げよう、特に10代の若い人を応援しようと開かれた、幕別町初の音楽フェスを取材しました。 

若者が輝く場を

よく晴れた秋の土曜日。幕別町を一望できる明野ヶ丘公園を訪ねました。

そこで朝から開かれていたのが、「LAMP LIGHT FESTIVAL 2021」。

ローカルフレンズの濱家勇さんが副実行委員長として関わっている音楽フェスで、今回が初めての開催です。

十勝のアーティストを中心に22組が出演。そして、そのうち6組は十勝の高校生です。

実行委員長の福島智大さん(30)は、特に地元の若者に十勝の魅力を再認識してもらいたい、「大人になっても十勝に住もう!」と思ってもらいたいと、今回のフェスを企画しました。

LAMP LIGHT FESTIVAL 実行委員長 福島智大さん
若い人が楽しめる場、輝ける場があったらいいなと思って。特にこの2年間、高校生たちはライブもそんなにできていなくて、気持ちはあるけれどうまく発散できていなかったと思うので。」

「十勝が好きです」

福島さんがオープニングに抜てきしたのが、足寄町の高校生スリーピースロックバンド「standard sky」です。

Vo.&Gt. ニイツケイヤさん、Ba. Kotaさん、Dr. Akihitoさんの3人が、疾走感あふれる演奏を披露し、会場を沸かせました。お客さんからは「あのバンド、高校生なの!?」と驚く声も。

演奏の終盤、ボーカルのニイツケイヤさんが思いを語りました。

standard sky Vo.&Gt. ニイツケイヤさん
「ずっと田舎は嫌だなって思ってきました。でもLAMP LIGHT FESTIVALを通じていろんな人に出会って、いろんな人のやさしさにふれて、人のやさしさなんて簡単な言葉じゃ言い表せない、もっとデカイものにふれた気がするんです。そして今日、こんなにたくさんの人に聴いてもらえている。今だから言えることがある。十勝が好きです。十勝に住んでいてよかった」

演奏終了後に話を聞くと、十勝の音楽イベントに関しては“焼け野原”だと思っていたとのこと。でも、こうしたイベントが続いていくと「十勝もいいんじゃないか」と思える――そんな風に話してくれました。

今後札幌や東京に出ていくことがあったとしても、LAMP LIGHT FESTIVALには出演し続けたいそうです。

「十勝にいてよかった」という高校生の声に、「まさにそう思ってほしかったので、それが聞けてうれしい」と喜ぶ実行委員長の福島さん。standard skyの演奏を聴いて涙が出たそうで、「一発目はstandard skyしかないと思っていた。めちゃめちゃ良かった、ありがとう」とメンバーたちに語りかけていました。

実は、福島さん自らも、学生時代からバンド活動を続けてきました。コロナ禍になってから自身のバンドは活動を休止してしまいましたが、それでも今回のフェスを企画したのには、「十勝で音楽の灯を絶やしたくない」という思いがありました。

岐阜出身で、大学進学を機に十勝へ来た福島さん。バンド活動にのめり込み、帯広のライブハウスに通って多くの音楽仲間ができました。同世代はもちろん、年上の世代も心から音楽を楽しんでいる人ばかりで、若い世代の活動も応援してくれていました。

大学卒業後も音楽を続けたいと考えた時、札幌や東京に行くという選択肢もありましたが、バンドメンバーや仲間たちがいる十勝に残り、働きながらバンドを続ける道を選んだのです。会社員として、その後はフリーのデザイナーとして仕事をする傍ら、音楽がいつもそばにありました。

(撮影 suke)

コロナで自身も仲間たちも我慢を強いられている今だからこそ、自分たちの手で十勝を楽しい場所にしたい。そして何より、多くの先輩たちに自分たちが応援してもらったように、今の若い世代を今度は自分たちが応援し、未来につなげたい――そんな福島さんの思いがたくさんの共感を呼び、フェスは初開催で670人以上が来場、アーティストやボランティアを含めると800人以上が集まるという大盛況になりました。

高校生が十勝の“食”をPR

フードコーナーでも、若者が活躍していました。

こちらの仕掛け人は、実行委員の一人、長坂実祐さん(24)。

幕別清陵高校の生徒たちと一緒に、十勝の食をPRしていました。高校生が販売していたのは、地元幕別町の忠類地区で育てられたゆり根を使ったスイーツです。

「ゆり根は収穫まで全部手作業で育てていて、ヤバいんです!」と、元気よく教えてくれる高校生。実は、フェスの前に生徒たちは長坂さんに連れられ、ゆり根農家さんのもとを訪ねていました。そこで知った農家さんの思いや苦労を、お客さんに伝えていたんです。

長坂さんが高校生と生産者をつなげてきたのは、もともと農協で働いていたこともあって、「高校生にも十勝の魅力や食材のおいしさに気づいてほしい」と思ったからでした。

今回のフェスでは地元で作られた商品を販売しましたが、生徒たちは今、地元の食材を使った新しい料理を考案しようとしています。

実は、長坂さんはクッキング部だった高校時代に料理コンテストで全国優勝したというすごい経歴の持ち主。その経験もいかして、高校生のメニュー開発を手伝っているんです。

ゆり根を使ったグラタンや春巻き、「どろぶた」という豚肉を使った肉まんなど、幕別町の特産品をたっぷり使った料理を試作中だそうです。

ちなみに、今回出店していた高校生はクッキング部…ではなく、スポーツや料理、それに地域と関わるボランティア活動など、さまざまなことに取り組む「オール部」の部員たちでした。

コロナで地域のイベントなどが少なくなってしまったため、今回が初めての出店だったとのこと。「いろんな人と関われて楽しい。今後もイベントにいっぱい出たい」と話していました。

地元の食材を使った新メニューは、今後、地域のイベントや子ども食堂で提供する予定だということです。

今回私が会場でいただいたのは、ゆり根のシュークリーム。(「今朝作られたばかりで、生地はサクサク、中のクリームはくどくない甘さでおいしいんですよ!」と高校生がオススメしてくれました。)

ほかのスイーツも気になる!ということで、翌日、ゆり根スイーツが販売されている忠類の道の駅に行ってみました。ゆり根のあんを使った大福や白玉ぜんざいも、やさしい甘さでとてもおいしかったです。

高校生は、このほかにもフェスの様々な場で活躍していました。

会場設営やステージの音響を手伝ったり、受付や場内でお客さんを案内したり、幕別清陵高校の生徒たちが出演し終わったアーティストのインタビューを収録していたり、星槎国際高校帯広の生徒たちが会場の様子を撮影していたり…。

フェスが終わってから、福島さんや長坂さんのもとに多くの高校生から「楽しかった」「いろんな人と交流できてよかった」という声が届きました。

ローカルフレンズ大集合

今回のフェスには、これまでのローカルフレンズ滞在記十勝編で出会った人の姿もありました。

1週目の上士幌町ぬかびら源泉郷で出会った、温泉と自然に囲まれ音楽を紡ぎ出すシラサキトオルさんは、一日の演奏のしめくくりを飾りました。ベースはもちろん、ローカルフレンズの濱家さんです。日中あたたかな日差しが注いでいた会場も夜は冷え込みましたが、美しい星空のもとで聴くシラサキさんのやさしい音楽が、寒さを忘れさせてくれました。

2週目の更別村で出会った料理家の中村果歩さんは、今回ボランティアで参加。

また、中札内村の絵描き・熊谷隼人さんは、フェスの来場者と一緒に絵を描いていました。今までの共同制作の中で一番多い、20人以上が参加してくれたとのこと。

実は途中で通り雨が降って絵が濡れたのですが、「それがまたいい味を出してくれたんです、恵みの雨でした」と喜ぶ熊谷さんでした。

さらに、ローカルフレンズ滞在記のテーマソング「ローカルフレンズ」を歌っているなかにしりくさんも登場。十勝に暮らすキーボード奏者、ベース奏者とともにステージに立ちました。初めて生で聴く「ローカルフレンズ」、素敵な野外の会場の雰囲気やお客さんの熱もあいまって、感動しました…。

「LAMP LIGHT FESTIVAL」という名前は、「ランプの明かりのような、あたたかい光を十勝に灯したい」という思いで福島さんが考えたそうです。その言葉通り、高校生も大人たちも輝いて見えました。楽しくあたたかな、本当に素敵な音楽フェスでした。

フェスを起点に地域を楽しく

フェスの2日後。福島さんと長坂さんに「これからのこと」を聞こうと、幕別町本町にある「Makura Showcase」を訪ねました。使われなくなった倉庫を改装したイベントスペースで、フェスのプレイベントなども行われていた場所です。

フェスの余韻で、興奮冷めやらぬお二人。「初めてのフェスは大変だったけれど、本当に楽しかったし、関わった人にも喜んでもらえた。来年もやりたい」と語ってくれました。

福島さんは「フェスは第一歩で、ここから活動を広げていきたい」といいます。Makura Showcaseの持ち主から管理人を任されることになった福島さん。この場所を使い、今回のフェスでつながりを深めた高校生や地域の人たちとともに、イベントやワークショップを企画していく予定です。

また、単発のイベントだけでなく、カフェを併設したり、子どもたちが好きに遊んだり絵を描いたりできるスペースを作ったりして、日常的に大人も子どもも来られるような場所にしたいという構想もあるそう。

「今回のフェスで、自分が住んでいる幕別町のみなさんに本当にお世話になった。町の人のためにも、自分がここで楽しく暮らしていくためにも、幕別町の地域が元気になるようなことに取り組んでいきたい」――そんな思いだそうです。

長坂さんは、高校生とともに幕別の特産品を使ったメニュー開発を進めていくほか、地域の若い人たちと生産者をつなげるような取り組みを行っていきたいといいます。

「ずっと十勝に住んでいても、意外と地元の食べ物を誰がどんな風に作っているのか知らない人は多い。高校生にも地域の人にも、食を通して地域のことをもっと知ってもらい、地元を好きになってほしい」と話してくれました。

十勝への愛から生まれる「この地ならでは」の表現

音楽、食、アート、花…この1か月、十勝の文化・芸術に詳しいローカルフレンズ濱家勇さんの案内で、様々なジャンルの“表現者”のみなさんと出会うことができました。

その中で感じたのは、どの人も、それぞれが暮らす地域や十勝全体の自然や風土、そしてその地でつながった人たちのことが大好きで、大切に思っているということ。だからこそ、その地に根ざした「ここならでは」の表現が生まれるということです。

素敵な人たちとの出会いを通して、私自身、十勝のことがもっと好きになりました。

濱家さん、十勝のみなさん、本当にありがとうございました!帯広放送局のディレクターとして、十勝の魅力をさらに深掘り取材していきたいと思います。これからもよろしくお願いします。

2021年10月28日
NHK帯広放送局ディレクター 川畑真帆


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