NHK札幌放送局

キタサンショウウオ 失われる生息地

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2023年5月26日(金)午後3時24分 更新

環境省のレッドリストで絶滅危惧種に指定されているキタサンショウウオ。体長は12センチほどです。国内では北海道だけに生息し、9割以上が釧路湿原とその周辺に生息しています。現在、湿原周辺では太陽光発電施設の建設が相次いでいます。キタサンショウウオへの影響はどうなっているのか取材しました。(釧路放送局 伊東悟)

湿原を代表する生き物キタサンショウウオ

春、釧路湿原の水たまりで青白く光るのは、「湿原のサファイア」とも呼ばれるキタサンショウウオの卵です。

4月、キタサンショウウオの観察会が釧路市で行われました。場所は住宅地近くの湿原で、多くの子どもたちが参加しました。身近にいながら、初めてキタサンショウウオを見た子どもも多くいました。

釧路湿原は国の特別天然記念物タンチョウをはじめとした2千種以上の動植物を育む、国内最大の湿地です。

NPO法人 環境把握推進ネットワーク-PEG代表の照井滋晴さんは釧路で20年以上キタサンショウウオの生態を調査しています。3年前(2020年)、キタサンショウウオの意外な生態が分かりました。

これまで、キタサンショウウオの多くが釧路湿原の中に生息していると思われていました。

しかし、実は住宅地の近く「市街化調整区域」にも数多く生息していることが判明しました。

照井さんは「釧路湿原全域に分布しているように思われがちですが、陸上もあって水辺もある市街地近くに生息しています。釧路湿原域に生息するキタサンショウウオにとって非常に大事な場所です」と教えてくれました。

相次ぐ太陽光発電施設の建設

上空からキタサンショウウオが生息する市街化調整区域を見ると、大規模な太陽光パネルが立ち並んでいる様子が分かります。

近年、太陽光発電施設が相次いで建設されています。資源エネルギー庁によりますと、釧路市内の10kW以上の発電施設は、去年(2022.12月末)までに570件を超えています。5年間で2.5倍ほどに増加し、今後も建設が予定されています。

背景には、脱炭素社会を目指した再生可能エネルギーの推進があります。再生可能エネルギーの固定買い取り制度が導入された2012年以降、建設が増加しました。一帯は地形が平らでパネルが設置しやすく、住宅地に近いため送電網が整っているという利点があります。さらに太陽光パネルは建築物と見なされず、許可なしに建設できることも追い風となりました。

照井さんの調査では、施設の建設によって少なくとも20か所以上のキタサンショウウオの生息地が埋め立てられたということです。照井さんは「キタサンショウウオの生息地と、現在太陽光発電施設が建ち始めている場所がバッティングしている状態なので、非常にキタサンショウウオにとって危機的な状況と言えると思います」と訴えます。

ガイドライン策定へ

太陽光発電施設の建設に関して、釧路湿原に隣接する鶴居村や標茶町では、条例やガイドラインを作り、すでに施行しています。釧路市もガイドラインの策定を始めました。釧路市内で10kW以上の太陽光発電施設を建設する時、▼希少な野生動植物と景観の保全に配慮すること。▼設置が適当ではないエリアを設けることなどを、明記する予定です。釧路市市民環境部 石原篤 次長は、「再生可能エネルギーの重要性というのも非常に大事です。自然との共生が実現できるように、ガイドラインに可能な限り内容を盛り込んでいきたい」と話します。

照井さんは「自然環境とそこに生息する動植物、そして私たちの生活、どれも欠かすことのできないものです。すべてが共存できる道しるべとなるようなガイドラインを作って欲しい」と期待を寄せます。

自然環境の保護と再生可能エネルギーの両立は、正解を見つけるのが難しい課題です。釧路市は、6月に開催される定例市議会でガイドラインについて報告し、すみやかな運用を目指すということです。

2023年5月26日

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