NHK札幌放送局

北海道道:ヒグマに襲われないために

ヒグマ情報

2020年7月6日(月)午後0時20分 更新

ヒグマに襲われないために気をつけたいポイントとは? 過去10年分のヒグマ事故の記録から、意外な落とし穴が見えてきた!

人身事故調査記録とは?

今回、北海道への情報公開請求で入手したのが「ヒグマによる人身事故発生に係る事故調査記録」。実は北海道では、過去30年に渡って、人がヒグマに襲われたほぼ全ての事例について、研究者による聞き取り&現地調査が行われています。どんなふうに怪我を負わされたのか、どのようにして命が奪われたのか? 事故が起きた時刻や周りの環境、そして、被害者とヒグマの動きが一挙一動書かれています。
たとえば…

「木に登っていると1頭のクマが後ろ足で立ち上がって長靴に前脚の爪を引っかけて引きずり落とされた」

「咄嗟に大声を上げながら手に持っていたキノコ鎌を振り回した」

今回はこの貴重な記録から、なぜヒグマに襲われたのか、それを防ぐ手立てはなかったのか、探ってみることにしました。

過去10年の事故調査が教えること

今回分析したのは、最近10年間に発生した事故(2010~2019)のうち、私たち一般人のヒントになると思われる計20件です。(ハンターがヒグマを狩猟中に反撃された事例を除きました。)

ここから見えてきたポイントがこちら!

1)ヒグマは人を襲いたくて襲っていない!?

ヒグマが人を襲った理由を分析してみると、「防衛反応」と考えられる事例が65%と多数を占めました。

防衛というのは…
① 人間とヒグマが互いに気付かず、ばったり遭遇してしまい、ヒグマが驚いて攻撃
② 好奇心旺盛な子グマが人間に近づいてしまい、母グマがとっさに攻撃
③ ヒグマが確保していたエサ(シカなど)に人間が近づき、エサを守るために攻撃
など。いわば、“とっさに” あるいは “やむなく”攻撃したと考えられる事例が過半数を占めていました。

一方、ヒグマが「積極的に」人を襲ったと考えられる事例は、わずか20%でした。

とすれば、不意の遭遇を避けられれば、ヒグマに襲われる危険はぐっと下がるわけですが、
次に見えてきたのがこちらのデータ。

2)キホンのキ!鈴は鳴らないと意味が無い!

山に行くなら、クマ除けの鈴は必需品! 誰もが知る基本知識だと思いますが、それをどのくらい徹底できているかに、落とし穴があるようです。

分析によると、被害にあった20人のうち、クマ鈴などの鳴り物を「持っていなかった」人がほぼ半数の11人。いつも行く場所だったり、短い時間だったりなど、ちょっとした油断があったのかもしれません。
一方、残りの9人は「持っていた」のですが…
「途中で落とした」人が1人。
「音がきちんと出ないなど、効果が薄かった」人が4人。

つまり、20人中16人はクマ除けの鳴り物が不十分でした。
今回の取材中、私がヒヤリとしたのもまさにこの点でした。
今年ヒグマの人身事故が起きた滝上町での調査に同行するとき、ディレクターの私は、クマ除けの鈴をズボンのベルトからぶら下げました。これで大丈夫、と思っていたのですが… 歩いてもくぐもった音しか鳴りません!!

北海道立総合研究機構・釣賀一二三研究主幹は、鈴は、①きちんと揺れる場所につけ ②ちゃんと音が鳴るか確認する ことの大切さを指摘します。(ちなみに滝上町の事故では、山菜採りの間、鈴のついたリュックを地面に置いてしまったため、鳴っていなかったことが分かりました。)

3)単独行動が危ない!

単独で行動していると事故に遭いやすい傾向も見えてきました。
ヒグマに襲われたとき、単独行動だった人が20人中17人。
この中には、複数人で山に行ったものの、山菜を採るためにバラバラになり、仲間が見えない場所で事故に遭っている人も含まれます。

4)何をしているときに事故にあった?

山菜採り 10件
キノコ狩り 3件
林内作業(測量や樹木の調査) 3件
登山・散歩 3件
その他 1件

5)事故に遭った時期

4~6月 9件
7~9月 3件
10~12月 6件
1~3月 2件(冬眠穴を踏んづけてしまい、ヒグマを起こしてしまった事故)

ヒグマに襲われたらどうする!? 戦うか、死んだふりか?

ここまで見てくれば、ヒグマはやっぱり避けるのが一番!なわけですが、残念ながら、遭遇してしまうことはどうしても起こりえます。では、実際にヒグマに会ってしまったらどうすればいいのか?
2014年4月4日にせたな町で起きた事例を見てみると…

適切な行動を取ったことで生還できた人がいました。久保田正義さんです。

「そりゃ壮絶ですよ。会った瞬間あんなでかいものお化けだもの。びっくりしましたよ、やっぱり」

今回はせっかくweb記事なので、番組ではご紹介できなかった「人身事故調査記録」に記載されている久保田さんの証言を、引用してみます。

【概略】14時頃。山菜採りを終えた友人と久保田さんは山を下りた。舗装路に出たところで、ヒグマは気配もなく、突然現れた。友人のリュックを引っ張り、腕に噛みつき、その後、久保田さんの方に向きを変え、攻撃してきました。しかし、久保田さんは逃げることなく、持っていたナタで戦うことにしたのです。持っていたナタを振ったとき、ヒグマの鼻に当たり、ヒグマはひるみました。それでもまだ襲おうとするヒグマに、久保田さんは対抗し続け、ついにヒグマはゆっくりと立ち去りました。

「戦うしかない 死ぬか生きるかだ」

久保田さんの行動の、なにが適切だったのか。
ヒグマの生態に詳しい、北海道大学獣医学研究院 坪田敏男教授によれば、

Qどこが適切だった?

「慌てて逃げなかったのが一番大きい。ヒグマは元々は食肉類動物で、彼らの祖先種はたぶんハンティングをしていた。逃げるものに対しては、追いかけるという行動が呼び起こされる。なので、決して逃げてはいけません」

Q鼻を攻撃したらヒグマがひるんでいたが、鼻は弱点?

「ヒグマの鼻の先は柔らかいので、おそらく顔の中では弱点と言えると思う。そこをナタ等で叩くのは、一撃を与えるという点で効果的だと思われる」

ここで大切な注意が1つ! 

Q ヒグマに襲われたら、戦うべきか??

「よし、ヒグマに襲われたら鼻を攻撃すべし!」と戦いを決断する前に、こちらのアドバイス。坪田さんによると、「戦った方がよいか、抵抗しない方がよいかは、ケースバイケース」なのだそうです。

「どっちがいいかというのは一概には言えなくて、クマの性格だとか、どのくらい興奮しているかとか、どういう状況でクマに襲われたかとか、あるいは人間側がどのくらい余裕を持っているかとか、そういうことによって変わってきますので、戦えばいいのか、死んだふりをしたらいいのか、そこはちょっとなんとも言えないですね」

実際の事故事例を見ても、ヒグマと遭遇した際、人間が焦って攻撃したことでヒグマを刺激してしまい、事態が悪化したケースもあります。一方、久保田さんのように戦わなければならなかった事例もあります。そのヒグマが戦うべきヒグマかどうか、その見極めは残念ながら一般の私たちには非常に難しいそうです。

北海道立総合研究機構の釣賀一二三研究主幹によると、ヒグマに出会った時の基本は、

「ゆっくりとクマの胸の辺りを見ながら、背中を見せずに後退し、その場を立ち去る」(ヒグマの目を見るのは、刺激する可能性がある。)

最後に…

現在北海道では、古平町周辺の山と、カムイエクウチカウシ山で、危険性の高いヒグマがいることが確認されています。一度人を捕食したヒグマは、再度人を襲う可能性が高まることから、専門家は「必要がなければ、行くべきではない。」と注意を呼びかけています。 

NHK札幌ディレクター 伊澤光之輔

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