コロナ禍の中でもアスリートは懸命に東京オリンピックを目指しています。そのうちの1人、金井大旺(たいおう)選手は男子110mハードルで出場に期待がかかる有力候補ですが、今回のオリンピックを最後の挑戦としています。大会後に目指すのは「歯科医」への道です。
(函館局 西田 理人)
オリンピックの有力候補

金井 大旺選手
「東京オリンピックは一生に間違いなく1度しかないし、このチャンスは絶対逃したくない」。
そう語る金井大旺選手(25)。前日本記録保持者でオリンピック候補に挙げられる中、この夏の大会出場を目指してトレーニングに励んでいます。

その力を証明したのが去年10月に行われた日本選手権。ピストルの音とともに持ち味の鋭いスタートを決め一気に前に出ると、その後もどんどん加速し会心の1着。高山峻野選手との新旧日本記録保持者対決を制し、13秒36で2年ぶり2度目の優勝。オリンピックに向け、存在を強烈に示しました。
大会後は歯科医に
充実したシーズンを過ごしてオリンピックイヤーに臨む金井選手ですが、今回を最後の挑戦と位置づけるのは、大会後に目標とする歯科医の道へ進むためです。

金井 大旺選手
「歯科医の父の背中を見てなりたいと思いました。オリンピック後の歯学部入学を目指しています。勉強はなるべく習慣化して空いたときにやることで、受験が終わって学生に戻ったとしてもスムーズに入れることを心がけています」。
日本トップレベルで競技しながら、高い集中力で勉強を続けています。
それでも、時間があれば競技の映像を見てしまうほど競技が好きで研究熱心な金井選手。競技から離れた後の自分の姿はなかなか思い浮かばないようです。
金井 大旺選手
「正直、競技ない生活がイメージつかなくて。走り出しちゃうかもしれないですね、道路とかで、体が勝手に動いて」。
笑いながらそう話す金井選手。小さいころから続けてきた競技生活の終わりを意識することで、より高いレベルを目指すようになったといいます。
延期も力に
去年、新型コロナウイルスの感染拡大で練習場が使えない時期もありましたが、限られた中でもできることをしようと、新たにチューブでのトレーニングにも取り組み始めました。

金井 大旺選手
「こういうトレーニングって刺激できていない部分も刺激できますし、ふだん使えていない筋肉を刺激することで走りにもつながっています」。
延期によって競技生活も当初の想定より1年伸びることになりました。日々、心身共に限界まで追い込むアスリートにとっては、私たちが思うよりも“長い1年”です。それでも金井選手は自分の能力をさらに伸ばせる期間だと捉えています。
金井 大旺選手
「本当に最後と考えると自分の悔いがないように、自分の力を出し切るというような考えになるので、そこは自分のプラスになっているなと思っています。そこをしっかりと意識して自分を奮い立たせると、かなりモチベーションが上がっていくので、毎日そういった感じでトレーニングを積んでいます」。
終わりを見据えて
金井選手の心身の変化を、周囲の人も感じ取っています。

大学時代から金井選手の体をケアする鈴木智子さん。
鈴木 智子さん
「大学1年生と比べると別人ですよね。年々体は大きくなってきていると思います。ここ最近は、やっぱり感覚が研ぎ澄まされているのかなと思います」。
自粛期間後、筋肉の質と量を上げて迎えた大会で自己ベストを更新すると、その後も自己ベストを2回も更新しました。アスリートとして集大成に近づいていると、大学時代から指導を続けるコーチも感じています。

法政大学陸上競技部 苅部 俊二監督
「だいぶ完成形に近いところに来たんじゃないですかね。(やめてしまうのは)もったいないと思います。それでも彼の人生なので、いまやりたいことを一生懸命やって、やれることをやれるところまでやって納得したら、そういった道に進めばいいと私は思います」。
金井選手は、競技生活のゴールを見据えることで自分の限界を引き出せていると話します。向き合ってきたハードルを納得して終えられるよう、勝負の1年を迎えています。
金井 大旺選手
「東京オリンピックは、僕にとっては最初で最後の挑戦です。競技生活の集大成として、一番は悔いなく終わりたいなと思っています。終わったときに『もうちょっとやれたな』とか、『もう少しこうすればいけるかな』というのが、感じずにやりきったという思いで終われたらなと思っています」。

金井選手はことし6月下旬に開かれる予定の、代表選考会となる日本選手権でオリンピック内定を争います。ことしに入って再び緊急事態宣言が出されるなど、新型コロナウイルスが感染拡大している状況ですが、金井選手は悔いなく“区切り”を迎えるために、きょうもトレーニングに励みます。
「やれること1つ1つを全力投球でやって悔いが残らないように過ごしていきたい」。