道内も暖かくなって雪も消え、まもなく田植えの時期。しかし、道内のコメ農家の中には、ぼんやりとした不安を抱えながらシーズンを迎えた人もいる。
その理由は、今年度から国の補助金の対象となる水田がこれまでより絞られることにあった。どういうことなのか。
道内9か所で説明会 「農業者への説明難航も」
4月15日、道庁にほど近い「かでる2・7」に、およそ80人の農業関係者が集まった。
冒頭を除き、報道関係者には非公開で行われたこの会合。「水田活用の直接支払交付金の見直し」を説明するために、農林水産省と道が開いたものだった。

水田活用の直接支払交付金の見直しに関する説明会
「農業者への説明はなかなか難航すると思う」
会合の終了後、ある自治体の担当者は、心配そうに語った。
こうした会合は4月、道内の9か所で開かれた。
見直しの背景には「コメあまり」が
問題となっている「水田活用の直接支払交付金の見直し」とは何なのか。
最大のポイントは「今後、5年間、コメを作付けしない水田には補助金を払わない」という方針にある。
当たり前のように聞こえるが、これまでは「水田」であれば、ずっと畑の作物を作っていても補助金が支払われていた。しかし、今回、そうした補助金はやめて水田を減らし、ニーズのある作物の生産を支援しようというねらいだ。

政策を切り替えようというおおもとには深刻な「コメあまり」がある。コメの生産は減ってはいるものの、消費がそれ以上に急速に減っているからだ。
1人あたりのコメの年間消費量は、1962年の118キロをピークに年々減少。おととしの2020年にはおよそ51キロと半分以下に減り、コロナ禍で減少傾向が加速している。
消費の回復は容易ではないため、まず関係者は生産量の抑制に取り組んでいる。道内ではことし生産する、主食用米の量の目安を去年より12%減らした。コメの生産者にとっては厳しい数字だ。
そうした中で、今回の見直しで「さらに補助金も減るかもしれない」と受け止められ、農家に動揺が広がった。
道内有数のコメどころでは
4月中旬から種まきが始まった、道内有数のコメどころ、石狩の新篠津村。

村の農協の早川仁史組合長が見直しを知ったのは、去年12月のことだった。聞いたときは驚いたと話す。
新篠津村農協 早川仁史 組合長
「9割以上の方々が水田活用(の直接支払交付金)でお金をいただいていますので、影響額は大きいと思います」

新篠津村農協 早川仁史 組合長
それでも見直しの内容を知るにつれ、冷静に受け止める農家が増えているという。
新篠津村農協 早川仁史 組合長
「日本のみなさんがなかなかお米を食べなくなってきたということは、これは事実であると。国民の皆さんが理解をしないと田んぼにどんどん税金を導入できないという、(見直しの)もともとの趣旨のところは理解している」
見直し後に目指す道は
見直しの対象となる水田を持つ農家からすると、補助金の減少はもちろん痛手となる。一方で、農林水産省は今回の見直しに伴い、ニーズが増えている家畜のエサ用のトウモロコシや小麦・大豆、それに野菜などの生産に切り替える場合は補助金を出し、支援するメニューも提示した。
専門家は、もうからない主食用米の生産にこだわらず、補助金もうまく活用して収益性のアップを図るべきだと提言している。
宮城大学 大泉一貫 名誉教授
「どちらかというと今まで水田というのは粗放で、収益性が低いというイメージだ。そうではなく水田をもっと高度に利用して収益性の高いものにしていこうということだ。これから生き残っていく農家のために大いに利用できる交付金(補助金)だろうと思う。大いに利用して経営に役立ててほしい」

宮城大学 大泉一貫 名誉教授
当然ではあるが、消費が増えているものを作れば、消費者だけでなく農家にとっても良いということになる。
今回、コメ農家の間に不安が広がった要因の1つに、「突然、方針が示された」という印象を持たれ、見直しの趣旨が十分、伝わらなかったことが挙げられる。
今後、国や道、農業団体がしっかり説明して混乱を収拾し、農家がより消費者ニーズを捉えた生産を行えるようになるかどうかに注目したい。
札幌放送局 山口里奈
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