静岡県の認定こども園で9月5日、3歳の女の子が通園バスの車内におよそ5時間取り残され、熱中症で死亡する事故が起きました。幼い子どもが送迎車両に置き去りにされるケースは北海道でも起きています。このほど取材に応じた母親は「人間は必ずミスをするので社会全体でミスをなくすシステム作りをする必要がある」と話しています。
(取材 札幌放送局 小栗高太)
道内でも同様の事例が…
4年前、オホーツク地方にある公立の保育園で当時2歳の女の子が送迎バスに2時間以上にわたって置き去りにされました。
女の子の母親の三浦そのみさんによりますと、この日、通園したはずなのに園内にいないことが後からわかり、職員に探してもらったところ、送迎バスの車内で見つかったということです。
車の鍵はかかっていませんでしたが、女の子はチャイルドシートに固定されて動けない状態で、脱水症状が見られたということです。
母親は「救急車で搬送された病院で娘の熱を測ったら37度5分あった。その後、1週間ほど寝たままで『水、水』とうなされていた」と話しています。
幸い、命に別状はありませんでしたが、母親の説明によりますと、静岡県のケースと同じように、当時、車内の確認をする担当者が不在で、代わりの職員が十分な確認を怠ったのが原因と見られるということです。

一方、保育園を所管する道は当時、この事案の発生を公表していませんでした。
これについて、道は「女の子にけががなかったことなどが理由だ」としていますが、その後、政令市を除くすべての自治体に子どもがバスを降りる際の人数確認などを徹底するよう周知したということです。
母親は「二度と同じような事故を起こしてはいけない。人間は必ずミスをするので社会全体でミスをなくすシステム作りをする必要がある」と話しています。

“軽微なケース 情報共有に遅れ”
送迎車両での置き去り事故をめぐっては、幼稚園や保育園によって所管する省庁が異なり、特に大きなけががないなどの比較的、軽微なケースについて情報の共有が遅れていると教育現場の危機管理に詳しい専門家は指摘しています。
東京学芸大学教職大学院 渡邉正樹教授
「すでに熱中症に至っていない『ヒヤリハット』事例が各地で報告されている。病気やけががなくてよかったと終わらせるのではなく、改善を行うため来年度から設置されるこども家庭庁で情報を一元的に集約し、対策を進める必要がある」

渡邉教授はすぐにでも出来る対策として、送迎バスに乗り降りする際の安全確認の方法を、保育施設ごとの「危機管理マニュアル」にも明記すべきだと提言しています。
東京学芸大学教職大学院 渡邉正樹教授
「小中学校に比べると幼稚園や保育園ではマニュアルを作成していないところも多い。作成のための研修も検討すべきだ」
幼稚園での安全対策は
どうすれば車内への置き去りをなくすことが出来るのか、札幌市内の施設を取材しました。
札幌市中央区の「大通幼稚園」では、あらかじめ送迎バスの座席を園児に割り当てていて、保育士が座席表を見ながら全員が降車したか確認するようにしています。

また、運転手が座席の最後尾まで目視で確認するダブルチェックを行っているということです。
さらに、園内にバスを止める際は座席の窓をわずかに開けておくようにしています。
これにより、万が一、園児が取り残されても車内に熱がこもらなくなるほか、声を出せば、周囲が気づきやすいということです。
幼稚園ではこれらの対策に加えて、新たに「危機管理マニュアル」に送迎バスでの安全確認の方法を記載することを検討しています。

大通幼稚園 薮淳一園長
「入園を希望する保護者からバスでの安全をどう確認しているかという問い合わせも増えている。マニュアルに具体的に記載することで、社会に向けて安全対策を発信していく必要があると思う」

子どもを園に通わせている保護者の1人は「子どもを見送った後は園側に任せるしかないので、保護者としても施設の安全対策について確認するなど気をつけていきたい」と話していました。
事故後の国の対応は
静岡県での事故を受けて、国は今後、全国におよそ1万か所ある通園バスのある施設を一斉点検し、職員がバスを降りる子どもの人数と名前を確認しているかなどを調べる方針です。
さらに国は、全国の送迎バスに置き去り防止のためのブザーを設置することを検討しています。
このブザーはエンジンを切ると鳴り始め、運転手が車内の後方まで行ってスイッチを押さないと消せない仕組みだということです。
「ほっとニュース北海道」9月21日放送