NHK札幌放送局

その雪おろし 本当に必要ですか?

シラベルカ

2022年12月23日(金)午後6時30分 更新

みなさんの疑問に答えるシラベルカ。札幌市に住む71歳男性から「屋根の雪おろし」について投稿を頂きました。
※雪おろしによる事故があとをたたないため、2021年に掲載した記事を再公開します。

札幌市 志賀幹男さん(71)
「“除雪中、屋根から落下”というニュースを見ました。ロープをつけて作業と言いますが、どうしたらよいのでしょうか?」

さっそく、「シラベルカ」取材班は、志賀さんを訪ねました。

最近、雪おろしの事故が多く「不安です・・・」

道内の雪の事故による死傷者は、全国で最も多く、年間300人ほどです。ことしも道内各地で雪おろし中の事故が相次いでいます。
札幌市に住む志賀幹男さん(71)は、中学生の頃から自宅の屋根の雪おろしを行ってきましたが、足を滑らせ転落したこともあり、安全性について最近不安を感じています。

教えて!雪おろしのエキスパート

今回、力を貸してくれたのは・・・
雪おろしのエキスパート、上村靖司教授です!
日本雪工学会の副会長を務め、ふだんは新潟県で安全な雪おろしについて研究しています。志賀さんの悩みを解決するために、新潟県から駆けつけてくれました。

上村教授「雪のことでお困りのことがあるって聞いて来たんですけど・・・」
志賀さん「そうなんです。ちょっと頭を悩ましておりまして」

雪がたまりやすい場所に上村教授を案内しました。志賀さんは、風向きによって雪がたまりやすい場所を、2階から屋根に上がって雪おろしをしているといいます。

雪おろしは必要ない!?

志賀さんの家をひととおり見た上村教授が出した答えは・・・。

「まったく 雪おろし必要ないです!」

上村教授は、札幌市の場合、140センチまでは雪おろしをしなくていいといいます。その理由がこちら。
北海道では「建築基準法施工細則」を定めて、建物が耐えられる積雪量は、各市町村で以下のようにしています。これは”50年に1度の大雪”を想定しています。

道立総合研究機構によると、この基準は、雪が水や氷を含むなどして、重くなる時期を元に算出されているということです。

そして、
①この基準を超える大雪の場合
②老朽化した建物の場合
③農業施設など造りが弱い建物などを除き、
建物の強度としては雪おろしを行う必要はないとしています。

雪おろしのエキスパート 上村靖司教授
「皆さん、自分の家がどのくらい雪が積もっても大丈夫なのか、あまり分からないと思います。建物がどこまで大丈夫なのか、工務店の方に1回聞いて頂いて、何を基準に判断したらいいのか相談していくと安心だと思います」


屋根からの落雪はどうすればいいの?

「建物は大丈夫でも、屋根からの落雪が気になります・・・」

この時期に気をつけなければいけないのが、屋根にできるひさし状の積雪「雪ぴ」です。気温が低い北海道では、大きくなりやすく、落雪時の危険が高まります。そんな時、専門業者に依頼して、雪ぴを除去することが有効ですが、自分で行う場合は、どうすれば安全を確保できるのでしょうか。

NG! はしごにのぼったまま作業

はしご・脚立の上にのぼったまま作業を行うことは危険です。上村教授によると、北海道では、はしご・脚立が倒れる、あるいは雪と一緒に巻き込まれるなどの事故が非常に多いということです。

対策① 危険箇所を示す

雪ぴの下でも人が入る必要がない場所では、赤いコーンなど目立つもので、落雪の危険がある場所を示します。赤いコーンは、ホームセンターなどで販売されています。

対策② 下から切り落とす

玄関などの毎日出はいりして、コーンで囲うことができない雪ぴは、下から切り落とします。ホームセンターなどで売っている雪ぴを切り落とす道具や、枝を切るための「のこぎり」で雪おろしができます。
その際、上村教授は2つのことに注意するべきだといいます。

  • 注意点 雪ぴの真下で作業しない
    自分に雪の塊が落ちてくることがあるからです。
  • 注意点 小さく分けて切り落とす
    大きな雪ぴをつつくと、塊のまま落ちてくることがあり危険です。まずは歯を縦方向にして細かく切れ目を入れます。その後に、歯を横方向にして切り落とします。

対策③ 命綱をつけて屋根に

対策①と②が実行できない上に、雪ぴが大きくなりすぎて危険が差し迫っているときに限り、屋根に上がらなければいけないケースもあります。
その場合、必ず安定した場所に命綱をつけて、綱を屋根から落ちない長さに調節します。さらに、ヘルメットをかぶり、複数人で作業を行います。

投稿者 志賀幹男さん
「先生にご指導頂いたことを守りながら、安全な雪国の生活を送っていきたいと思います」


これから事故を減らすためには?

北海道で多発している雪おろしの事故を減らしていくためには、どうすればよいのでしょうか。北海道の建築物に詳しい道総研北方建築総合研究所の堤拓哉研究主幹に聞きました。
北海道では、多くの事故が建物が耐えられる積雪量より少ない時に起きているそうです。

道総研 北方建築総合研究所 堤拓哉研究主幹
「屋根の積雪が60センチから70センチの時に雪おろしの事故が最も多く、事故の8割が1メートル以下の積雪で起こっている」

また、建物の性能を正確に把握して不要不急の雪おろしを減らすことが重要だということです。

道総研 北方建築総合研究所 堤拓哉研究主幹
「東北や北陸の雪おろしが必要な建物では、目安となる積雪量を見えやすい場所に表示するように義務づけられている。北海道でも雪おろしが必要な目安の積雪量の見える化を進めることで、不要不急の雪おろしを減らすことが、事故を減らす第一歩になる」

2021年1月20日放送
2022年12月23日再公開

放送を終えて 質問いただきました

シラベルカの放送を終えて、視聴者の方からさっそくご質問を頂きました。
今回、出演・指導していただいた長岡技術科学大学の上村靖司教授に聞きました。

質問)命綱はどんなものが良い?腰ベルトでも大丈夫?
回答)6.75m以下の高さでの作業の場合は、腰ベルトの仕様も許されています。しかし、ご指摘のように、万一宙ずりになると、腰骨を痛めたり、内臓が損傷したりと、命を守れても後遺症が残るということも少なくありません。
できればハーネス型と呼ばれる安全帯を使った方が良いと思います。6.75m以下ならばシットハーネスと呼ばれる骨盤を支えるもので良いですし、それ以上の高さならば、フルハーネスというものが必要になります。ただどうしても値段が高くなります。
ここからは考え方の問題ですが、「宙ずりになっても転落しない」ための安全帯と捉えるのではなく、「屋根の外にはみ出さない」ための安全帯と捉え、ロープを「 宙ずりにならない 長さ」となるよう適切に調整することが大事です。それならば、腰帯であっても最低限の機能は満たすのではないでしょうか。

取材:北見局メディア部 住田達
札幌局放送部  吉田美和

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