NHK札幌放送局

シラベルカ#24 ポンレに思いを込めて

シラベルカ

2020年10月6日(火)午後3時00分 更新

みなさんの疑問に答えるNHK北海道の取材チーム「シラベルカ」。今回は、東京から北海道に移住したおかちゃんからの投稿です。

おかちゃん
「アイヌの人々にはアイヌ語の名前があると聞きましたが、北海道に住み始めてから、アイヌ語の名前の方にお会いしたことはありません。アイヌ語の名前について調べて下さい」

苫小牧支局・中尾絢一記者の結果報告です。


アイヌ語の名前のいま

まず取材チームが向かったのは、アイヌ文化の伝承が盛んな平取町にある「萱野茂 二風谷アイヌ資料館」です。著名な伝承者として知られる萱野茂さんが48年前に作った資料館には、アイヌの民具や資料など1000点以上が展示されています。

資料館の入り口に展示されていたのは、萱野茂さんの家系図です。アイヌ語の名前が書かれています。しかし世代が変わるにつれて、アイヌ語の名前から だんだん日本語の名前に変わっていったのがわかります。

資料館の2代目の館長・萱野志朗さんがアイヌ語の名前の変遷について話してくれました。

萱野茂 二風谷アイヌ資料館 萱野志朗さん
「1871年に戸籍法ができて、それ以来、アイヌ民族は日本国籍を持たされています。例えば私の曾祖父・トッカラムは、1847年生まれですが、1871年のときに戸籍が作られたということですね。生まれたときには貝澤という名字はなかったのですが、戸籍法によって貝澤という名字になったんです」

トッカラムさんの息子の清太郎さんは、アイヌ語で「座って話す男」を意味するアレㇰアイヌというアイヌ語名も持っていました。萱野さんの家系図を見ると、戸籍法の制定以来、日本語の名前が一般的になってきたのがわかります。

萱野志朗さん
「同化政策の結果だと思いますね。アイヌ民族を日本国民化するという政策で、アイヌの人たちの名前も日本風、言葉も日本語になった。あくまでも国の政策によって、結果としてそうなった。アイヌの人たちが望んだわけではない」


アイヌ語の名前なぜなくなった?

アイヌ文化を研究する札幌大学の本田優子教授は、当時の社会がアイヌ語の名前をつけることを難しくさせていたと指摘します。

札幌大学 本田優子教授
「親はそもそもアイヌ語を教えないようにしましたし、アイヌの文化・価値観を教えないようにした。日本人として生きていくために、日本名を持たないといけないと考えられたことは当然かなと思います。だからアイヌ語が消えていくのと同じように、アイヌ名も消えていった。ある意味、消されていったのだと思います」

アイヌ語の名前がなくなっていった背景には、明治以降の政府の同化政策がありました。


アイヌ語のあだ名“ポンレ”

一方で、アイヌの人たちは、古来からアイヌ語の名前を神聖で大切なものとしていたため、普段の生活で名乗ることはほとんどなかったそうです。代わりに、あだ名をつけて呼び合っていました。本田教授が最近、名前をめぐって新しい動きもでていると教えてくれました。

そこで取材チームが訪れたのは、ことし7月に白老町にオープンしたアイヌ文化の発信拠点、ウポポイです。

迎えてくれたのは、ウポポイの職員の荒田このみさんと山丸賢雄さん。名札にはアイヌ語の名前が!

ウポポイの職員 山丸賢雄さん
「ポンレっていうアイヌ語のニックネームになっていまして、私たちウポポイ職員はアイヌ語の名前で呼び合っています」

ウポポイの職員には、本名や子どものときのエピソードにちなんだ「ポンレ」=アイヌ語のあだ名がついています。荒田さんと山丸さんは、職員からアンケートをとって一人ひとりのポンレをつけています。

ウポポイの職員 荒田このみさん
「私の本名は“このみ”ですが、そこから“ニヌㇺ”=木の実という意味のポンレをつけました」

ウポポイ内を巡ってみるとユニークなポンレを持つ職員にたびたび出会いました。村木美幸さんのポンレは「イタンキトゥイ」。イタンキ=「おわん」、トゥイ=「切る」で、「禁酒する」という意味だそうです。

ウポポイ運営本部 村木美幸 副本部長
「とてもお酒が好きなおじいちゃんでしたが、かわいい孫が生まれてお酒ばっかり飲んでいると嫌われちゃうよということを周りに言われて、お酒を一切飲まなくなりました。おじいちゃんに禁酒をさせた孫ということでイタンキトゥイというポンレがついています」


文化理解のきっかけに

山丸さんは、アイヌ語の名前を通して、多様な文化を理解する社会になってほしいと考えています。

ウポポイの職員 山丸賢雄さん
「ウポポイを通じて、今やっとアイヌのアイデンティティーを発信できるという環境に立場が向上してきています。名前を通してルーツをつなげていくきっかけにもなると思います」


取材後記

ポンレには「名前」という身近なところからアイヌ語に触れてほしいというウポポイの職員の思いも込められていました。取材の中では感じたのは、アイヌにルーツがあることを隠したいと思う人が今でも多くいるという現状です。誇りをもってアイヌ語の名前を名乗れるような社会に少しでも近づいていってほしいと感じました。

取材担当 中尾絢一
     吉田美和


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