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WEBニュース特集 最新研究 津波の浸水予測

北海道WEBニュース特集

2018年10月31日(水)午後1時00分 更新

北海道の千島海溝で切迫しているとされるマグニチュード8.8程度以上の巨大地震。ひとたび発生すると、20メートルから30メートルの津波が押し寄せるとされています。この巨大津波に備えようと、北海道大学で最新の研究が進められています。それは、津波の「浸水範囲」を地震発生からわずか数分で予測してしまおうというものです。津波から1人でも多くの命を救おうという最新の研究を追いました。

【現在の津波の予測は】
津波の予測は、現在、気象庁が地震発生後3分程度で「沿岸の津波の高さ」と「到達予想時刻」を発表しています。これは、世界的に見ても非常に早い予測と言われています。
ただ、東日本大震災では、沿岸の津波を数メートルと予測した場所で10メートルを超える津波が押し寄せるなど、予測の精度には課題が残りました。
気象庁の津波の予測には、地震の「震源」や「マグニチュード」といった情報が欠かせず、これらを正確に特定するのは時間がかかるからです。

【地震情報いらず浸水範囲予測】
一方、北海道大学で研究が進められているのは、繰り返し襲う津波が陸地のどこまで入り込んでくるのか、その最大の浸水範囲を地震発生わずか数分後に予測しようという、これまでにないものです。
研究を進めているのは、北海道大学の谷岡勇市郎教授です。
谷岡教授が6年前から開発しているシステムでは、津波の予測に地震そのものの情報は必要ありません。
システムに活用するのは「S-net」と呼ばれる津波の観測網です。

津波の観測網 Sーnet

東日本大震災のあと、防災科学技術研究所が太平洋側の沖合に設置した津波の観測網で、総延長は5500キロに及びます。
深いところで海底およそ7000メートルに設置された津波計が、津波で起きる海面の変動による圧力の変化を直接観測し、ケーブルを通じてデータを地上に送ります。
現在は、気象庁が観測で使っていますが、観測データは、近い将来、北海道大学など全国の研究機関にもリアルタイムで送られる見通しです。

北海道大学 谷岡勇市郎教授

谷岡教授は研究を始めた動機について、「世界的にみてもこれだけの観測網が整備されたのは日本だけで、この観測網を将来の津波予測になんとか役立てたいと考えた」と話しています。

【カギは波形ごとのデータベース】
この「S-net」を利用して、どのように津波の浸水範囲を予測するのでしょうか。
まず、事前に巨大地震で起きる津波の波形ごとに、陸地がどう浸水するかをコンピューターでシミュレーションし、500パターン以上のデータベースを作っておきます。

実際に地震が起きると、津波発生からおよそ2分後に、S-netで観測した沖合の津波から、沿岸の波形を算出します。
すると、データベースの中から、この波形で浸水する範囲に最も似ている予測が導き出されます。
この間、わずか6分です。
谷岡教授は、「30分後に津波が到達するとすれば、20数分の余裕ができるので、その間に避難行動をとることができる」と話していました。

【東日本大震災モデルに検証】
システムの実用化に向けて、谷岡教授は東日本大震災の時の巨大津波をモデルに検証を行いました。以前の観測システムで捉えた津波が発生してから2分後までのデータを使って、東北地方の浸水範囲をシミュレーションしました。
浸水予測の結果がでたのは、わずか6分後。津波が陸地に到達するおよそ30分前でした。

赤く囲われているのが岩手県陸前高田市の浸水予測で、青い線が実際の浸水範囲です。
内陸側で一部浸水範囲を実際より大きく予測したものの、数字が「1」に近いほど精度が高いとされているなかで、結果は0点96と、ほぼ一致していました。
さらに南三陸町と釜石市で検証した結果でも、浸水範囲がおおむね一致しました。

【千島海溝でもデータベースを】

千島海溝でおきる津波のシミュレーションの1つ

現在、谷岡教授は千島海溝の巨大地震でも、北海道に押し寄せる津波の浸水範囲を予測しようと、
データベースの作成を進めています。これまでに300あまりのパターンのデータベースをつくりました。
「S-net」の観測データがリアルタイムに使えるようになれば、システムの予測結果をいち早く自治体などに提供し、住民の避難や人命救助に活用できると考えています。
谷岡教授は、「千島海溝の巨大地震もいつ起こるか分からないという状況になっているので、一刻も早く被害予測に役立てたいと考えている」と話していました。

谷岡教授は、将来的にはこのシステムをスマートフォンの位置情報と連動させて、いま自分がいる場所が何分後に浸水するのか知らせたうえで、どのようなルートを通れば安全に避難できるか知らせる仕組みを構築することを目標としています。
津波の警報が出ても自分だけは安全だと思って逃げない人も、実際に今自分のいる場所まで津波が押し寄せるとわかれば、すぐに避難行動につながると期待しています。
システムの実用化には、実際の津波のデータで精度を検証する必要があるなど、課題も残されています。
ただ、谷岡教授のこのシステムは、ヨーロッパなどの国際論文にも掲載され、海外からも高い関心が寄せられています。
千島海溝の巨大地震では、釧路、根室、十勝で震度6強の揺れの地震が起きると予測されています。
津波が沿岸に押し寄せるのは、地震発生から20分から30分とされています。
巨大津波に対して、最大限の注意喚起で避難を促し、1人でも多くの人の命を救おうという今回のシステムが、早期に実用化できるのか、今後の研究成果が期待されます。

(2018年10月16日放送)

札幌放送局 米澤直樹記者


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