NHK札幌放送局

牛を襲うヒグマ「OSO18」と酪農地帯の環境変化

ヒグマ情報

2021年10月15日(金)午後2時03分 更新

標茶町内に設置された監視カメラが捕らえた、通称「OSO18」(おそじゅうはち)と見られるヒグマです。 体重300キロのオス、牛を繰り返し襲い、道東の酪農家に恐れられています。

北海道東部の酪農地帯で、ヒグマが、放牧中の牛を襲ったり、飼料にするデントコーンなどを食い荒らしたりする被害が相次いでいます。被害の背景を探ると、ヒグマの増加とともに、酪農地帯の環境の変化が浮かび上がってきました。

乳牛57頭を襲ったのは…

標茶町と厚岸町で、2019年から2021年9月末までに、OSO18が乳牛57頭を襲ったとみられています。

この地域ではそのほかのヒグマの目撃情報も急増しています。2020年はおよそ100件、その7年前の3倍にのぼりました。道東と宗谷地方では、ヒグマの頭数が30年前の倍、およそ4000頭に増加したと見られています。

ヒグマの専門家で北海道立総合研究機構の間野勉 専門研究主幹は、ヒグマと、人や牛の距離が近くなっていると指摘します。

間野 専門研究主幹
「ヒグマが、牧場の中、近くにやってきて、そこで、人間が気がつかないうちに家畜と接触している」

酪農の大規模化とヒグマ

なぜヒグマの被害は増えたのでしょうか?要因の一つは“大規模化”です。
道東有数の酪農地帯、厚岸町と標茶町では一つの酪農家が多くの牛を飼育する“大規模化”が進んでいます。

厚岸町で60年、酪農を営む、佐々木牧場を訪ねました。経営しているのは、3代目の佐々木操さん(39)です。

2021年7月、近くの牧場で牛が襲われ1頭が死にました。佐々木さんの牧場では被害はなかったものの、ひと事ではありません。

酪農家 佐々木さん
「自分の牧場の牛も襲われるかもしれないって言う不安はあります」

佐々木さんの牧場で飼っている牛は220頭。父親の代に比べ、3倍に増やしました。機械化を進め、少ない人数で多くの牛を飼うことにしました。
乳価が上がらないなか、しぼる量を増やすことが、経営に欠かせないからです。

酪農家 佐々木さん
「現状では、大規模化していくしか方法が無いのかなと思っています」

ヒグマを40年にわたり研究している、間野 専門研究主幹は、この ”大規模化” で、飼っている牛の一頭、一頭に人の目が届きにくくなったことで、ヒグマによる被害が増えていると考えています。

間野 専門研究主幹
「野生動物は変化を見逃しませんので、当然、自分たちにとって都合のいい、環境条件が整えば、遠慮なく使おうとしてくる」

デントコーンとヒグマ

ヒグマ被害の増加のもうひとつの要因は、デントコーンの作付面積が広がったことです。
飼料用のトウモロコシのデントコーンは、茎や葉とともに牛のエサになります。牧草に比べ栄養価が高く、倍近くの収穫が得られます。

このデントコーンは、ヒグマの大好物でもあります。八雲町のデントコーン畑を上空から見た映像がこちらです。

赤い矢印はヒグマが食べたあとです。こうしたデントコーンの被害は、ヒグマによる農業被害のおよそ6割を占めます。

国がエサの自給率向上のため作付けを推進したことや、気候の温暖化で道東でも栽培が可能になったことなどから、デントコーンの作付面積は広がってきました。

佐々木さんの牧場でも、牧草地に変えて、デントコーンの作付けを広げています。

佐々木さん
「コストを下げることが出来ますし、たくさん食べてくれれば牛乳もたくさん出してくれます。収入アップという部分でも大きな役割があるのかなと思っています」

間野 専門研究主幹は、ヒグマがデントコーンに引き寄せられ、行動様式が変化していると指摘します。

間野 専門研究主幹
「ヒグマが酪農地帯へ食べ物を探しに行ってそこで食事をする、クマたちがやってきて居座ってしまう。そういう場所に変わってきています」

ヒグマとの共存をどうするか

佐々木さんは、酪農を次の世代へ残すため、今後、牛の頭数をおよそ2倍の400頭に増やす予定です。加えて、ヒグマから牛を守る方策が欠かせないと考えています。

酪農家 佐々木さん
「この地域の酪農を守るためには大規模化は必要なのかなと思っています。ヒグマから牛や人を守るかたちを模索しないといけないのかなと思っています」

間野 専門研究主幹に、これからのヒグマとの共存のあり方について聞きました。

間野 専門研究主幹
「農村の環境をもう1回見直しをして、時間がかかるかもしれないけれど変えていく。北海道の社会の総力戦でクマの対策にのぞむと、そのくらいの覚悟で今後対策に真剣にのぞんでいかないと、問題の解決は困難だと考えます」

牛を襲うOSO18は、箱わななどを設置しても、警戒心が強く捕獲できていません。(2021年9月時点)
ヒグマ対策には高圧電流を流す電気柵が有効と言われています。しかし、広大な酪農地帯を囲うためには、大きなコストと維持管理の手間が必要です。

取材・撮影 川畑直也 釧路局カメラマン

となりのヒグマ2021 ヒグマがまちにやってきた web
山も森もない札幌市東区の市街地にヒグマが現れた。ヒグマはどこから、どうやってやってきたのか。人間とヒグマの関係が新たな段階に入ったことを知らせている。
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