NHK札幌放送局

ディープインパクトの産駒 世界へ挑む

北海道クローズアップ

2019年11月28日(木)午前11時34分 更新

2019年7月にこの世を去った、史上最強と呼ばれた伝説の名馬・ディープインパクト。その血を引く子と孫が世界最高峰レース・凱旋門賞に挑戦しました。初となる夢の舞台で悲願達成なるか。戦いの舞台裏に迫ります。

名馬の血統 世界も注目

7月に苫小牧で行われた子馬の競り市。海外のバイヤーたちが注目していたのはディープインパクトの子どもたちです。

「ここにきた理由?もちろんディープインパクトだよ」(アイルランドのバイヤー)
「ディープインパクトの血を引く馬に注目しているよ。当然、他の国のバイヤーたちも狙っているけどね」(オーストラリアのバイヤー)

4億7000万円という、2019年の競りの最高額をたたき出した1頭も、ディープインパクトの息子でした。北海道で生まれたサラブレッドに、いま世界中から関心が寄せられています。

父から継いだ才能 世界制覇へ

毎年10月パリで開催される競馬の世界最高峰レース「凱旋門賞」。国内では三冠馬として圧倒的な強さを見せたディープインパクトでさえ跳ね返された世界の高い「壁」に挑んだのは、その産駒たちです。

ディープインパクトの息子「フィエールマン」。ディープインパクトを生んだ日本有数の牧場、安平町の「ノーザンファーム」で生まれ育ちました。父親ゆずりの鋭い伸びで、GⅠレースを2勝しています。ノーザンファームは世界制覇の夢に挑むため、最高の環境作りを進めてきました。

「ディープインパクトで凱旋門取れなかったっていうのは、馬主さんもそうですけど、うちの人間としても相当悔しかったと思いますよ。世界最高峰と言われるレースを取りに行く姿勢だけは会社のDNAとして残っていると思いますね、ずっと」(ノーザンファーム調教担当 横手 裕二さん)

凱旋門賞の1か月半前。フィエールマンは、福島県にある施設「ノーザンファーム天栄」で調整を行っていました。

施設の責任者・木實谷 雄太 場長は、フィエールマンの持ち味である父親から受け継いだ「鋭い伸び」をさらに強化しようとしていました。その鍵を握る独自の施設が、坂道の調教コース「坂路」。日本最大の高低差36mの急勾配を、一気に駆け上がることで蹴る力を鍛える狙いです。クッション性の高い素材を分厚く敷き詰め、脚への負担を最小限に抑える工夫もしています。

「凱旋門賞で言えば2分半前後、その2分半のためにすごい長い時間をかけています。だからその2分半のためにできることがあれば、それがどんな細かいことであれやっていきたいと思ってます」(ノーザンファーム天栄 木實谷 雄太場長)

初の大舞台 転機となった「ある決断」

一方、今回初めて凱旋門賞に挑む人たちもいます。80年前に創設された日高町の「下河辺牧場」です。

下河辺牧場で生まれ育ったディープインパクトの孫「キセキ」。ダイナミックな走りを武器にGⅠレースを制しています。

牧場の3代目・下河辺 行雄 代表は、凱旋門賞は手の届かない「夢の舞台」だったと言います。祖父が切り拓いた牧場から凱旋門賞に挑戦する馬が生まれたのは、先代である父・俊行さんが下した「ある決断」がきっかけでした。

30年前、俊行さんは世界に通用する馬を作りたいと、アメリカから1頭のメス馬を買い付けました。すると、その娘である「ロンドンブリッジ」がGⅠレースで2着になったのです。この血統を「」として育てていくことを決めた俊行さんは勝負に出ました。

ロンドンブリッジに、種付け料が高額のディープインパクトを交配することにしたのです。そして5年前に孫として生まれたのが「キセキ」でした。親子3代が挑み続けてきた「馬づくり」への思いが実を結んだのです。

「先代、先々代が一生懸命土を作って草を作って、日高に馬産を根付かせてくれた。それを自分たちが継いで、育ててきたという自負はある。ディープインパクトをどういかすかっていうのは日高のチャレンジ。挑戦でもある」(下河辺牧場 下河辺 行雄 代表)

何が正解なのか 勝利への手がかりを探る

8月半ばから、パリ郊外の森の中に作られたヨーロッパ屈指の調教場で調整していたキセキ。豊かな自然に囲まれ、ストレスを抱えることなく調教に集中する日々を送っていました。

キセキを3年間つきっきりで世話してきた調教助手・清山 宏明さんは、この調教場で凱旋門賞制覇の手がかりをつかもうとしていました。世界から超一流の馬が集まる凱旋門賞は過去97回のうち、66回をフランスの馬が制した地元有利のレースです。その理由のひとつと言われているのが、日本とフランスの「馬場の違い」です。

固く反発が大きいため、パワーがなくても速く走ることができる日本の馬場に対し、フランスの馬場は柔らかく力が吸収されてしまうため、よりパワーが求められます。清山さんが注目したのは、地元の馬たちが歩く「遊歩道」。日本にはない柔らかく深い土を強く蹴って歩くことを身につければ、よりパワーのある走りにつながるのではないかと考えたのです。

清山さんはトレーニングメニューを見直し、キセキを遊歩道で1時間じっくり歩かせました。何が正解か分からない競馬の世界。馬の力を最大限に引き出すための模索が続いていました。

父・ディープと同じ課題に直面

一方、ノーザンファームのフィエールマンはイギリスで調整をしていました。凱旋門賞に向けた準備はフランスで行うことが常識とされてきたなかで、初となる試みでした。決め手となったのが、滞在する調教場にある「坂路」のコース。日本に似た環境で調教を積むことで、万全の状態でレースに臨めると考えました。

レースまでおよそ3週間。現地に入って初めての調教で、足慣らしのため坂路を駆け上がるフィエールマンの姿に木實谷さんの表情が曇りました。まだ全力で走らせたくないこの時期。闘争心を抑えきれず、騎乗したスタッフの言うことを聞かなかったのです。思い返せば、ディープインパクトにも我慢して走ることを繰り返し教え込んでいました。フィエールマンは父と同じ課題に直面していたのです。

レースの4日前。フィエールマンは最後の調教の日を迎えました。本番で騎乗するジョッキーが実際に乗って感触を確かめる、重要な調教です。我慢強く先行する馬の後ろにじっと控え、最後に鋭く伸びて追い抜く理想のレース展開を覚え込ませます。

狙い通り、ジョッキーの指示に従って鋭い伸びを見せたフィエールマン。イギリスでようやく手応えをつかみました。

凱旋門賞を制したのは…

いよいよレース当日。4万人以上の大観衆で埋まった競馬場。

パリは早朝から雨に見舞われ、柔らかな芝と土が多くの水分を含んだ馬場は、日本の競馬場にはないほど厳しい条件になっていました。

そして迎えた、勝負のとき。柔らかな馬場が、序盤からスタミナを容赦なく奪います。

最後の直線。フィエールマンとキセキの走りから力強さがなくなっていき、差がどんどん広がっていきます。

凱旋門賞を制したのは、またしてもフランスの馬でした。日本の馬では最高の7位となったキセキ。下河辺代表はすでに先を見据えていました。

「もう充実感いっぱい。で、また来ようってね。後ろは向かない。前を向きます。実際にうちではキセキの弟が生まれてますしね。じゃあこの子をどうやってこの舞台にまた持ってこよう、そういうことを考える。前に前に行くしかないですもんね、それに尽きると思います」(下河辺牧場 下河辺 行雄 代表)

一方、鋭い伸びを発揮できなかったフィエールマン。ノーザンファーム天栄の木實谷 雄太場長は、今回の凱旋門賞で課題を得たと感じていました。

「今回の海外遠征は馬も人も初めての環境で、初めての舞台で調整を進めていくなか、地図のない森の中を出口も分からずさまよって出口を探して扉を開けてみたというか。今回のこの経験を、次、またその次に生かしていかなくてはいけないと思っています」(ノーザンファーム天栄 木實谷 雄太場長)

ディープインパクトの血を継ぐサラブレッドにいつか叶えてほしい「夢」。世界の「頂点」に向けて、馬産地・北海道の挑戦は続きます。

2019年10月11日(金)放送
北海道クローズアップ
「名馬の遺志をのせて~馬産地・北海道 世界最高峰への挑戦~」より

●放送予定
BS1スペシャル
「名馬ディープインパクトの遺志をのせて ~日本競馬 世界最高峰への挑戦~」(仮)

放送:12月28日(土)午後9時00分~(BS1)

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