知床半島沖で観光船が沈没した事故は10月23日で発生から半年になります。
事故のあと、安全運航の自主ルールを設けて営業を続けてきた地元の観光船事業者は、信頼回復への重い課題を背負って歩んできました。 (北見放送局 新島俊輝)
観光船事業者 自主ルールで安全運航
夏場の観光シーズンが最終盤を迎えた斜里町ウトロ。
地元で営業を続けてきた小型観光船は10月20日、今シーズンの運航を終えました。

運航会社の統括部長を務める神尾昇勝さんは、事業者でつくる協議会の会長として、未曽有の事故に向き合ってきました。
知床小型観光船協議会会長 神尾昇勝さん
「苦しい半年だった。事故ではたくさんの方がお亡くなりになられ、運航期間中は事故のことを忘れた日はなかった」

事故で失った信頼をどう回復していくのか。
乗客の安心を取り戻すために、神尾さんたちがまとめ上げたのが安全運航の自主ルールでした。それまで会社ごとに異なっていたルールを統一して、ことし6月に運航を再開しました。
どのように安全を保ってきたのか、営業中の対応を見せてもらいました。
まずは運航判断。当日の天候や海の状態を確認して複数の事業者で決定します。

神尾昇勝さん
「朝の運航判断の数値を見て、そのほかの人たちも天気予報を見て、すり合わせて他業者間の了承になる」
仮に事故が起きても速やかに対応できるよう、港には待機船を用意しています。
船長は乗客に、待機船の存在を知らせます。

運航中はルールで定めた通信手段で事務所と連絡を取って、安全を確認します。

船長
「天気晴れ、風なし、波10センチ、視界良好、以上」
神尾さん
「はい、了解しました。波大丈夫かな? 分かりました。気をつけてお願いします」

残された課題はなお…
ただ、安全対策を尽くしても事故のダメージから抜け出すのは簡単なことではありません。
今シーズンの乗客数は、コロナ禍前の3年前に比べて3割ほどに激減。乗客が集まらないため、9月で運航を切り上げた業者もありました。
神尾さんは信頼の回復に近道はないと改めて感じています。
神尾昇勝さん
「『どうぞ来てください』というような気持ちにはまだなれない。乗っていただいたお客様に評価していただく。信頼をまた一から積み重ねるということしかないのは、ずっと変わらない。元どおりに近づけるような努力は今後も変わらないと思う」

信頼回復へ 模索続く知床
知床ではこれから、冬場の観光シーズンに向けた準備が始まります。
オホーツク海に押し寄せる流氷や真冬の野山を体感するアクティビティーは知床観光の魅力の1つですが、事故のあと伸び悩む観光客にどうアピールしていくかは大きな課題です。

地元の観光協会では年内にも自然ガイドなどを集めて安全対策のルールを再確認しながら、知床観光に再び目を向けてもらうきっかけをつかみたいと考えています。
知床斜里町観光協会 新村武志事務局長
「観光事業者も正直いま非常に苦しい状況になっている。この冬の流氷観光に向けては何らかの形で動けるように検討していきたい。知床にまず来てもらう、そして地域を見てもらう、まずはそこからかなと」

地元の斜里町では自然体験型の観光のリスクを見直して、地域全体で安全管理体制を構築する議論も進められています。
多くの犠牲者を出した事故から半年。知床では地域を支えてきた観光を見つめ直す時間が続いています。

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