NHK札幌放送局

相次ぐ裁判、2つの労組、そして刑事告発 ~異例の労使紛争で揺れる函館バス~

道南web

2023年9月15日(金)午後7時28分 更新

「函館バス」で労使協定を結ばないまま乗務員らに不当な時間外労働などをさせているとして、社長ら幹部2人と法人としての会社が刑事告発された。労働組合が刑事告発に踏み切るのは異例の事態だ。函館バスでは、この3年間で訴訟などが相次ぎ、労使紛争が激化の一途を辿っている。長年、道南で地域の足を担ってきた会社で、いま何が起きているのか。
(NHK函館放送局  白野宏太朗) 


会社を刑事告発

労働組合・私鉄総連函館バス支部は、13日、函館労働基準監督署を訪れ、社長と常務の幹部2人と法人としての会社を労働基準法違反の疑いで告発した。
告発状によると、函館バスではおととし以降、一部の乗務員らと「36協定」と呼ばれる労使協定を結ばずに時間外労働や休日労働をさせる一方で、組合側が改善を要求しても受け入れず、労働基準法違反の疑いがあるとしている。

告発状を提出したあと開かれた会見で、労働組合の幹部らは「地域交通はお客様にとって安心安全であるべきだ。一連の対応を会社に是正してもらえるよう、労基署には対応いただきたい」と訴えた。


函館バスとは

函館バスは創業79年で、社員数がおよそ270人。函館市内の本社のほか、道南各地に8つの営業所があり、路線バスなどを運行している。コロナ禍もあり、乗客数は大幅に減少していて、令和4年度はおよそ700万人と、5年前の平成30年度に比べ150万人近く落ち込んだ。会社は慢性的な赤字だが、函館市からは令和4年度5200万円の補助金を受けたほか、国や道からもそれぞれ毎年、数億円規模の財政支援を受けている。いわば補助金頼みの中、道南地方で路線バスを展開するする唯一の事業者だ。函館市内だけでなく、函館~長万部間、函館~せたな間など複数の長大路線も運行していて、道南の各自治体にとっても、地域公共交通の重要な役割を果たしている。


相次ぐ裁判  別の新たな労働組合も

存在感を示す一方、その裏では激しい労使紛争が起きていた。裁判所の判決文や労使紛争の解決を目的とした行政機関「労働委員会」の審議録によると、令和3年5月以降、会社が団体交渉といった労使協議に応じなくなったという。労使協議が破綻した末、これまでに提起された裁判は、函館地裁と札幌高裁で審理されているものを含めてあわせて14件あり、労働委員会にかけられたものも含めると、この3年間で起きた紛争事案は20件以上にも上る。
こうした中で、去年、会社には別の労働組合・新函館バスユニオンが新たに設立され、現在、従業員の過半数がこちらの労働組合に移った。もともとあった組合が2つに分裂したという状況だ。

数々の裁判や労働委員会の決定で私鉄総連函館バス支部の訴えが支持されたが、多くの裁判所の命令や判決、それに労働委員会の勧告や決定について、会社側は不服などを理由に控訴している。


労働基準監督署と函館市の対応は

関係者によると、ことし2月に労働基準監督署は是正勧告を視野に函館バスの調査に乗り出した。しかし会社は、これまでに立ち入り調査や資料の提出に応じていないという。

一方、労働組合は主要株主の函館市に「公益通報」を行ったが市は「所管する法律がない」などとして対応を見送っている。函館市の9月定例議会で、函館バスに関する一般質問を受けた市の担当者は「個別労使間の紛争は話し合いで自主的に解決することが原則となっていて、仮に解決することが困難となった場合は、労働委員会などで解決を図っていくことになっている」などと話し、市としては具体的な言及はせず、対応を外部機関に委ねた。


元従業員2人が現場の実態を証言

今回の事案を受けて、函館バスを退職した元従業員の男性2人が、現場の実態を少しでも知ってほしいと、匿名を条件にNHKのインタビューに応じた。

このうち、離職直前まで長時間労働に苦しんだという男性は、過酷な勤務が慢性的に続いていたことを明かし、会社による従業員への対応改善を訴えた。

元従業員の男性
「1日に16時間ほどの長時間労働が日常的で、ほぼ丸1日、会社にいるみたいな感じだった。バスを運転する時間が10時間ほどもあり、とにかく疲労が取れず体力的にも限界だった。仕事の内容に見合った賃金でもないので、会社が働き方の改善に乗り出すなど、今いる人材を大切にするという姿勢を示さなければ新たな人材の確保は難しいと思う」

一方、営業所の管理職を務めながらも労使トラブルによる職場環境の悪化に耐え切れず自主退職したという男性は、苦しい胸の内を述べた上で、現場で使命感を持って働いている元同僚たちへの理解を求めた。

元管理職の男性
「入社した時は退職の年齢になるまで勤め上げようと思っていたし、仕事にやりがいはあった。職場の風通しを良くしようと思って管理職にもなったが、組合と会社の労使関係の悪化から『経営幹部に意見をすると辞めるしかない』という圧力があり、会社を辞めるという決心をするしかなかった。それでも公共交通は絶対に必要だと、いまも辞めずに残る元同僚たちがいて、利用者のために歯を食いしばってバスを運転している」

会社関係者によると、函館バスでは長時間労働などを苦に従業員の退職が相次いでいて、自主退職者は3年前からことし8月末までにおよそ90人に上るという。


利用者の受け止めは?

函館バスが刑事告発されたことについて、複数の利用者から受け止めも聞いてみた。

80代男性
「経営者は労働者ときちんと話し合いをするべきだ。やはり従業員を大事にしないと会社も先行きが細っていくと思う」
70代女性
「なんとか話し合いで穏便にできたらよかったなと感じるし、働いてくれる方がいての会社ではないかと思う」


専門家“極めて大きい問題”

いわゆる「ブラック企業」をめぐる事件も手がけるなど、労働問題に詳しい弁護士は、団体交渉により解決を図ろうとするのが一般的な労働組合が、刑事告発に踏み切った今回のケースは珍しいとし、一連の労使トラブルが極めて異例なものだと解説した。

労働問題に詳しい  太田伸二弁護士
「会社は法的根拠のない紛争を続けるよりも、労使関係の改善を目指して話し合いのテーブルにつくべきだった。多額の公的資金も投じられている企業として身の振る舞い方に慎重になるべきところを『労働法規が何のその』という逆行した態度を取っているようにしかみえない。労働基準監督署の調査は、その強制力や罰則の有無に鑑みて従わなくていいとするものではなく、会社の態度は遵法精神を欠いたものと言っていいだろう。会社側の強い組合敵視が紛争を激化させる要因になっているとみられ、このまま事態が続けば、回りまわって経営や交通への影響が懸念される。その意味で、これは市民を巻き込んだ極めて大きい問題だ」


告発の疑いを社長は否定  函館バスは今後どうなる?

「ただの内輪もめ」として無視できない、異例の展開をたどる函館バスの今回の労使紛争。捜査機関である労働基準監督署の今後の対応や、断絶した労使協議の行く末などが注目される。
告発された函館バスの森健二社長は、NHKのこれまでの取材に対して、「不当な労働行為は行わないよう配慮してきた。また、労基署の調査に強制力はなく、応じるかどうかは企業が判断することだ」と話している。

2023年9月15日


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