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なぜその番組を作ったのか?コンテンツに込めたメッセージとは?NHK北海道の職員、作り手たちの情熱や想いに迫るインタビューシリーズ「Do!」 第6回では、第一線で新型コロナウイルスの取材を続ける浅井優奈記者に話を聞きました。
 
〔Photo By 出羽 遼介〕
 〔聞き手 富浦 麻穂(NHK札幌拠点放送局 広報)〕
 ※感染対策を十分にとったうえで撮影しています


最前線で闘う医療従事者に密着

――普段はどういう分野の取材を担当していますか?

主に医療や教育の分野を担当しています。この一年は新型コロナウイルスの取材をずっと続けてきました。遊軍記者なので、医療や教育に限らず自分の関心のあるテーマに基づいて取材することもあります。札幌局に来る前、函館局にいた頃は事件・事故の取材を主に担当していました。

――新型コロナウイルスの取材は第1波から担当していたそうですね。

第1波の時は函館局にいて、道内で感染が拡大し始めた2020年2月頃からコロナウイルスに感染して亡くなった方のご遺族や病院関係者などの取材を始めました。そのあと札幌局に異動してからも、引き続きコロナウイルス関連取材を担当しています。

――当時は新型コロナウイルスがどんなウイルスかまだわかっていない部分も多かったですが、取材にあたって怖さはありませんでしたか?

感染したらどうしようという怖さはそこまでありませんでした。むしろ取材相手の方がもっと怖い思いをしているので。それより、自分が仮に既に感染していて、取材相手にうつしてしまったらどうしようという怖さの方が強かったです。

――患者や医療従事者など様々な方に会っていると思いますが、特に印象に残っているエピソードはありますか?

道内で感染が拡大し始めて間もない頃、亡くなった方のご遺族に会いに行ってお話を聞いた時のことは印象に残っています。感染が広がり始めたばかりの時期だったので、コロナウイルスがどんな病気なのかという情報が少なかったですし、まだまだ感染者に対する偏見が強い時期だったので、報道する中でそうした部分も難しいなと色々なことを感じました。私にとってコロナウイルス関連取材の原点になっています。

――取材中に意識していること、気をつけていることはありますか?

コロナウイルスに感染した方に話を聞いていると「周りに申し訳ない」と自分を責めている人が多いのですが、感染した人が悪いわけではないので、それを大前提に、まずは相手の方の気持ちを丁寧に聞く、寄り添うということを大事にしています。

――若い人が感染し、家庭内感染で両親にもうつしてしまったというケースもありましたね。自分がかかったことに対して罪悪感を感じている人が非常に多いなと感じます。

自分がもしも感染したら……ということを考えると、非常に共感できました。私にも親や祖父母がいて、特に祖父母は高齢なので、絶対にうつしてはいけないなという思いが強まりました。

――それでも取材をしなければいけない中で、取材する側の感染対策もかなり大変だったのでは?

感染対策には毎回すごく気を遣います。特に病院への取材の時は、コロナウイルスに感染している患者を受け入れている病棟やICUにも入らせて頂いたり、時には往診の現場に同行したりもするので、取材班がその場で感染しないことはもちろん、さらに取材先に感染させることがないよう、医師や看護師との距離感も近すぎないように心がけたり、何より日頃の行動にもかなり注意していました。仕事以外ではあまり外出せず、閉ざした生活を送っていました。

――感染者を受け入れている病棟やICUはぎりぎりの厳しい状況だったのではないでしょうか。実際に医療現場を見て感じたことはありますか?

医師や看護師のみなさんは、目の前の患者をいかに治療するかということを真摯に考えていて、自分たちも感染の恐れがある中で患者一人一人にしっかり向き合っている姿がすごく印象的でした。何としてもこの患者を救いたい、受け入れられる病院がないのであれば自分たちの病院で診るしかないと覚悟を決めて、忙しい中でも対応されていて、その思いや姿に心を打たれました。

――ひっ迫した現場や疲弊した医療従事者の姿がクローズアップされることが多かったと思いますが、そのあたりは如何ですか?

取材に行く前は、現場の方々は毎日が大変で疲弊しきっているのだろうなと思っていましたが、患者の前では絶対にそういう姿を見せずに常に笑顔なんです。患者は感染対策のために隔離されていて心細いので、安心して過ごせるようにお子さんやご家族の話をしたり、病院の雰囲気がとても明るいことに驚いたこともあります。医療従事者同士で声をかけ合っていたのが印象的でした。

――明るいというのは正直意外でした。大変な中だからこそ意識されている部分もあるのでしょうね。

陰ではすごく辛い思いをされている方も多いと思いますが、みんなで励ましあいながらこの大変な状況を乗り越えようと頑張っていて、その姿に私の方が勇気をもらいました。

――医療現場で働く人々の中には、やはりこうした現状を伝えてほしいという思いもあるのでしょうか。

医療現場の現状というよりは、「コロナウイルスはただの風邪ではなくて、若い人でも肺炎に繋がったり、時には死に繋がることもある怖い病気なんだ」ということを伝えたいと思っている人が多かったように感じます。特に感染者数がまだそこまで多くなかった時期は、感染するとどうなってしまうのかということがなかなか伝わらない部分もあったので、何のために予防し、自粛しなくてはならないのかということが伝われば良いなと思いながら取材していました。

――確かに、あれだけ感染者が多いと言われる中でも、身近に感染者がいないとその怖さがわからない部分はありますよね。

ニュースで放送しても見る人によってとらえ方が違いますし、いかに自分事として感じてもらえるように伝えていくかが難しいなと感じました。

数字の裏側にある“真実”

――2021年6月には「緊急ルポ 北海道 入院できない」を放送しました。これは企画から関わったのですか?

そうです。当時感染が急拡大していた現場を取材していて「自分が思っていた以上にこんなことになっているのか」と衝撃を受けることも多く、ここまで大変な状況だということをたくさんの人に伝えなければと思って提案しました。

――取材期間はどのくらいですか?

約1か月です。最初に取材相手に話を聞いたのがゴールデンウイーク明けで、北海道で感染者が急増していたタイミングでした。この時期に放送してこそ伝わるものがあると思ったので、毎日のようにディレクターと夜遅くまで議論しながら、取材から編集まで急ピッチで行いました。

――ディレクターとは一緒に取材を行うのでしょうか。

一緒に取材に行くことが多いですね。私たち記者が取材対象者から話を聞いて、ディレクターは番組の全体構成とそのためにどんな取材や映像が必要かを考えて組み立てるという役割分担です。

――番組を見た方から反響はありましたか?

入院できずに自宅でハンガーに点滴をかけて患者が療養しているシーンがあったのですが、「こんな状況になっているとは知らなかった」と見てくださった方からは反響がありました。また医療現場の方からも「今の現状を伝えてくれて良かった」という言葉を頂きました。

――この番組で浅井さんが一番伝えたかったことは何でしょう?

防護服を着て患者の自宅まで駆けつけて、感染の危険と隣り合わせで頑張っている医師がいるんだということをまず伝えたかったです。他にも、入院したくてもできないというリアルな現状を伝えられたらなと。なかなか日々報道される感染者数だけを見ていても、その裏にある大変な状況は想像できないと思うので、数字だけではなくそういったリアルな現場も伝えたいなと思いました。

――番組の中で「1床しかベッドが空いてない時に40代と90代の患者どちらを優先すべきか」という医師の言葉がとても突き刺さりました。命の選別ではないですけど、そこまで追い詰められている現状があったということですよね。

この話は本当に難しいなと感じていて……どこまで延命治療をするか、家族が感染したときにどういう治療をするかなど、かなり難しい選択を迫られた患者さんやご家族がいたのも事実です。特に高齢者が感染した場合、人工呼吸器をつけても思うように回復せず、人工呼吸器が外れなくなるかもしれない可能性もあるわけです。そうした状況で延命治療をするべきかどうか。家族も医療従事者にとっても難しい選択がたくさんあるなと考えさせられました。

――2021年8月に放送した「おはよう日本」では、札幌で人工透析を受けている患者で感染した方のうち、半数余りが亡くなっているという衝撃的なデータが話題になりました。これは、どういうきっかけで取材したのですか?

死者何人と日々発表されていますが、どういう人がどこで亡くなっているのかという問いを、感染が拡大した第3波の頃からずっと持っていました。どこで亡くなっているかがわかれば、重点的にケアすべきポイントが明確になりますし、亡くなってしまう人が少しでも減るのではないかと。それで調べてみると、特に高齢者施設や基礎疾患のある方が多く亡くなっているというのがわかりました。それが取材を始めた出発点ですね。
そのあと第4波が起きた時に、透析を受けている患者が多く亡くなっているという話を耳にしました。基礎疾患のある人は重症化リスクが高いということは以前から言われていましたが、基礎疾患と一言で言っても色々あります。特に透析患者の死亡率が高いというのは医師の間では認識されていましたが、一般的にはまだそれほどの危機感は伝わっていないと感じていました。当時はワクチンがまだ少なく、誰に優先的に接種すべきかという議論があって、そうした重症化リスクを抱えている人たちにこそワクチンが届けば良いなという思いから、取材を進めました。

■(参考)札幌「第4波」で人工透析患者118人がコロナ感染 半数余が死亡

――半数余りというのは想像以上でした。

私自身も衝撃を受けましたし、SNSやWEBでも多くの反応がありました。医療従事者の方から見ても、数字にするとこれだけの人が亡くなっているということで、驚きの声があがりました。

――専門家からは、札幌だけではなく全国でも起こりうるという話もありましたね。

透析患者は一度感染してしまうと重症化しやすく、薬もない中でなかなか厳しい状態にあります。とにかく感染しないということが大事で、それを伝えなければと思いました。
ただ一方で、数字だけが独り歩きするのは怖いなということも感じていて。半数余りが亡くなったとお伝えしましたが、そこには一人一人の命があって、ご家族や懸命に支えた医療従事者の努力や思いもあって、現場で闘っていた人がいる中での半数ということで……。取材する中でいつも悩んでいることですが、数字の裏側をどう伝えていくかということが課題だと思っています。

――データは大事ですし、数字にはインパクトがありますが、数字の裏にある現実には想像が及びにくいのかもしれません。

今回はインパクトを考えて「半数余り」という数字を前面に出しました。ただ、その背景には、病院でクラスターが発生したという事実があります。医療現場からすると自分たちの病院でクラスターを起こしてしまったという意識があり、報道することで誰かが誰かを責めるような事態にはならないようにということは心がけました。現場が抱えている苦しい思いを知っているので、そうした思いをくみ取ると同時にリアルな数字も伝えていかなければいけないところが難しいなと感じます。

――特にSNSなどを中心に、感染者やクラスターが発生した病院に対する偏見が多いなと感じます。

差別と偏見は本当に問題だなと思います。報道するときも気を遣う部分ですし、特にコロナウイルスに感染した患者を受け入れている現場の方々は、なるべくそうした見方を減らしたいと願っています。しかし、医療現場の中でさえ少なからず差別や偏見は存在していて、そうした中で私たちがいかに情報を伝えていくかが大事だと思って取材していました。

――札幌市の入院待機ステーションで働く医師からは、「命を繋ぐための時間稼ぎ」という言葉もありました。入院させたくても病床が足りない状況で、医療従事者の方々には葛藤があったのではないでしょうか。

入院待機ステーションは、病床が限られている中ですぐに入院できない人をどう救うかという受け皿として機能しています。そこで働いている医師や看護師は通常の仕事があるなかで合間をぬって来ていて、彼ら・彼女らの思いで現場が成り立っています。大変な中でも「今自分たちにできることをやろう」と患者と向き合っていて、そういう姿を伝えたいなと思って取材しました。

――最近は感染状況が落ち着いてきたと言われていますが、医療現場の様子はどうですか?

今は更なる感染拡大に備えている状態ですね。抗体カクテルや経口薬など新しい薬をどう使っていくかを考えたり、感染者数が減ってきた分、いかに予防するかということに重点を置いていると思います。

――第1波から今まで、これまでの取材を振り返ってみて如何ですか?

毎回取材現場に行って思うのは、いくら事前に話を聞いたりニュースで見ていても、現場に行ってみないとわからないことがたくさんあるなということです。そういう意味では毎回驚かされますね。そこで感じたことを、現場を見ていない視聴者のみなさんにどうやったら伝わるか、常に考えています。
テレビは放送時間が限られていますが、“映像の力”というのはやはりあるので、見てもらうことで伝わるものもあります。一方でWEBは文字数の制限がなく形に残るので、それぞれの媒体の強みを生かしながらより深く情報を発信していけたらと思います。

不条理な現実を伝えたい

――教育関係も担当しているということで、そのお話も伺えますか?

ALT(Assistant Language Teacher外国語指導助手)の方の話を聞いたり、最近では作曲家で音楽プロデューサーの蔦谷好位置さんが母校・発寒小学校の100周年を祝う会に来られたので、その取材も担当しました。

■(参考)蔦谷好位置さん~ふるさとへの思い~

――コロナウイルスの取材とはまたがらりと雰囲気が変わりますね。全く異なるテーマを担当していると、取材する上で気持ちの切り替えは難しくないですか?

記者は日々色々な取材をすることが多いですが、自分の中で大事にしたいものは変わらずあるので、気持ちを切り替えるという意識はあまりないです。良いニュースも悪いニュースも含めて取材テーマが毎日新しくて、それは記者職ならではの面白さかもしれません。

――自分の中で大事にしたいものというのは何ですか?

取材者はある意味“他人”で、困難な状況にある現場を取材しても、テレビで一回放送するだけで終わってしまう。でもそれでは状況は変わらないことがほとんどで、積み重ねていくことが大事なのだと思います。私たちは取材対象者に一度会うだけですが、その人たちの人生はその一度きりではなく日々続いていくので、新しいことを発信するばかりではなく、継続的に取材することも大切にしたいと思っています。

――ALTの先生方への取材というのは、具体的には?

労働環境の実態を取材しました。ALTの先生というと学校で身近な存在だと思いますが、実はALTの業務だけでは暮らしが成り立たなくて副業をたくさんしていている人が多いです。しかしコロナ禍で副業が成り立たなくなり、毎月暮らすのが大変という状況になっていて、そこまでの状況だというのを知らなかったので話を聞いて驚きました。現場の先生方が声を上げ始めていたのをきっかけに取材をし、2021年3月に放送しました。

――学校や自治体ごとにALTの給料は違うのでしょうか?

給料や採用方法も本当にバラバラで。国はALTを活用して子どもたちの英語力を上げようと言っていますが、その運用は自治体に任されていて、考えるべき点が多いなと感じます。

――取材してから進展はありましたか?

取材したALTの先生は結局仕事をやめてしまいました。日本で生活することを考えたらALTは続けるのが難しい仕事だということで……。私は状況を伝えただけで何かを変えられたわけではないので、今後の課題だと思っています。

――根強い課題だと思いますが、なぜここまで改善されないのだと思いますか?

他人事に陥りやすいからではないかと思っています。学校は学校で、教育委員会が解決すべき問題だと思っていますし、教育委員会は教育委員会で予算が限られている中で待遇を変えるのは難しいと。今回のALTのような課題は、働く場所と雇用主とお金の出どころがそれぞれ異なるので、みんながみんな見て見ぬふりになりやすいのではないかと思います。

――浅井さんが記者として大事にしていることは何ですか?

声の大きい人は何もしなくても注目されやすいですが、そうではない人たちのことも取材して伝えていきたいという思いが自分の中にはあって。理不尽なこと、辛くても我慢していること、どうしても抜け出せないこと……色々なことがあると思うんですけど、報道を通じてそうした人々が抱えている苦しみが少しでも良い方向に向かったらと思います。

――そう思ったきっかけは?

大学生の時の経験が大きいと思います。学生時代、記者になろうと思ったきっかけが二つあって、一つは難民支援のボランティアに参加したこと、もう一つは福島第1原発の事故で母と子だけで避難してきた人たちに話を聞いたことです。
特に避難区域ではない地域から避難してきた人に話を聞く機会が多くあり、どこにも頼れずに孤立してしまっている窮状を知りました。難民の方たちも、実は国としては正式に難民と認められていない人がほとんどだったり、そうした不条理な現実を知る中で「どうしてこんなことになっているのだろう」「どうにかならないのか」と自分の中でもやもやした思いがあって、それが今に繋がっているのだと思います。

――最後に、今後取材してみたいテーマは何ですか?

引き続きコロナウイルスの取材は続けていきたいです。また、以前車いすの事故の取材をしたことがありますが、福祉関係の取材も自分の中で一つのテーマになっています。札幌では、脳卒中などの後遺症で言葉が出にくくなる失語症の方のサポートをしていこうという動きが最近あって、それも取材したいなと今企画を練っているところです。

■(参考)「車で、車いすを送迎」安全を考えて


浅井優奈 -Asai Yuna-    
2018年入局。函館局で事件・事故取材を担当したのち、
札幌拠点放送局 放送部 記者(2020年~)
主に医療・教育分野を取材。
楽しみは北海道のおいしいものを食べること。

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