およそ7年ぶりとなる北海道発地域ドラマ「春の翼」。NHK北海道のスタッフが中心となって、北海道で撮影したドラマです。
そして、このドラマは、2021年4月に放送した大型特番「北海道スタジアム春ノ陣」で立ち上げた、北海道の次世代のスターを発掘する“道スタオーディション”の結実ともなる作品です。
この記事では、ドラマ初演出の私が、目まぐるしい日々の中、印象的だった“ここだけの話”をご紹介します。
演出担当:板橋健次(NHK札幌放送局)
ビギナー監督とフレッシュなキャスト陣
「春の翼」は、“道スタオーディション”から選ばれた、北海道出身の若者が出演しているドラマです。オーディションの応募総数は、なんと473人!
その中から去年12月、中山来未さん、桜井木穂さん、山科連太郎さん、富樫涼太さん、安宅波颯さん、5人の出演が決定しました。

中山さんと山科さんは、演技経験はあるものの、まだまだこれからの若き俳優。あとの3人は、演技経験がほぼありません。そして、監督である自分は、ドラマ初演出・・・。
「フレッシュ過ぎるだろ!」とか「このドラマ攻めすぎだろ!」と感じるとともに、「彼らとともに、このドラマを彩っていこう」と、稽古ではキャストと一緒に試行錯誤を繰り返しました。
役になりきって自己紹介をしてもらったり、鳥が好きな高校生役の方は鳥の絵を描いてみたり、あえて振り切った演技をしてみたり、何も言わずに自由にやってみたり・・・。
3日という限られた稽古日の中で、日々キャストとともにそれぞれのキャラを模索しました。

血と汗の太鼓稽古
ドラマのクライマックスでキャスト達が太鼓を打つシーンがあるのですが、これまた5人全員が初心者。バチの握り方、立ち方など基本的なことから太鼓の先生に指導してもらいました。

これが、まさに血と汗の滲む特訓!
熱心に取り組む5人の手はもうボロボロ・・・。マメは潰れ、腕は上がらなくなり、肉体の限界を超越せんばかりに、練習に打ち込みました。

稽古の合間や天売島への移動中も、太鼓の復習を欠かさない彼らの姿を見て、私も身が引き締まる思いでした。
果たして、どんな演奏になったのか。ドラマ本編をお楽しみに!
1から“人”を作り上げる難しさ
ドラマの演出をしていく中で苦労したことは数知れず。
脚本制作、カット割り、極寒での撮影、編集などなど・・・。その中で、特に刺激的だったのは、登場人物を具現化していくこと。
これまで制作してきた番組とは違い、架空の人間の人生を1から考え、実際の“人”に作りあげていく作業は、初めての体験でした。人生を作り込む作業の奥深さを感じたのは、初めて宮本信子さんと打ち合わせをした時。
宮本さん演じる三浦ハルの人生を、自分なりに考えて打合せに臨みましたが、宮本さんはさらに深く、詳細に練っていました。その打合せで宮本さんは、劇中でハルがどんな本を読むのかを、最後まで考えていました。
ハルが読む本は、キーアイテムではありませんが、小道具の細かい部分にも及ぶ、宮本さんの役への強いこだわりを感じました。その緻密な役作りが根底にあることで、名演技ができるのだと強く感じました。
劇中では描き切れないキャラクターの人生を考え抜くことが、衣装やメイクをはじめ、演技の一挙手一投足に繋がるということを意識した、ドラマの現場でしか味わえない貴重な経験でした。

コロナが存在する世界のドラマ
「春の翼」は、コロナが存在するリアルの世界を舞台にしています。そのため、マスクをしているシーンが多く、たぶん放送の8割くらい、キャストはマスクをしています。テレビドラマで全編的にマスクをしているケースは少ないかもしれませんが、これは私のこだわりでもありました。


マスクを着けることで、今この時代を生きている人たちに、強くメッセージを届けられると考え、そして、実際の天売島の生活がより身近に感じられると思ったからです。

また、取材を進める中で、前述の高校生の太鼓というのが、コロナの影響で中止になっていることを知りました。この太鼓は、島の一大イベントでもある天売高校の学校祭などで披露され、島の人たちがとても楽しみにしている存在です。しかし、コロナ禍になってから2年間、生徒たちが演奏を録画して島の人に見せることはあれども、皆が集まって生で聴ける状況ではありません。
そういった事実を描くためにも、コロナのある世界とし、ドラマ内で太鼓を演奏することで、島の方々に元気を届けられたらと考えていました。
でも、「ここはいいシーンだから本当はマスク取りたいな」と思ったことは、何度もありました・・・。
チームで作り上げた「春の翼」
初めて“監督”と呼ばれる立場になりましたが、スタッフ・キャスト、そして天売島の皆さんの多くの協力とサポートがあり、完成させることができました。

正直、今も監督と呼ばれるのはむず痒く、最後まで慣れませんでした。
このドラマで天売島の魅力を感じ、そして、観てくれた人たちが、ちょっとでも前向きな気持ちになってもらえたら。そう願っています。
放送までもう少し。お楽しみください!!!
2022.5.17
