NHK札幌放送局

タケノコ採りでヒグマ被害~専門家に聞く~ #ヒグマ

ヒグマ情報

2020年5月28日(木)午後6時02分 更新

5月15日、後志の古平町の男性が自宅近くの山林にタケノコ採りに入ったまま戻らず、警察はクマに襲われた可能性が高いとみています。このクマは今後も人を襲うおそれがあると専門家は指摘していて、地元では対策に追われています。専門家に取材すると、人里近くに現れるようになったクマとの向き合い方が改めて問われていると言います。

タケノコ採りが一転…

5月15日午後5時ごろ、古平町の71歳の男性の妻から「夫がタケノコ採りに出かけたまま帰宅しない」と消防に通報がありました。
警察と地元の猟友会などが捜索したところ、翌16日になって自宅近くの山林で男性の携帯電話や長靴などが見つかりました。 警察によりますと、長靴には動物に噛まれたような痕があったほか、付近からはクマのフンも見つかったということです。

警察は、クマに襲われた可能性が高いとみています。

地元の人たちが訪れる場で

現場は、地元の人たちがタケノコ採りに訪れる場所でした。近くで見つかった男性の車には、キーがさしたままになっていて、警察などは山の奥深くに入るのでなく、人里近くでタケノコ採りをしようとしていたとみています。
住民によりますと、付近では2019年秋以降、クマのフンが見つかっていたほか、畑などにクマの足跡が残されていたこともあったということです。

専門家に聞く

今回の被害をどうとらえるか。 ヒグマの生態に詳しい北海道立総合研究機構エネルギー・環境・地質研究所の間野勉専門研究主幹に聞きました。

間野さんは5つの点を指摘しています。

①クマの増加

まず、指摘したのがクマの増加です。 道によりますと、道が統計を取り始めた1962年はクマによる家畜や農作物への被害が特に問題になっていました。
この年は十勝岳の噴火があり、火山灰が積もってクマのエサになる植物が十分に実らなかったこともあり、クマがエサを求めて人里へ降りてきたことなどが原因だと考えられています。
道は翌年からクマの駆除を進める施策に乗り出しました。 市町村の要請を受けたハンターがクマを駆除した場合、奨励金を出す事業を始めました。

 特に1970年から80年代は、冬眠明けのクマを撃って数を減らす「春グマ駆除」が 盛んでした。 春はやぶの上に雪が残って見通しが良い上、雪の上の足跡からクマを見つけやすいとされています。 さらに冬眠する穴にまだいるメスや子クマを狙って猟ができるため、多くのクマが駆除されました。 しかし、クマによる家畜の被害が減少すると「春グマ駆除」は1990年には廃止されました。

するとクマの数は増加するようになり、正確な数は分かっていませんが、1990年度は推定値で5800頭±2300頭とされていたのが、2012年度では1万600頭±6700頭となり、道の統計のある2012年度までの23年間にクマの数はおよそ1.8に増加したとされています。

②高齢化、過疎化の影響

間野さんはクマの増加だけでなく、人間の側にも変化があるといいます。 特に地方で進む高齢化と過疎化の影響です。
被害のあった古平町は石狩湾に面している一方で、森林の多い地域です。 町によりますと古平町はかつてマンガンが採れる鉱山やニシン漁で栄えて兼業農家も多く、人口は1955年には1万余りでした。
しかし、鉱山の衰退や漁業の不振で働き手の流出が進み、現在の人口はおよそ3000にまで減っています。 65歳以上の人が占める高齢化率も2019年の時点で、43.2%となっています。
住民に聞いたところ「子どものころと比べると畑が減りささやぶが増え、だいぶ景色が変わってしまった」ということです。

間野勉専門研究主幹
「人口が減り高齢化も進むと、昔は人間の手が入って生産活動をやっていたものが、どんどん荒れていって手が入らなくなる。一部はやぶが茂るところが出る。クマが増えているのに対し、かつて地域にいた若くて元気な狩猟の担い手や野外で活動する人が減った結果、人間と野生動物との境界が人間の生活圏に寄って来てしまっている」

間野さんは、過疎の進展が人とクマとの距離を縮めていると指摘しています。

③人を恐れないクマ

さらに間野さんが注目しているのが人を恐れないクマの存在です。

間野勉専門研究主幹
「人間の活動が減ると、クマにとって人間が危害を加えてくる相手ではないと考えるようになっているのではないか。今回の現場は被害者の家からも近く、人里近くにクマが入り込んでしまっている」

こうした問題は今回のケースだけにとどまりません。

札幌市南区では去年、家庭菜園のとうもろこしやプルーンの味を覚えたクマが連日のように住宅地を悠々と歩き回り、ハンターに駆除される事態になりました。

間野勉専門研究主幹
「クマがいついてしまった現状をどう変えていくのかという視点が求められている。札幌市南区の問題や野幌の森林公園の中までクマが入ってきた問題があったが、通常起こらない所、想定しなかったような場所で起きた場合に対応に非常に苦慮する。今後は、こうしたケースはどんどん増えて行くので、人里にクマが近づいている状況を何らかの形で押し戻すことを真剣に考えていかなければいけない」

具体的な検討を加速させるべきだと提言しています。

④繰り返される被害も

もうひとつ、間野さんが危惧していることがあります。
古平町で男性が不明になって12日がたった今月27日現在、問題のクマがまだ駆除されていないことです。 同じクマに、再び人が襲われるおそれがあるというのです。
間野さんが例にあげたのが道南のせたな町のケースです。
せたな町では7年前の2013年4月に林道で女性がクマに襲われ亡くなる被害がありました。 その翌年の2014年4月にも山菜採りに来ていた女性がクマに腕と肩をかまれてけがをしました。
クマの体毛や血痕などをDNA鑑定をした結果、2人を襲ったのは同じクマと分かりました。
こうした例を踏まえ、間野さんは被害を繰り返さないためにも「男性を襲ったクマを早急に特定し、駆除すべきだ」と駆除の必要性を訴えています。

⑤“先送りできる問題でない”

古平町でも更なる被害を防ぐため、クマを捕獲するための箱わなを設置したほか、地元のハンターに依頼して見回りを行い、山菜採りや渓流釣りに訪れる人を見かけたら自粛を求めるなどの対応をとっています。

ただハンターの全員が他の仕事と掛け持ちをしているため、捕獲や駆除がされないまま事態が長期化すれば、本業に支障がでかねないほか、体力面も懸念されるということです。

さらに、ハンターに支払う報酬金も膨らんでいます。 町ではこれまでの実績を基に、今年度の当初予算では40万円を確保していました。
しかし、今回ハンターの出動を5月29日まで依頼する方針で、当初予算を超えることから6月の議会で補正予算を提案することにしています。 クマの問題は、町の財政にも少なからず影響しています。 過疎が進む小さな自治体では人や予算に限りがあります。

間野さんは次のように話しています。

「札幌市のような大きな自治体は、役所の中に専門の部署があったり、あるいは外部の民間団体と契約して支援を受けることができるが、地方の小さな自治体の場合、人的にも予算的にも難しい。そういう所は広域を束ねるような形で危機管理態勢を作り、地域で情報を共有しながら連携して対応する仕組みを検討すべきだ。いまは、一定の経験をもったハンターが地域にいるので、その人たちが地域にいる間に次の態勢をきちんと作らないといけない。先送りしていい問題では無く、あと5年10年後には、にっちもさっちもいかなくなる。そういう状況に陥る地域が道内のあちこちにでてしまうのではないかということを大変危惧しています」

ヒグマと人との関係を長年見つめてきた専門家は、対策は「待ったなしだ」と訴えています。

2020年5月28日

取材/札幌放送局・前嶋紗月記者

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