NHK札幌放送局

長万部町 突如止まった水柱 今後は?

道南web

2022年9月29日(木)午後6時54分 更新

北海道南部の長万部町に突如、噴き上がった高さ30メートルの水柱。8月から50日間にわたって噴き上がり続けていましたが、 9月26日朝、いままでのごう音がうそだったかのように突然止まり、 町は静寂を取り戻しました。誰も予想しなかった結末でした。
しかし今後、本当にふたたび噴き上がることはないのでしょうか?
長万部町を11回訪れて取材を続けたこの50日間を振り返りながら、突如止まった理由と今後予想される展開を取材しました。
(函館放送局 奈須由樹) 


早朝の一報 水柱の音が…

9月26日午前5時。
これまで何度か話を聞かせてもらった水柱の近くに住む住民からの電話で一日が始まりました。

「朝、起きたら水柱の音がしない。止まったと思うから早く取材に来たほうがいい」

眠気が一気に覚める衝撃的な一報を聞いて、私は急いで長万部町に向かいました。

実は予兆はありました。
9月22日の夕方、3連休の前日のことでした。
NHKが水柱の近くに設置している固定カメラの映像を見ると、これまで木の高さをはるかに超えていた水柱の高さが、木の下にまで下がっていました。

さらに、水柱から出る騒音の音量が下がっていました。
長万部町が設置している水柱周辺の騒音を測定している装置では、8月までは16か所のうち14か所で、走行中の車内と同じ水準の60デシベルを超えていました。
しかし、21日はすべての場所で60デシベルを下回ったのです。

止まった水柱 静寂を取り戻す

一報を聞いて函館市から車でおよそ2時間かけて、長万部町に到着しました。
すると目の前で掃除機を使っているような、あの「ゴー」という音は聞こえてきません。木の上まで噴き上がっていた水も確認出来ませんでした。
噴き出している穴の近くは立ち入り禁止になっているため、見に行ってきた町の職員に様子を聞きました。

記者
「水柱は止まったのですか?」
町の職員
「噴出している穴を確認した。まだ可燃性ガスがわずかにでているが、水は完全に止まっている」

あっけない結末でした。静寂を取り戻した住民からは歓喜の声が上がりました。

水柱の近くに住む70代の男性
「きょうは音がしないと思って水柱を見に来たら止まっていました。1か月半めまいがしていたので止まってよかったです。平和はいいね」


直径5センチの穴から…

噴き出している穴の写真を見せてもらいました。
直径わずか5センチ。
にわかには信じられませんが、この穴から高さおよそ30メートルの水柱が噴き上がっていたというのです。

この場所は、町と民間企業が60年以上前に、石油と天然ガス開発のため掘削を行っていて、埋め戻したものの噴き上がってしまったのです。

なぜ止まったのか?

あれほど高く噴き上がっていた水柱。なぜ突如止まったのでしょうか。
専門家は、水とともに地下にたまっていたガスが抜けたためだと分析しています。

北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所 高橋徹哉専門研究主幹
「地下に蓄えられて来た高圧の可燃性天然ガスがあって、それが温泉水を伴って水柱として噴出してきているというメカニズムだった。天然ガスが1か月以上噴出したことで、地下に蓄えられていたガスの圧力が低下し、ガスが抜けた状態となったことで水柱が停止した可能性が高い」


塩害に騒音… 50日間で多くの被害

50日間を改めて振り返ると多くの被害がありました。
水柱の近くに止まっている車を見ると白い粉が…。
水柱に含まれる塩分が水しぶきとともに飛んできたことによる塩害とみられます。

また、鉄やマンガンを多く含んでいることから、茶色や黒の着色が起きたりする可能性も指摘されていました。
こうした成分の影響か周りの木々は枯れていました。

もっとも深刻だったのは水柱から出ていた騒音です。
「ここに24時間いてごらん。めまいがするから」「ノイローゼになりそうだ」
住民からはうるさくて夜、寝られないという声が相次いでいました。
さらに問題はありました。
水柱を一目見ようと観光客が訪れ、周辺の道路では多くの車が路上駐車していました。

穴を詳しく調査すると…

水柱が止まったことを受けて、町は専門家に依頼して、3日間にわたって噴き出していた穴を詳しく調べました。
噴き上がっていた穴にカメラを入れて調査した結果、地下38メートルまでは水がないことが確認できました。
しかし、穴の途中が詰まっているため地下178メートルより先は進めませんでした。

長万部町水道ガス課 藤井弘道主幹
「この穴は昔およそ1000メートル掘った井戸なのでさらに奥深くに調査を進めていきたい。まだ内部にはガスはぷくぷくと出ている状態です。今は土砂が入って穴が閉じていて、水圧はかかっているものの水圧が土砂に負けている状態。内部にガスがまだ残っていて、再び噴き出す可能性がある」


パイプにふた 工事完了!

水柱が噴き上がった穴の調査最終日。
町は穴に埋められているパイプにふたをする工事を行いました。
ふたは鉄製で、バルブを調整することで穴から出ている可燃性のガスを逃がすことができるようになっています。
適宜、ガスを抜くことで、地下にガスがたまって一気に噴出しないようにするためです。
また、再び水が出てきた場合も噴出する量を調整できるということです。

長万部町水道ガス課 中里博也課長
「3日間調査を行いましたが、ガスが下から出ていますので、ふたたび噴き出さないとは言えない。水が止まったのはよかったと思いますが、またいつ噴き上がるか分からないので、今後は巡回を増やしていこうと思います」


近くに住む人は

近くに住む人に話を聞きに行くと、また水柱が噴き上がるのではないかと不安の声も聞かれました。

家や車が塩害の被害に遭った70代の男性
「毎日車を洗っていました。洗車代がようやくかからなくなると思うと助かります。洗濯物も水柱を気にせず外に干せるようになりました。ただ、また水柱が噴き上がる可能性もあるので町には原因を調査してもらい、今後噴き上がらないように対策してほしいです」
水しぶきによる塩害の影響か、家庭菜園の野菜がすべて枯れたという70代の女性
「止まって本当に良かったです。きのうは久しぶりにゆっくり休めました。家庭菜園は諦めていたのですが、きょうから再開しました。塩害の影響でまた生えてくるか分かりませんが、また植物が生えることを願ってます」

水柱が止まったことで、寂しくなったと話す人も…。

近くに住む80代の男性
「水柱が止まったことに喜んではいるんですけど、水柱を見にあれだけの人が来ていて、今は人通りが少なくなって少し寂しいですね」


今後の町の対応は?

ふたたび水柱が噴き上がった場合に備えて、町は、ふたに加えて新たな設備を設置する予定です。
高さ4メートルほどの鉄製のタンクを穴にかぶせるように設置し、ふたたび噴き上がった場合には、水しぶきの飛散を抑える仕組みです。
たまった水は隣に設置する貯蔵タンクに流し込んだうえで排水するようになっています。
また、水と一緒に噴き出している可燃性ガスを分離し、量を調節しながら排出できるということです。

町は設備の設置などに必要なおよそ4300万円の予算をすでに組んでいて、11月上旬までに設置することにしています。
また、噴き上がった穴を今後も調査していくとともに、60年ほど前に町が掘ったほかの11個の穴に異常が無いか、巡回して確認することにしています。
町はふたたび噴き上がり、さらに対策費用が必要になる可能性もあることから、ふるさと納税の制度を活用したクラウドファンディングを続けています。
9月28日の時点で、144万7000円が集まりました。

全国から数々の支援が

さらに、水柱のニュースを見て各地から支援が寄せられました。
水柱がふたたび噴き上がった場合に備えて、京都の騒音対策業者が穴を囲む高さおよそ7メートルの防音壁を設置しました。
困っている住民の役に立ちたいと、工事はすべて無償で行いました。
ほかにも、東京の商社が耳栓500個を寄贈しました。


水柱噴出 50日を振り返って

私は水柱が噴き上がってから11回、長万部町に取材に向かいました。記者になって2年目ですが、ここまで継続的に取材をしたテーマは初めてでした。
騒音に悩まされていた住民の方々の切実な問題が解消され、本当によかったと思っています。ふたたび噴き上がることがないよう、十分な対策が必要だと思います。
一方で「水柱が止まって、観光客がいなくなり寂しくなった」と意外な本音を打ち明けてくれる人もいました。過疎化に歯止めがかからない北海道の地方の町ではそう感じる人もいるのでしょう。
水柱の近くに住んでいる人たちの話を聞こうと1軒1軒回りましたが、はじめは取材を拒否された方も徐々に心を開いて、取材に応じてもらえるようになりました。長万部町の方々の心の温かさに触れたような気持ちになりました。
一方で、地質学に詳しい専門家は、まだ地下にガスが残っているため、ふたたび噴き上がる可能性を指摘しており、継続して取材していくことにしています。

地域にあるまだ掘り起こされていない問題や課題を探しながら、これからも深掘りできる取材を目指したいと思います。

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