NHK札幌放送局

生乳大量廃棄の危機と価格をめぐる「なぜ?」

シラベルカ

2022年3月3日(木)午後6時48分 更新

視聴者の疑問に答える「シラベルカ」

今回は、こちら。

「捨てるほどあまっているのに、なぜ牛乳は安くならないのですか?」

去年の年末、牛乳が廃棄されるかもしれないという予測が示されましたが、この投稿はそのときにいただきました。年末に消費のめどがつき、廃棄は回避されました。
しかし、そもそもなぜ牛乳があまってしまったのか?あまってもなぜ価格は安くならないのか?疑問を調べてきました。

なぜ牛乳はあまってしまったのか?

農業経済が専門で、牛乳の流通に詳しい北海道大学大学院の清水池義治准教授に話を聞きました。

そもそも、なぜ牛乳があまると見込まれたのでしょうか。
清水池准教授によると、大きく3つの要因に分けられるということです。

①年末年始は元々、学校給食が止まるなどして、牛乳の消費が減り、生乳(※牛乳の原料)があまりやすい。
②新型コロナウイルスの影響で、ホテルや土産物向けをはじめとする牛乳や乳製品の需要が減少している。
③国内における生乳の増産傾向に歯止めがかからない。

清水池准教授によると、特に③の影響が今回の最大の要因だといいます。

清水池准教授
過去に国内で深刻なバター不足があったことを受けて、生乳の生産を増やす努力を業界全体として進めてきました。その成果が去年・一昨年ぐらいから出てきていることもあり、生乳の生産が非常に増えています。 
しかし、現在、酪農家が生産量を増やす目的で積極的な努力をしているわけではありません。
生乳は増やそうと思ってから実際に増えるまでタイムラグがあります。
アクセルとブレーキを踏んで実際に効き始めるのが2年後になってしまう車を想定してもらえばわかりやすいです。つまり、現在の増産傾向を酪農家が分かっていても、実は止める手立てがないのです。

牛乳があまっているなら安く売ればいのでは?

冬休みと新型コロナ、それに生乳の増産とが重なって起きた、牛乳があまってしまう事態。
では、こうした時に牛乳を安く販売することはできないのでしょうか? 
清水池准教授は、牛乳の場合はそうもいかない現状があると指摘しています。
一言で言えば、あまっているからといって価格を下げてしまうと酪農経営が持たないということでした。

清水池准教授
仮に、小売価格を下げると言う対応をとってしまうと、当然メーカーからスーパーに卸すときの価格を下げることになります。そうするとメーカーの経営が苦しくなるので、メーカーとしては酪農家から買い取る生乳の価格を安くしてほしいということになる。
そういった形で負の影響が巡り巡って酪農家に及んでしまうということになると思います。

「商品があまっていたら価格が安くなる」というのは消費者にとって自然な感覚です。
しかし牛乳については、あまったからといって、価格を下げてしまうとまた経営に打撃を与えて、逆に生産が足りなくなってしまうという事態が起きてしまうかもしれないということです。

廃棄の危機、活路は

あまった牛乳や生乳は廃棄されてしまいます。しかし、あまったものはバターなどに加工して保存しておけばいいのではないでしょうか。
清水池准教授によると、例年は、あまった生乳は、日持ちするバターや脱脂粉乳にすることにしているそうです。
しかし、すでにそうした乳製品の在庫はものすごく増えてしまっていて、「とりあえずバターや脱脂粉乳に加工しておけば良い」という考えでは、結局、保管していた在庫の賞味期限が切れてしまって、廃棄しなければならない恐れがあり、問題の根本的な解決策にはならないということです。その上で、今回の年末年始をこう振り返りました。

清水池准教授
今回の年末年始では、工場の能力自体を超えてしまうぐらいの生乳が余ってしまうという事態が予想されました。そのため、最悪の想定として、あまった生乳をバターなどに加工できずに工場からあふれてしまって捨てないといけなくなるという事態も考えられました。

乳業メーカーの工場の能力をもっと上げたらいいのではないかと簡単に考えてしまいますが、メーカーの経営としてはなかなかそうもいかない問題があるといいます。

清水池准教授
乳製品の工場の稼働率は、年末年始から春にかけて高まっていくのですが、その反動で、夏の稼働率はすごく下がってしまいます。なので、夏の稼働率が下がりすぎてしまって採算が取れなくなってしまうことを防ぐために、年末年始や春に向けて工場の能力を大きく引き上げることはできないのです。
そもそも、貿易の自由化が進んだことで、バター、チーズ、脱脂粉乳などは外国から安価に、そして大量に輸入されるようになりました。そうした状況の中で、乳業メーカーとしては工場の能力に対して投資するのが難しくなってきています。

生乳の廃棄は、酪農家からすると、売れたはずの商品を捨ててしまうということにほかなりません。酪農経営のコストが上がってきているなかで、酪農経営に打撃を与える生乳の廃棄は何としても避けなければなりません。 

酪農の現場では

廃棄の危機を受けた北海道の酪農家にも話を聞きました。

江別市で540頭の牛を育てる酪農家の小林紀彦さんの牧場では、毎日7トンもの生乳を生産・出荷しています。

酪農業を行うには餌代や設備の燃料代など、多くのコストがかかります。
穀物や原油などの価格上昇の影響が、酪農の現場にも及び、経営に大きな負担を与えているといいます。

小林紀彦さん
特に配合飼料のコストがかかっています。現地の生産も落ちていているうえに、輸送コストが上がっていることに伴って、価格が上がっているのです。それに、原油価格も上がっているので、日々使うような機材代費や燃料代のコストもかかっています。

こうしたコストに加え、乳牛は生乳を出すまでに最低2年かかり、出すようになれば毎日、供給します。動物相手のため生乳の量を簡単に増やしたり減らしたりは出来ません。

こうした中で農協やメーカーでは牛乳の価格の元になる「乳価」を決めています。乳価は牛乳を販売するメーカーにとっては仕入れ価格にあたります。この価格は、メーカーと生産者団体との交渉で年に1度決められ、酪農家はその価格に基づいて経営計画を立てていくことになります。

小林紀彦さん
1年に1度決まる乳価を受けて、肥料代といった色々なコストを計算して、採取的に手元にいくら残るのかを計画した上で経営を行います。
そのため、生乳の価格は高値で安定してくれるのが私達にとっては望ましいです。
牛も生き物なので、「生乳の量をちょっと抑えて欲しい」ということも言えないので、どうにか出た牛乳は消費されて欲しいと思っています。

春にはまた危機の予感

清水池准教授は、ことしの春にまた廃棄の可能性があると話していました。
3月から5月は牛が最も生乳を出す上に、春休みに入って学校給食がなくなったりして
再び需要の落ち込みが見込まれることが要因だということです。
生乳の廃棄を避けるには、年末に行った消費のキャンペーンのような対策をする必要があるかもしれません。

札幌局・記者 白野宏太朗
札幌局・ディレクター 吉田美和

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2022年3月3日

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