NHK札幌放送局

被災サイロで地震の記憶を未来へ

ほっとニュース北海道

2021年9月8日(水)午後0時56分 更新

円柱状の建物に赤い屋根。
北海道ではお馴染みの「サイロ」(飼料を入れるための保管庫)です。胆振東部地震の直前に牧場からこども園に遊具として移設されましたが、被災して傾いてしまいました。
子どもたちとともに地震の記憶を乗り越えたい。
サイロは3年の月日を経て、被災の記録を展示する拠点としてよみがえりました。

地震の教訓を伝える「サイロ」

地震から3年目の9月6日。サイロのお披露目会が開かれました。

じつはこのサイロ、地震の影響で少し傾いています。園では安全対策の基礎工事を施して、あえてそのままの姿でサイロを残しました。
今後、子どもたちや保護者に地震の教訓を考えてもらうきっかけにしてほしいと考えたからです。

福田剛 園長
「子どもたち傾いたサイロを見て、何でだろうと地震を考えるきっかけにしてほしい。」

サイロの内部には地震当日の出来事や被害を記録した写真を展示しています。園児だけでなく保護者や地域の住民も見学することができます。

「あの日のことを忘れず、未来に役立ててほしい」
伝えたいのはこども園が向き合った地震から3年の軌跡です。

お泊り会をしていた”あの日”

3年前の9月5日。こども園には子どもたちの楽しそうな声が響いていました。
毎年恒例のお泊まり会です。
バーベキューに歌や踊りの発表会。

最後の肝試しまで無事に終わり、子供たちは眠りにつきました。

午前3時7分。

突然、大きな揺れに襲われました。

子どもたちと一緒に寝ていた福田さん(当時は教頭)は飛び起きました。「ゴゴゴゴゴ」建物全体が音をたてています。経験したことのない大きな揺れ。まともに立っていられません。その場にしゃがみこんで床を両手でおさえつけ、体が吹き飛ばされないように耐えました。

「大丈夫だよ、大丈夫だよ」

声をかけながら、子供たちを自分のもとへ集めることで精いっぱいでした。

36人の子どもたちは、幸いにも全員けがもなく無事でした。

外ではサイレンの音が鳴り響き、泣き出した子もいましたが、パニックになる子どもはいませんでした。福田さんは職員と話し合い、子どもたちとあえて普段通りに接したからです。ショックを受けないよう、なるべく物が散乱した様子を子どもたちに見せないようにしました。
その後、職員が保護者へ連絡。朝まで子どもたちを預かることを伝えました。朝の7時半までに、子どもたち全員が保護者のもとに戻っていきました。親にようやく会えた子どもたち。笑顔を見せる子どもはほとんどいませんでした。

その姿を見ながら福田さんは、子どもの心のケアをどうするか思いを巡らせていました。

その後、周囲を見渡すと次々と被害が明らかになりました。園の建物には被害はありませんでしたが、園庭の遊具が壊れたり、地割れが見つかりました。バーベキューをした近くの森は、木が何本も根元から倒れていました。

また、サイロの土台には大きなヒビがはいり建物が傾いていました。

「もし日中に地震が起きていたら・・・」
「また、同じような災害があったときどう子どもたちを守っていくか・・・」

子どもたちの心のケアとともに、福田さんは重い課題を突き付けられたような気分でした。

当時の子どもたちと保護者は

このお泊まり会に参加していた上田あかりさんと母の舞子さんです。

地震の後、あかりさんは舞子さんから離れるのを嫌がるようになりました。トイレに一人で行けなくなり、大きな音を怖がったりするようになりました。母の経営するカフェが地震でつぶれてしまったことも重なり、泣き出したり、精神的に不安定になることが多くなりました。そんなあかりさんの姿をみて、舞子さんは不安で眠れない日々を過ごしました。

子どもと保護者の心のケア

上田さん親子の話をきいた福田さん。子どもたちとその保護者たちの心のケアに力をいれることにしました。

地震から3日後に福田さんが保護者たちに配布した「心の7ヶ条」です。

子どもたちの心に震災の傷を残さないために(一部抜粋)
・子どもの不安を受け止める
・地震について話す子供の話に耳を傾ける
・親も頑張りすぎない

無理はせずに、お互いにつらい気持ちを分かち合う。
みんなでこの地震を乗り越えたいというメッセージを伝えました。

また福田さんは、子どもだけでなく保護者の悩みにも耳を傾けました。保護者が園に来て一緒に話ができるように、イベントや交流会も開催しました。

もう一度お泊り会を

保護者との対話を続けるうち、福田さんの中である考えが芽生えます。

1年前に途中で終わったお泊り会をもう1度開くというものです。子どもたちに地震のつらい記憶を呼び起こしてしまうのではないか。不安もありました。つらい記憶をみんなで乗り越え、お泊り会を楽しい思い出にしてほしいという福田さんの思いに、保護者から反対の声はありませんでした。

お泊り会当日。

最初は不安だった子どもたちも、徐々に緊張がほぐれ、1年ぶりのお泊り会を楽しんでいきました。
あかりさんも、最初は不安でした。それでも、みんながいるからと、参加することにしました。みんなでお風呂に入ったり、皆でごはんを食べるうち、少しずつ気持ちがほぐれていきました。そして、みんなで朝をむかえることができました。

何事も無く、普通に朝をむかえることができて本当によかった。

今度は、笑顔で。

保護者のもとへ帰っていく子どもの姿を見た福田さん。ようやく一区切りつけることができたと感じました。

記憶の風化とあらがう

地震から3年。
当時地震を経験した子どもたちも卒園し、今、地震のことを知らない子どもたちが増えています。少しずつ、この園での経験が忘れられてしまうのではないか。福田園長はこども園に地震の記憶を伝える場所が必要だと考えるようになりました。

福田剛 園長
「災害はいつ起こるかわからない、備えをしていきましょう。言葉だけじゃなく、形として残して行けたらなと思います。」

当時の写真を集めて、サイロの中に掲示することにしました。こどもたちも遊びながら自然に地震の出来事に触れられるように、サイロの中に子どもたちとみんなでビー玉を埋めました。

福田剛 園長
「3年目にやっと当時のことを振り返り、次の新しい動きに入れる段階になったと思います。木製サイロの展示場が、地震があったけれども、今こうやってみんなで楽しく過ごせるのは、みんなで乗り越えてきたからだよっていうことをしっかり伝えられる場所になってほしいと思います。」

(取材・撮影 室蘭放送局 上野哲平カメラマン)

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