NHK札幌放送局

WEBニュース特集 「緊急事態」決断の背景

北海道WEBニュース特集

2020年4月30日(木)午前10時45分 更新

4月23日、全国最年少の知事として初当選した鈴木直道知事は就任から1年を迎えた。しかし、決して穏やかな状況の中での1年とはならなかった。
敵は新型コロナウイルス。全国でも北海道の感染拡大が深刻となっている中、鈴木知事は、2月28日から3週間にわたって独自の緊急事態宣言を発令した。感染拡大を抑え込むために出されたこの宣言は、法律に基づくものではなかったが、道民の行動に大きな影響を与えた。実は、この緊急事態宣言、4つの案の中から鈴木知事が決断したものだった。その後も続く、札幌市との緊急共同宣言、国の緊急事態宣言の拡大。関係者の証言をもとに、一連のリーダーの決断を検証する。

突然の緊急事態宣言発令

「緊急事態を宣言いたします」。2月28日午後5時46分、道庁3階のテレビ会議室。マスク姿の鈴木知事が、道の対策会議で宣言した様子は、報道機関のカメラによって全国にも生中継された。
自治体のトップが前触れもなく発令した「緊急事態宣言」。法律に基づいたものではなく、鈴木知事をはじめとする道幹部らが専門家らともやりとりしながらギリギリの判断を迫られた結果の宣言だった。


混乱で後手の対応

北海道ではじめて感染が確認されたのは、このちょうど1か月前、1月28日だった。道内を観光で訪れていた中国・武漢に住む40代の女性だった。この時点で感染の確認は全国でも4例目で、北海道庁内はまだ「ひと事」だった。
2月14日、空気が変わりはじめたのは、道内1例目の感染確認から2週間余りたった頃だった。初めて、道内在住の男性からの感染者が確認されだのだ。
道はさっそく鈴木知事が出席する対策会議を開いて情報を共有したが、終了後、鈴木知事は退席し、報道対応にあたったのは道庁の課長だった。そしてこの際、「厚生労働省と協議した結果」として、感染者の国籍や居住地などほとんどの情報を明らかにしなかった。
「広い北海道なのに、感染者の居住地が分からなければ身の守りようがない」「北海道のどこなんだ?」。ネット上で批判が巻き起こり、道庁にも抗議の電話が相次いだ。
道庁の発表とほぼ同じ時刻、厚生労働省も記者会見を開いていた。そこでは、感染者の国籍といった道より詳しい内容が発表され、道庁内は混乱していた。3日後の2月17日、鈴木知事は改めて記者会見を開き、感染予防につなげ道民の不安を払拭するため、感染者の国籍、居住する地域、業種を公表すると説明する事態となった。
さらに2日後の2月19日、鈴木知事は対話集会「なおみちカフェ」に出席するため、道南に出張していたが、急きょ予定を切り上げて札幌に戻った。新たな感染者が確認されたため、自ら会見を開き対応するためだった。会見では、感染者本人が非公開を希望しているという理由で、感染者の職業と住んでいる自治体名を非公表としたが、翌20日、七飯町が町議会議員が感染したことを明らかにして、道の対応の遅れがまたしても浮き彫りになった。これを教訓に道は危機管理意識を高めていくことになる。


全国初の一斉臨時休校、政府の思惑は

2月25日、道内の感染者数は都道府県で最も多い35人にのぼった。感染者は、児童や先生、給食の配膳員やスクールバスの運転手といった教育現場にも広がっていて、道内での抑え込みが全国でも注目されていた。
検討されはじめたのが臨時休校だった。こうした中、萩生田文部科学大臣と鈴木知事が電話で協議したことがわかっている。萩生田大臣は「感染拡大を食い止めるには、道内一斉の臨時休校が望ましい」と求めた。さらに鈴木知事は、政府高官とも連絡を取り、「やったらどうか」とゴーサインを出されていた。政府関係者としては、一斉休校にした際の影響や国民の反応を探り、全国的な一斉休校の判断材料にしたいという思惑もあったのかも知れない。

いずれにしても、その後の鈴木知事の対応は早かった。同日午後8時半、対策会議を開き、「保護者から不安の声が大変多く寄せられている。不安を解消していくため、休校を含めて検討することが必要だ」と述べ、道教育委員会に対し、すべての公立学校の休校を検討するよう要請した。「やりすぎではないかという批判もあるかも知れないが、政治判断は結果がすべてだ。私自身が責任を負う」と鈴木知事は意気込んだが、その自信の裏には、政府との綿密なやりとりがあったのだ。


寸前だった北海道封鎖

1日で15人の感染が確認された2月27日、道庁内でさらなる対策の強化を検討している中、飛び込んできたのが、北海道の封鎖を一部の専門家が検討しているという情報だった。道庁内では、「さすがにやりすぎだ」「北海道が孤立する最悪な事態だ」と緊張感が走った。

道には、専門家が記者会見を開いてこうした内容の発表を検討しているという情報がさらに入ってきた。北海道の対策は、事情がわかっている道庁が主体的に決めるべきだとして、感染拡大を防ぐ対策をとりつつ、封鎖を回避する具体的な対策が急務となっていた。


候補は4つ「緊急事態宣言」

翌2月28日も12人の感染が確認され、感染は広がり続けていた。道庁では午前中から断続的に知事を含め幹部らの協議が続いた。「道民に伝わるよう、分かりやすいキャッチーなメッセージを打ち出せないものか」、知事の意向を受け、独自の宣言を出す方向で調整が進められた。宣言の候補は4つあったことが取材で判明した。
「非常事態宣言」、「緊急事態宣言」、「新型コロナウイルス警戒宣言」、「コロナ撲滅宣言」だった。道庁の幹部会議では、まず、インパクトが弱い「警戒宣言」と「撲滅宣言」は候補から落とされた。そして、「非常事態宣言」にするか、「緊急事態宣言」にするか、判断は鈴木知事に委ねられた。「非常事態宣言は不安をあおりすぎるおそれがある」という意見を受け、最終的に鈴木知事は、「緊急事態宣言」を発令することを決めた。そして、鈴木知事は、ただちに政府関係者に連絡をとり、道が独自で緊急事態宣言を出すことについての反応を確かめた。その結果、ストップはかからず、「いける」という感触を得ていた。
道幹部はその時の様子を、「政治家としての強い意志を感じた」と話している。一方で、経済への影響は検討されたのか。出席者は、「参加者の9割はまずは感染拡大の阻止を第一に考えていた。経済的影響を懸念する声はほとんどなかった」と振り返る。


緊急事態宣言発令

この日の夕方、道幹部が顔をそろえる対策会議は予定より16分遅れで始まった。多くのテレビカメラが入っていることを意識し、「緊急事態宣言」と書いた手作りのボードを幹部が大急ぎで作っていたのだ。

そして会議で鈴木知事は、「2月28日から3月19日までを緊急事態宣言の期間とする。特にこの週末はできる限りの外出を控えていただく」と発表した。同席した副知事さえも「宣言の期限が3月19日までとは知らなかった」と振り返る。知事に近い限られた幹部のみで、直前まで調整が行われた結果だった。報道各社が全国に生中継すると同時にニュース速報を打ち、インパクトは大きかった。


鈴木知事、官邸に乗り込む

翌2月29日、鈴木知事は東京の総理大臣官邸を訪れた。安倍総理大臣と面会し、北海道を重点的にあらゆる施策を早急かつ集中的に実施することを求めた。道幹部は、「北海道の状況を全国に示し、支援を求めるために、官邸に行くのは絶好のチャンスだった」と分析する。翌日の政府の対策本部で安倍総理大臣は、国が一括して買い取ったマスクを感染者が増えている道内の市町村の住民に届けるよう指示した。


北海道を襲った経済的打撃

こうした中迎えた週末。ふだんは人通りが多い札幌市中心部の大通公園も、地下街も、繁華街ススキノも閑散としていた。
道はこうした状況が3か月間続けば、道内で900万人分の宿泊が失われ、3000億円の影響が出ると試算。胆振東部地震の際の10倍以上の規模だ。経済界からは知事が緊急事態を引き起こしたとして「ナオミチ・ショック」と揶揄する声も聞かれた。
懸念は現実となる。経営に行き詰まる企業が出始めていた。影響は観光業にとどまらず、多くの業界に広がり、経済界から悲鳴が上がった。


「継続」か「終了」か

3月18日、「緊急事態宣言は予定通り、あすで終了します」と鈴木知事は表明し、緊急事態宣言の期間が終わることになった。
鈴木知事は、「当初、懸念されていた爆発的な感染拡大と医療崩壊は回避された。感染拡大防止と経済活動を両立し、北海道は新しいステージに入った」と力説し、「北海道モデル」として、感染防止と経済の両立を目指すことを説明した。
道幹部は知事の考えをこう代弁する。「知事の考えの根底には感染拡大を阻止することがあり、宣言期間の延長も選択肢にあった。しかしこのままの状況が続けば、道内経済が再生できないほどに打撃を受けることも承知していた」。緊急事態宣言の発令も、終了も経済状況をにらみながらのギリギリの判断だったという。


臨時休校をめぐり温度差

緊急事態宣言の終了から3週間ほどたった4月10日、北海道の新規感染者数が再度増え始め、第2波の兆しが見え始めていた。この日、札幌市は対策会議を開き、秋元市長が週明けの13日から再度の臨時休校を明らかにする準備が進められていた。
すでに根回しも終わっており、連絡を受けた学校は、休校を通知する保護者向けの文書を準備したり、校内放送で休校を伝えたりしてしまった所もあった。

しかし、午前11時半からの札幌市対策会議の直前、道庁から連絡が入った。「大丈夫か?」。休校は大人の外出自粛とセットにすべきだと注文が入ったのだ。これを受けて秋元市長は、対策会議で休校を発表せず、休校の準備を進める指示にとどめることになった。
これについて秋元市長はのちに「10日の朝まで道との調整に至らなかった。知事も慎重に判断したんだと思う。何か忖度をしたということは全くない。はっきり否定しておく」と語気を強めた。


2度目の「緊急宣言」

しかし、事態は悪化する。4月12日、道内の新規感染者数は5日連続で2ケタとなり、知事が外出自粛の条件とする「連続して2ケタ」を満たしていた。
この日、鈴木知事と秋元市長は秘密裏に会談し、休校問題でギクシャクした関係を修復しようと考えていたが、会談することが事前にマスコミに漏れ、公開して行うことになった。

会談後2人はそろって記者会見し、2回目の独自の宣言となる「北海道・札幌市緊急共同宣言」を発表し、接待を伴う飲食店などへの外出を控えるよう道民に求めた。
宣言では、現状を「第2波とも言える感染拡大の危機」と位置づけていた。
このとき、経済との両立を事実上撤回し、感染防止にかじを切らざるを得ない状況になっていた。「緊急事態宣言は出すときよりも、解除の方が難しい」。道の関係者からはこんな声が聞こえてきた。


北海道に“3度目の宣言”

4月16日、政府は、緊急事態宣言を全国に拡大した。北海道は、中でも特に重点的な取り組みを進める必要がある「特定警戒都道府県」に指定された。道独自の緊急事態宣言、札幌市との緊急共同宣言に続き、北海道に3度目の宣言が出されることになった。

事前に政府の情報を得ていた鈴木知事はすぐさま知事会見を開いてメッセージを発出した。「不要不急の外出を控えて下さい。繁華街の接客を伴う飲食店などへの外出自粛を強くお願いします」。2度の宣言を出した経験から、端的に分かりやすいメッセージを出すことを心がけたという。


詰め切れなかった休業要請

この際、知事の権限としてできるようになる「休業要請」が出るかどうかに注目が集まっていた。しかし、この時点で、道の「緊急事態措置」には盛り込まれなかった。鈴木知事は、今後、休業要請を検討する方針を明らかにした。事業者への支援金なしに休業要請はできないと考えていたため、財源の裏付けなどの調整が必要だったからだ。
道幹部は、「知事権限を決めるのはそう簡単ではない。道の財政では絶対できないから、国の交付金に頼るしかない」と厳しい懐事情を明かした。


上積みされた支援金

4月19日、道幹部は休日を返上し、大急ぎで支援金の検討に入った。担当部局が作成した当初の案は、「1店舗は10万円、複数店舗は20万円」というものだった。しかも、飲食店は支援の対象に入っていなかった。飲食店への必要性は十分感じながらも、対象に加えれば、総額が倍増することを懸念する声が一部であったからだ。
鈴木知事の決断は、「飲食店も対象にする」だった。この背景について道幹部は「札幌市からは飲食店を加えるよう強く要望されていて、それを知事は考慮した」と振り返る。また別の幹部は「飲食店が入らなければ知事への批判が爆発していたかも知れない」と安堵の声を漏らす。
結局、飲食店には休業要請はしないものの、酒類の提供を午後7時までとするよう要請するなど、道独自の支援金の考え方が整理された。一連の制度設計が詰められたのは、知事が道の対策会議で明らかにした7時間前だった。


記者が見る知事像

前例なき緊急事態宣言を出した鈴木知事は、「北海道モデルとして感染拡大防止策と経済の両立をはかる」と自らの施策が全国の先進事例になると主張した。そして鈴木知事は、「緊急事態宣言を経て、爆発的な感染拡大が抑えられていて、医療崩壊を回避できている。こうした状況を国は冷静に分析していくべきだ」と話していた。
いったんは、感染を封じ込んだトップリーダーとなり、その施策を自負していたものの、その後の第2波の襲来で、感染症対策の難しさを直面する形となっている。経済との両立を打ち出す時期が早すぎたのではないかという指摘も出ている。
知事就任からこの1年、取材で道議会議員らからよく聞くのは、「道独自の具体策はほとんどなく、国頼みだ」という調整型の知事像だ。
緊急事態宣言、学校一斉休校、外出自粛要請。全国に先駆けた取り組みを立て続けに打ち出すことで注目を集めてきた鈴木知事。感染症対策の難しさに直面し、どう本格的な封じ込めを行っていくのか。
札幌でマラソンや競歩が開催されることになっている東京オリンピックも1年延期された。2年目に入り、インパクトのあるメッセージを道民は待っている。

道庁キャップ・熊谷仁美記者

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