NHK札幌放送局

生乳廃棄を回避せよ 酪農をじわり襲う16年ぶりの“危機”

ほっとニュースweb

2021年12月14日(火)午後3時48分 更新

みなさんは最近、牛乳を飲んでいますか? 

「給食で毎日飲んでいるよ!」という小学生から「めったに飲まないなぁ」という方までいろいろかもしれません。

かくいう私も北海道で生まれ育ち、小さいころは「身長が伸びる」と言われてよく飲んでいましたが、大人になってからはあまり手が伸びなくなったというのが本音です。

そんな私が、先月新潟から札幌に赴任して農業を担当することになりました。となると、道内最大の「農業産出額」を占める酪農を知らないわけにはいきません。

さっそく取材を始めると、いま北海道の酪農を16年ぶりの“危機”がじわり襲っていることを知りました。(札幌放送局 山口里奈)

好調な生産が一転して“危機”に

酪農を調べ始めて、まず気になったのは生産量の動きです。

おおむね増えてきているのですが、ここ数年、増え方が急になっています。

道内の生産量は平成22年度には都府県、つまり北海道以外の生産量を上回りました。その後、停滞の時期はありましたが、平成29年度からふたたび増加に転じました。

昨年度の生産量は前の年度より1.6%増加し、今年度はさらに3%増えて428万トン。過去最高を更新し続ける見通しです。

こんなに好調なのに、なぜ“危機”なのか?それは、生産は好調な一方で消費が低迷していることが原因です。

ここにも影響を及ぼしたのが新型コロナウイルスの感染拡大です。

緊急事態宣言で外食を減らした人も多いと思います。観光地として有名な北海道からも、観光客の姿が消えました。飲食店向けに消費されていた業務用の「生クリーム」や「バター」などの乳製品を中心に、需要が大きく落ち込んだのです。

積み上がる未曾有の「脱脂粉乳」

取材を進めながら、「生産は増えて消費が落ち込む」といったいどういう問題が生じるのか、疑問が浮かびました。そして、いろいろ探っていくうちに、その問題は「脱脂粉乳」と「バター」に象徴的に起こることが分かりました。

脱脂粉乳とバターの特徴、それは比較的長期間、保存が利くことです。ほかの牛乳や乳製品はどうでしょうか。飲用の牛乳や生クリームの賞味期限は2週間ほど。これに対し、生乳を乾燥させ、脱脂粉乳にすると保存期間は1年半にまで延びます。バターも業務用であれば、冷凍で2、3年ほどは保存することが可能です。つまり、困ったら脱脂粉乳やバターにして保存することになります。

広がる需要と供給のギャップを脱脂粉乳やバターに加工してしのいでいるうちに、どんどん在庫が増えていったというわけです。その量、業界団体によると、過去最高水準まで積み上がっているということです。

“危機”に直面した生産者団体。踏み切ったのは、生産を抑えるという決断でした。

具体的に決めたのは「来年度の生乳の生産量を今年度に比べて1%の増加にとどめる」という方針です。

「1%とはいえ、増えるんじゃないか」と思う方もいるかもしれません。しかし、これまでは長期間、「生産したいだけ生産する」という方針だったので、これは大きな転換です。数字を決めて生産を抑制するというのは、2006年度以来、実に16年ぶりのことです。

うまく回ってきた増産のサイクルが

そもそも酪農は、すぐに生産を増やしたり減らしたり、コントロールするのは難しい仕組みです。

「生乳」は「せいにゅう」と読み、牛から搾ったままの乳のことを言います。乳牛は人間と同じ哺乳類で、出産して初めて乳を出します。生産量の増減は「乳牛の頭数」で調整しています。

酪農家は飼っている牛から毎日、搾乳をしなければなりません。搾らないと牛が病気になってしまうからです。余っているからといって搾乳を止めることはできません。

道内の酪農家の多くは、歴史的に規模を拡大するために多額の設備投資をし、投資を回収するため、増産して売り上げを増やすというサイクルを繰り返していました。

折しも都府県の酪農の生産は落ち込みが続く一方、コンビニのスイーツ需要の高まりや海外からの観光客の増加などから乳製品の消費が拡大し、増産が歓迎されていました。

長期間、うまく回ってきた歯車。それなのにここに来て、急にかみ合わなくなったのです。

酪農が盛んな鶴居村で、70頭あまりの牛を飼育している松井俊治さん(59)も戸惑う酪農家の1人です。

松井さんは近隣の酪農家とともに飼料を生産する施設を建て、増産に乗り出そうとしていました。

それが一転して、生産の抑制に。松井さんは年老いた牛や体の弱い牛を肉牛にすることも検討せざるを得ないと表情を曇らせていました。

酪農家 松井俊治さん
「牛を飼っているのに乳を搾れなくなるのがいちばんこたえる。
何か方法を考えてここ2、3年を乗り切らないといけない」

産地によっては、一部の牛を肉牛とするのに奨励金を払うところも出てきています。

同じように生乳生産の過剰に見舞われたのが、今から15年前、2006年度でした。

このとき、生産者団体のホクレンは生乳の廃棄を余儀なくされ、生産者に大きなショックを与えました。こうした事態はなんとしても避けたいというのが関係者の考えです。

少しでも消費拡大を 産地の模索

もちろん、消費を増やしてギャップを埋めようという動きも出ています。とくに酪農が主力の道東で活発です。

鶴居村では、2000円分の牛乳券を全ての村民に無料で配布することになりました。

さらに釧路市では、若手の酪農家がクラウドファンディングの寄付金で購入した飲むヨーグルト7200本を医療従事者に寄贈しました。

JA阿寒青年部 浅野達彦 部長
「牛乳を絶対に廃棄しないということで努力している。
業界一丸となってやっていきたいと思うので協力をお願いしたい」

年末年始のピンチを乗り切れ

それでも短期的にはピンチが迫っています。それは年末年始です。

学校給食がなくなり、正月はスーパーも休みになって、牛乳や乳製品の消費が一時的に落ち込むからです。なんとしても廃棄のような事態は避けなければと、生産者団体は積極的な消費を呼びかけています。

JA北海道中央会 平田靖 農政対策部長
「乳製品の消費拡大に向けて1杯でも多く牛乳を飲んでもらい、 チーズ・バターもどんどん使って生産者を応援してもらいたい」

コロナで消費が落ち込み、余っているのは道産のコメも同じ。コロナ禍は、北海道の農業に大きな試練を与えています。

私も道民の1人として、生乳が廃棄されるようなことが再び起こらないよう、もっと牛乳や乳製品を手に取りたいと思います。そして、北海道が誇る酪農のいまを継続してウォッチしていきます。

札幌放送局 山口里奈

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