8月8日。停滞する前線の影響で函館は豪雨に見舞われました。
川の氾濫。折れてしまった橋脚。建物に流れ込む泥水。
湯の川温泉のホテル「笑 函館屋」も大きな被害を受けました。

あれから2か月。
10月6日のラジオ第1「北海道まるごとラジオ」では、支配人の植澤大作(うえさわ・だいさく)さんが再開までの苦難や当時の気持ち、経営者としての考え方の変化など、いま感じているありのままを語ってくれました。
NHKラジオ らじる★らじる
(10月13日午後7時までお聴きいただけます)


湯の川温泉は函館市中心部から車で東へ10分ほど。
その中にある「笑 函館屋」は津軽海峡に注ぐ小さな川の河口付近にあります。
あの夜、函館では1時間に80ミリを超える猛烈な雨でした。
植澤さんは、豪雨で川が氾濫し1階ロビーに濁った水が押し寄せた時のことから語りだしました。
植澤さん
「まず玄関に泥水が流れ込んできて、このホテルの地下にある貯水タンクやボイラー、エレベーターが浸水しました。水道が流れなくなって客室のトイレ、風呂のシャワーも使えなくなりました」

2年半苦しんできた新型コロナウイルスの影響がようやく落ち着き、久々のお盆のお客を迎えようかという時期。ようやく人の動きも活発になって来て会社を黒字化させていこうという矢先の出来事でした。植澤さんのショックは相当なものだったと言います。
植澤さん
「本当に頭が真っ白になって、何も考えられなかったです。復旧工事を始めた時も“半年はかかる工事だ”と業者に言われてしまいました。特に浸水したボイラーは丸ごと買い替える必要があったのですが、世界的な半導体不足などの影響もあって、なかなか手に入りませんでした。業者に探してもらってなんとか九州に1つだけ同型のボイラーが見つかったんですが、それだけでも800万円もしましたし、被害総額は2500万円ほどになりました」
休業期間中の予約のキャンセルは250組に上りました。植澤さんは「このまま廃業してしまうのではないか」というところまで追い込まれましたが、何とか踏みとどまり、当初の予定より大幅に早く、およそ1か月で営業再開にこぎつけました。
心の支えになったのは、ここに来ることを楽しみにしていた子どもたちの存在だったと言います。

植澤さん
「再開後、最初のお客さんは青森県の小学校の修学旅行生でした。修学旅行って1年前から何度も打合せをするんです。どんな子がいて、どんな食べ物が好きなのか、逆に何が食べられないのか。何度も旅行会社や学校の先生と打合せするんです。なので、ボイラーが届いて復旧の見通しが立った時、“この修学旅行生がくるまでには何とか復旧しよう”と全力で頑張りました。子どもたちを迎えた時は、、、涙があふれてきました」
頑張って良かったという気持ちと、再開に向けて励ましの声を掛け、協力してくれた多くの人たちへの感謝。植澤さんはこの気持ちを今後も絶対に忘れない、と力を込めました。
しかし、それだけでなく、“この経験をどう活かすか”が大事だと言います。
植澤さん
「浸水した地下室の排水ポンプは1機から3機に増やしましたし、玄関は水が浸水しにくくなるようにボードをはめ込んだり、次に備えて出来ることは始めています。函館は最近ハザードマップが更新されましたが、被害にあってからは、想定できる被害をすべて考えるようにしていて避難経路経路なども確認していますし、今後もさらに対策は強化していきたいと思っています」
マイナスも多かったが、今後に活かせるプラス面もあったという植澤さん。
「これ人気なんですよ」と紹介してくれたのは、利用者に無料で提供しているスパークリングワイン。宿泊客がチェックインの手続きをしたあとロビーのソファーに体を預け、グラスで美味しそうに飲む様子を嬉しそうに眺める笑顔には、逆境を乗り越えた強さと、今があることへの感謝と喜びが宿っていました。
(取材:NHK函館 奈須由樹、向井一弘)
#道南WEB取材班
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