NHK札幌放送局

FX投資で返金求め集団訴訟 ~勧誘の実態とは~

ほっとニュースweb

2022年11月16日(水)午後0時01分 更新

「会員制サイトは表向き“きちんとした会社”ですよと相手を信用させるためのものにすぎない」。知人や親族など100人以上に投資を勧誘した男性はこう話しました。

 11月、北海道内の男女11人がシンガポールの会社「SKY PREMIUM INTERNATIONAL」(以下、「SKY社」)の幹部や勧誘員などを相手取り、総額8000万円余りの損害賠償を求める集団訴訟を札幌地裁に起こしました。原告たちは外貨を売買して利益を稼ぐFX取引に投資するよう勧誘され出資しましたが、その資金の大半が返還されないと訴えています。 (札幌局記者 小栗高太)

退職金から1300万円を投資

原告に加わった50代の男性が現在の心境を語ってくれました。この男性はFX取引に投資した1300万円が返ってこないといいます。投資のきっかけは3年前(2019年)、知人から聞かされた話でした。

原告の男性
「早期退職をしまして、退職金の運用先を探していた時に元同僚から『運用利率が非常にいい投資がある』という話を聞きまして、『担当の方を紹介するので1回話を聞いてみたらどうか』と言われました」

男性は札幌市内のマンションの1室に案内され、「エージェント」と呼ばれる勧誘員からSKY社が運営する会員制サイトを紹介されました。会員になれば高級ホテルの宿泊やグルメ商品などを割引き価格で利用できるというもので、FX取引による資産運用も会員サービスの1つだと説明されたということです。

原告の男性
「エージェントの説明では、『運用に回すのは出資金の10%だけで損失のリスクが低く、年間10~20%の利益が見込める』ということだったので、退職金の運用先としては魅力的だと感じました」

男性は勧められるがまま、会員制サイトに入会してFX取引を始めました。当初は少額の投資でしたが、パソコンの画面上では利益が出ているように報告を受けたことから信用し、投資額を追加して、最終的には1300万円にのぼりました。

ところが去年(2021年)12月、SKY社が日本国内で金融商品取引業の登録がない「無登録業者」だったにもかかわらず投資の勧誘を行ったとして、東京地裁から業務停止などを命じられます。
これを受けて、男性は全額の払い戻しを求めましたが、1年近く返金はありません。会社とエージェントは「海外で送金トラブルが起きた」という説明を繰り返すだけだということです。

原告の男性
「会社側は『運用実態はあります』とか『待っていてください』と言うだけです。自分も多少は投資の勉強をしていたのですが、リスクが少なく、大きなリターンが得られるという話に甘えてしまったことが悔しく、非常に情けなく思います」

現役エージェントが語る勧誘の実態

取材を進めていくと、関東地方でエージェントをしているというA氏が、匿名を条件に取材に応じました。

NHKの取材に対し、A氏は、「SKY社は投資の勧誘を目的とした組織で、会員制サイトは表向き“きちんとした会社”だとアピールし、相手を信用させるためのものにすぎない」と言い切りました。組織はピラミッド型で、数人の幹部を頂点に10以上の法人が連なり、これらの法人に多くのエージェントが所属しているということです。そのうえで、SKY社は全国規模で投資の勧誘活動を行ってきたといいます。

A氏によりますと、SKY社は各地でセミナーを開催していました。そこで、「老後の蓄えに2000万円が必要だ」とか、「日本の銀行は金利が低いので預金しても意味がない」などと吹聴し、将来に不安を抱くようにしむけるということです。そのうえで、セミナー出席者にエージェントが接触して、FX投資の契約を結ぶというのが勧誘の定石だったと証言しています。

勧誘のために開かれたセミナー

A氏の話
「エージェントは全国に500人程度いると聞いていて、各地で勧誘活動にあたっている。年に1度、エージェントを集めたパーティーが開かれるが、そこには同程度の人数が参加していた」

2019年に開かれたエージェントを集めたパーティー

長年、エージェントの仕事を続けてきたA氏。これまでに投資を取り次いだのは友人や知人を含め100人以上、総額1億円余りにのぼります。勧誘に成功すると報酬が支払われ、多いときでひと月に200万円を超えたこともあったそうです。しかし今では、担当する会員から厳しく問い詰められ、会社への不信感が拭えなくなったといいます。

A氏の話
「資金を運用しているとされるFX業者と私たちエージェントもやり取りができない。最近では会員から『これは詐欺ではないのか』と追及されても、答えに詰まってしまう。本当に頭を抱えている」

巨額の資金はどこへ? 各地で提訴の動きも

証券取引等監視委員会によると、SKY社はおよそ2万2000人から1200億円を集め、海外銀行の口座に送金した上でFX取引で運用するなどと説明していました。しかし、実際には海外の法人名義の別の口座に送金されるなどしていて、SKY社は監視委員会に対して「集めた1200億円のうち500億円は投資家に返金したが、預かった資産の残高は不明だ」などと説明しているということです。

果たして、裁判で資金を取り戻すことは出来るのか。札幌地裁に起こされた集団訴訟の原告側代理人である、青砥洋司弁護士に聞いたところ、見通しは不透明だということです。青砥弁護士によりますと、SKY社の幹部やエージェントに出資金の返還を求める訴えはすでに東京、大阪、静岡など各地で起こされています。どの裁判でも、集められた巨額資金の行方の解明が最大の焦点になっているということです。

今回、札幌地裁での集団提訴についてニュースでお伝えしたところ、「同じようにSKY社のあっせんでFX取引に投資したが資金が返ってこない」という切実なメールがNHKにいくつも寄せられました。
投資した複数の人から話を伺うと、SKY社と接点を持った経緯は、人材育成セミナーで勧誘されたというものから、幼稚園のママ友から勧誘されたというものまで様々でした。いずれの人たちも、生活を少しでも楽にしたいとか老後の安心を得たいといった思いで、大切な生活資金を投資に回していました。FX取引というと富裕層の資産運用のイメージがありましたが、実際にはかなり身近なところで投資トラブルが起きているのだと実感しました。
SKY社やエージェントからは出資金の返還時期などが今も示されていないということです。出資者の不安を解消するためにもSKY社側は一刻も早く、集めた資金の残高や運用実態を明らかにする必要があります。NHKも引き続き、この問題について取材を進めていきます。

2022年11月16日


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