年間140万人が訪れる北海道旭川市の旭山動物園。動物本来の動きを間近にみることができる「行動展示」で人気です。
2022年4月29日、ヒグマの生態を伝える施設「えぞひぐま館」がオープンしました。
近年急増する人とヒグマのトラブル。施設にはクマとのあつれきをどうすればよいか考えるきっかけになってほしいとある展示物が置かれました。
知床のクマと人の関係を紹介
えぞひぐま館の一角に知床半島が書かれた大きなイラストが設置されています。

「しれとこヒグマ絵巻」という名前のこの展示物には、ヒグマの生態に加えて、畑を荒らしたり、牧場の牛を襲ったり、水産加工場に侵入したりと人の生活圏にクマが侵入したことで発生しているトラブルが紹介されています。
一方で、人がクマの生息域でエサをやったり、撮影をするためにむやみに近づいたりとクマ本来の生態を崩すことにつながる行動をしていることも紹介しています。

制作したのは知床でヒグマの保護と管理を行っている「知床財団」です。世界的に見てもクマの生息密度が高い知床では、ヒグマが人の食べものの味を覚えたり、人を恐れなくなったりすることが問題になっています。
知床財団・川村喜一さん
「知床では人とヒグマというのは本当に近い距離にいて、日常茶飯事のようにいろいろな問題が起こっています。それは今や知床だけの問題だけではない。旭川や札幌といった都市部で問題が起こり始めています」

ヒグマと生きるためには
絵巻には、知床財団と住民がクマとのトラブルを避けるために行っている対策も紹介されています。
知床ではクマが人の生活圏に侵入しにくくなるように町に電気柵を張り巡らしたり、潜みやすい場所の草を刈ったり、ゴミ箱を荒らさないように頑丈なゴミステーションを設置したりしているのです。

イラストを担当したのは斜里町に住む絵本作家のあかしのぶこさんです。ヒグマと人との関係を書いた絵本も制作しています。あかしさんはともに生きるためには距離感が大切だといいます。
絵本作家 あかしのぶこさん
「自分で描いていて人がいない先端部のクマの方がのんびりしていて好きな生活をしている感じがします。人間が多い生活のところはクマもやっぱり緊張したり追い立てられたりそんなクマを描くことが多かった。イラストを見て自分の中から、これをしたらクマがかわいそうとか、これは少しモラルに反するとか自分なりの答えをこの絵巻を見て見つけてもらいたい」

旭山動物園には人の生活圏に入ったことで、事故などにあって保護された動物も多くいます。えぞひぐま館で飼育されている「とんこ」も母熊が駆除されて保護されました。
旭山動物園の坂東園長は動物園が北海道の自然の中で懸命に生きる動物たちへの気づきや行動の変化につながるような場所にしたいといいます。

旭山動物園 園長 坂東元さん
「動物園は自然を知る玄関口みたいな場所です。自然とは違い簡単にすごく近くでヒグマやシマフクロウを見られる場所です。みんながずかずかとシマフクロウを見に森の中に入って行けないですし、ヒグマもそうですけど野生動物には“それ以上近づいてはいけないよ”というのもあります。まず、動物園で感動だったり基本的な情報だったりを知って改めて知床を訪れていただく。例えば絵巻を読んで知床でレンタカーを借りてヒグマが見られたときに、もし知らなければ車を止めて降りていたかもしれないのが車から降りないといったほんのちょっとしたことにつながるかもしれない。動物園にはいろいろな方たちに知ってもらえるという意味で可能性が無限大にあります。自然とのつながりのワンクッションの場所としてしっかりとやっていきたい」

2022年5月25日
NHK北見放送局 記者 五十嵐菜希
「世代を引き継ぐ”人慣れクマ”」
ヒグマと距離を”知床でマイカー規制、どうなる?知床の未来