NHK札幌放送局

北海道農業の転換点?消える防風林

ほっとニュースweb

2022年1月25日(火)午後4時50分 更新

どこまでも続く農地に整然と並ぶ防風林。北海道ではおなじみの光景ですよね。こうした風景が、将来、変わるかもしれません。実はいま、農家が所有する「耕地防風林」が急激に減少しているんです。帯広市内では、最近10年間で、実に4分の1が伐採されています。農作物を風から守るはずの防風林が、なぜ・・・?取材を進めると、農業の大規模化や効率化が進む中で、防風林によって起こる「デメリット」を若手農家が避けるようになっていることが分かってきました。一方で、防風林の減少による影響への懸念も・・・。
(帯広放送局記者 米澤直樹)

防風林の減少に拍車

帯広市と帯広畜産大学では、定期的に帯広市内の耕地防風林の総延長距離を調査しています。平成12年には市内に総延長325キロあった防風林は、平成20年には305キロに減少。さらに平成29年までの10年ほどの間には、およそ4分の1にあたる85キロが伐採されるなど、減少のスピードには拍車がかかっています。

農地に陰ができて収量減

なぜ防風林が伐採されているのか。農家に直接聞いてみようと、帯広市の農家、棚瀬亮平さん(34)を尋ねました。棚瀬さんは地元の農協で青年部長も務める、若手農家のリーダーです。34点5ヘクタールの農地でビートやジャガイモなどを栽培しています。

棚瀬さんは、去年(2021年)12月、所有する防風林の10分の1にあたる、およそ180メートルを伐採しました。理由を尋ねると、切実な事情を話してくれました。

棚瀬亮平さん
「防風林で農地に陰ができてしまうことが理由です。ジャガイモやビートを植えている畑では、秋に雨が降った後に農地がぬかるんでしまい、乾きが悪いので作物が腐ってしまうのが悩みでした。収穫量が減ってしまう上、ぬかるんだ場所では大型機械の作業効率も悪くなってしまうんです」

棚瀬さんが悩まされていたのは、防風林によってできる陰による「湿害」でした。陰ができる場所は農地全体から見ればごく一部。それでも、効率的に収穫量を上げていきたいと考えている棚瀬さんには、見逃せませんでした。さらに、防風林を切るのには別の理由も・・・。

スマート農業にも支障

それが、去年購入した最新のトラクターです。将来の人手不足や農作業の効率化を考えて、去年1000万円以上を投じて購入しました。GPSを使って自動運転ができる設備を搭載していますが、防風林のそばではGPSの精度が落ちてしまうというのです。

実際に運転の様子を見せてもらいました。すでに畑には雪が積もっていたため、農地の脇にある作業道を走ってもらいました。最初は両手を離したまま自動運転していたトラクターが、防風林のそばに差しかかると、とたんに電波が切れてしまいました。棚瀬さんは、ハンドルを握って手動運転に切り替えました。

棚瀬亮平さん
「途中でGPSが切れてしまうと、均等に植えていた作物の畝が近づいてしまったりして、農作業への影響が懸念されます」

切ることが正解ではないけれど・・・

棚瀬さんは、防風林が風を防ぐ役割があることは理解した上で、総合して判断すると、メリットよりデメリットの方が大きいと考えています。今後も伐採を進めていく考えです。

棚瀬亮平さん
「一概に防風林を切ることが正解ではないのかなと考えていますが、湿害に悩まされているところは、早めに切っていこうかなと考えています」

防風林のデメリット、目立ちやすく

棚瀬さんのように防風林に悩む農家は少なくありません。防風林の減少傾向を受けて、十勝総合振興局は去年、十勝地方の農協の青年部に所属する若手農家を対象にアンケートを行い、200人あまりから回答を得ました。

大前提として、ほとんどの人が防風林のメリットを感じていることが分かりました。「防風林は農作物への風害を防ぐ効果があるか」との問いに対しては、実に86%もの人が、「効果がある」と回答しています。
その一方で、「メリットよりデメリットの方が大きいか」との問いには、全体の半数以上の人が「デメリットの方が大きい」と回答したのです。

では、どんなデメリットがあるのでしょうか。結果はすべて「複数回答」です。
▼農地に影ができて収量が落ちると感じている人が87%。
▼枝葉が落ちて生産性が落ちると感じている人が75%。
そして、
▼機械のGPSの精度が悪くなると感じている人が67%でした。

十勝地方では今、農業の大規模化や効率化がどんどん進んでいます。経営面を重視する若手の農家にとっては、防風林のデメリットが目立ちやすくなっているとみられます。

肥沃な農地 流出の恐れも

一方で、防風林を研究する専門家からは、「このまま防風林が減少すれば、大きな影響が出かねない」と指摘する声も出ています。道立総合研究機構(=道総研)の岩﨑健太研究主任は、防風林がこのまま減少すると風を遮るものがなくなり、肥沃な土が流されてしまうと指摘します。

道総研林業試験場道東支場 岩﨑健太研究主任
「1年当たりに飛ばされる土の量がたとえ数ミリの厚さだったとしても、それが10年続けば数センチになり、100年続けば数十センチになります。土ができるスピードは大体100年で1センチぐらいと言われているので、それを大幅に上回るペースで土が風で飛ばされ続けると、表土がどんどんなくなっていき、土が痩せていくというになりかねない。ちゃんと効果を理解して、残していくことが必要になってくると思います」

防風林が土の流出をどう防ぐのか、岩﨑さんが撮影した映像で説明してもらいました。こちらは2年前、十勝の清水町で撮影された映像です。防風林がない場所では風にあおられた土が舞っているのに対し、防風林がある場所では、農地は穏やかな状態になっています。

防風林の効果、正しく知って

防風林のデメリットを感じている農家が、防風林を残していくにはどうしたらいいのでしょうか。岩﨑さんは、まず、防風林の効果を正しく知ってほしいと話しています。岩﨑さんによると、防風林の防風効果は、風が吹いてくる風上側に木の高さの5倍、風下側に20倍の広範囲に及びます。木のふもとに起きるデメリットだけではなく、見えない範囲まで効果が及んでいることを知った上で、総合的にメリットとデメリットを比較してほしいということです。
また、木と木の間隔を広げることで防風効果を保ちつつ、日射も取り入れられるようにしたり、冬の間も葉が落ちないアカエゾマツなどの常緑針葉樹に植え替えることで、日陰や落葉のデメリットの改善にも繋がるのではないかと話しています。

コミュニケーションの場が大切

防風林の問題は、農業だけでなく、林業、交通、観光など、さまざまな分野にまたがります。岩﨑さんは、農家を対象にした防風林の効果を学ぶ勉強会を定期的に開いているほか、防風林の効果をまとめた冊子を作成し、道総研のホームページ上でも公開しています。今後も、防風林に関わる各分野の人どうしでコミュニケーションを取っていくことが大切だと考えています。

道総研林業試験場道東支場 岩﨑健太研究主任
「防風林はいい面もあれば悪い面もあって、一面だけ見ている状態では前に進めないと思います。林業サイドとしても、農家が感じているデメリットをどうやったら解消できるかを考え、お互いの立場を汲んで、コミュニケーションをとっていくことが一番重要だろうと思っています」

防風林の苗木を植えてから、効果を発揮する高さに成長するには30年近い年月がかかります。農家にとって最適な道は何なのか、早急に考えていく必要があります。今後も継続して取材していきたいと思います。

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