札幌市で町内会の運営が困難に直面しています。背景にあるのは、加入率の低迷と担い手不足。危機感を募らせる札幌市は10月、市民に町内会への参加を促すための新たな条例を制定しました。岐路に立つ町内会の現状を追いました。
(札幌局 三藤紫乃)
※Nらじセレクトで放送します 10/20 19:40ごろ〜 ラジオ第1/ らじるらじる
担い手がいない
9月、札幌市東区にある札苗連合町内会の会合を取材に訪れました。
所属する26の町内会で活動の中心を担う役員が一堂に会す幹事会です。
しかし、若い人の姿は見当たりません。それもそのはず、どの町内会も役員を務めるのは70代の人ばかり。この日に出席した27人のうち8割が70歳以上でした。

出席した役員たちからは切実な声が相次ぎました。
83歳の町内会長
「地域の住民は仕事をされている人がほとんどで、町内会活動をやっていただける方がいない」

70歳の町内会長
「去年、町内会の役員が一気に6、7名辞めてしまった。ところが、後釜になる人が見つからない」

町内会の役割って
町内会の活動。実は、果たしている役割は日々の生活に欠かせないものばかりです。
例えば「ごみステーション」の管理。どこに置くかや、清掃事務所との調整、清潔に保つための管理は、町内会が担っています。
そのほか、大地震が起きた場合などに備えた協力態勢づくりや訓練の実施。
防犯の呼びかけに、1人暮らしの高齢者や子どもたちの見守り活動。
さらに、札幌市では「パートナーシップ排雪」の制度の下、町内会が市と費用を分担する形で生活道路の排雪を行っています。

加入率は過去最低
求められる役割が多い一方で、町内会の加入率は減少の一途をたどっています。
札幌市内には計2184の町内会がありますが、その加入率は2022年1月時点で69.62%。7割を切り、記録を取り始めた1973年以降で最低となりました。
このままでは、存続が難しくなる町内会が増えると市は危機感を募らせています。

「メリットはあるんですか」
札苗連合町内会では低迷する加入率の底上げを図ろうと取り組みを続けています。
会長を務める岩谷隆司さん(74)たちは新たに越してきた若い世代に町内会の役割を知ってもらおうと地域の情報をまとめた冊子づくりを進めています。
子どもたちの見守りや災害への備えなど、町内会の活動が住みやすい地域づくりに欠かせないと加入を働きかけています。

時には、若い世代との価値観の違いに戸惑ったこともあったと言います。
岩谷隆司さん
「若い人たちは『メリット』っていう言葉を使って『町内会に入ると何かいいメリットがあるんですか』って聞いてくるんですけどね。私は町内会に入るのが当たり前のことだと思っていたので、当初はうまく答えられませんでした」

切実なのは役員の担い手不足
加入率の低迷に加えて切実なのは、中心になって活動する役員の担い手がいないことです。
定年の延長や廃止、再雇用制度の広がりで働く高齢者は増えています。これまで「顔役」を担ってきた60代前後の人たちが活動に時間を割けなくなっているというのです。
岩谷隆司さん
「昔であれば60歳で定年。その前は55歳で定年だったので、60歳くらいから役員をやってくれていたんだけど、今は65歳まで働くじゃないですか。そうした皆さんが役員をやるという話にはならないわけですから」

加入率の減少と役員の担い手不足ーー。
地域の助け合いが成り立たなくなると岩谷さんは警鐘を鳴らします。
岩谷隆司さん
「地震が起きた時に、顔見知りだったら、『こういうふうにしよう』、『ああいうふうにしよう』と、いろんなことが出来るけど、そうでなかったら大変なことになってしまう。何かあった時に自分たちの助けになるというのは、町内会じゃないと、なかなか出来るものではないと思います」
札幌市の新条例
町内会が直面する厳しい現状を受けて、10月、札幌市は新たな条例「未来へつなぐ町内会ささえあい条例」を制定しました。町内会への参加を促すための条例です。
市民に対し活動への参加に努めるよう求めるとともに、市が町内会を維持するための支援を行う必要があるとして、その「責任」を定めています。
条例に基づいて、市は、現在、町内会に委ねている事業項目を見直すほか、デジタルに詳しいアドバイザーを派遣して運営を効率化するなどの支援を行い、働きながらでも活動を担えるような環境づくりを進めたい考えです。
「ごみステーション」の設置費用の助成を充実させるなど、経費面での負担軽減も検討する方針です。

カギは外部パワーの取り込み
しかし、条例の制定で担い手不足の根本的な解決が見通せるわけではありません。
町内会をめぐる問題に詳しい地方自治研究機構の井上源三理事長は外部パワーを取り込むことがカギになると指摘しています。
地方自治研究機構 井上源三理事長
「2011年の東日本大震災をきっかけに、地域住民みずからがまずお互いに助け合う必要があるということ、そして、町内会活動の維持と活性化が必要不可欠だという認識は広がっています。加入率減少の問題は札幌市だけでなく全国共通の問題です。NPO法人やボランティアの方々といった組織や団体と連携・協力し、そうした視点を持って町内会活動や地域の取り組みを行っていくことが、今後、求められていくのだと思います」

役所任せで地域の実情を市民サービスに反映させることはできません。
町内会が担う役割をどう維持するのか。私たちが向き合っていかなくてはならない課題だと思います。

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