冬の農閑期に花を出荷できないか、七飯町の花農家が5年前から始めたのが「ラナンキュラス」という花。初めて扱う品種は特性や育成方法も手探りでした。試行錯誤を繰り返し仲間と日本一を目指す花農家を取材しました。
ラナンキュラスに魅せられた花農家
まだ寒さの厳しい1月に訪ねたのは七飯町の花農家・池田純也さんのハウスです。
雪が降り積もるなかで案内され見せていただいたハウスの中はお花が満開。長さ50メートルのハウスの奥までいっぱいに黄色や白やピンクの花が咲き誇っています。
これが池田さんの作る花「ラナンキュラス」です。

西アジアやヨーロッパ南東部が原産で春の花として最近人気のある花です。
バラやパンジーのような花もあれば菊のような花もあり、とにかく品種が多いのも特徴でその数4~500種類とも言われています。
池田さんはラナンキュラスの魅力についてこう話してくれました。
「なんといってもこの花の形だと思いますね。花びらが重なり合って、エレガントでもあって、上品でもあって、かわいらしい花だと。この花がすごく魅力です」
そして「感動してもらえる花を作りたい」と話してくれました。

美しさの決め手は温度管理
池田さんが冬のラナンキュラスの栽培を始めたのは5年前。「冬場に出荷できる花がないか、
この辺で誰もやっていないような花を何かチャレンジしたい」という思いからでした。
池田さんによると、七飯町では冬に花を出荷することはほとんどなかったといいます。
だからこそ北海道、函館のオンリーワンになれるのではないかという思いがあったそうです。
この5年をかけて花の育て方も分ってきたそうです。池田さんによると、きれいな花を咲かせるにはじっくり、ゆっくり育てることが大事だそうです。そのために必要なことはハウスの温度管理です。

ラナンキュラスは他の一般的な花に比べると栽培温度が低めの花で適温は5度から15度。この温度を維持することが良い花をつくるために重要です。池田さんのハウスは寒冷地仕様で二重になっていて暖かです。暖房を入れれば最低気温の5度を下回る心配はありません。一番気をつけているのがハウス内の気温の上昇だそうです。
取材の日も外気はマイナス2度だったのにもかかわらず、太陽が出るとハウス内はすぐに15度を超える気温になってしまいます。
そこで池田さんは太陽が出てくると、ハウスの扉を開けて冷たい外気を入れ温度を下げます。ラナンキュラスは25度以上になると花を咲かせなくなってしまうからだそうです。
そして冷えてくると扉を閉めて、また太陽がでると扉を開け外気で冷やす。このこまめな温度管理を行うことで花も大きく茎もしっかり太く立派に育てることが出来るのです。

日本一を目指す農家仲間
栽培開始から5年、池田さんは今では21種類のラナンキュラスを出荷するようになりました。ここまでこられたのは一緒に取り組んで来た仲間の存在があったからです。

花のおおよその栽培基準はあるそうですが、やはりその土地でやってみなければ分らないことだらけなのだそうです。ハウスの温度や湿度の管理、水の量や頻度、肥料の種類に二酸化炭素の濃度。さらに病気への対策などすべてが手探り、トライ&エラーだといいます。
池田さんたちは毎週のようにハウスに集まっては情報を交換してきました。
撮影に時には葉先の一部が枯れてしまう現象を相談していました。栄養素不足?ウィルスによる病気?植え方の問題?などなど、話して行くうちに「蒸れ」ではないかとなりました。

花の間隔が狭く植えられると成長と共に葉が密集して蒸れてしまうそうです。
換気をすれば改善できるのか?花を植える間隔を広げた方がいいのか?育てるスピードを遅くした方かいいのか?これから一つずつ答えを探してゆくそうです。

日本一と言われるために
花の出荷日です。この日は3人でおよそ5000本の出荷準備です。
池田さんたちは次々と出荷用の箱を開け始めました。独自で行う抜き打ち検査です。
Lや2Lと決めた大きさを満たしているか、茎の太さや首の角度は基準を満たしているかなど、厳しくチェックします。

この抜き打ち検査でダメ出しされた花は出荷を取りやめます。一束の中に1本でもダメなモノがあれば1束ごとお持ち帰りです。
この不合格の1本は規格通りの花の大きさでしたが、「首の角度が45度」という基準を満たしていませんでした。

自分たちで厳しい規格をつくりお互いに抜き打ち検査をして品質を維持する。
「良い物しか出荷しない」このこだわりが市場での評価につながってきました。
最近、東京の太田花市場では七飯町の花は品質がよいと評価されるようになりました。
池田さんはこれからの目標をこう語ってくれました。
「七飯のラナンキュラスが一番いいよね、って言われたい。もっともっと出来るんじゃないかなとみんなと意見を出し合いながら作っている最中です。そして、めざすは日本一!です」

【取材後記】報告:萬谷優一
今回、一番驚いたのは自主的に抜き打ち検査をやっている事でした。出荷用の化粧箱に詰めされた花を次々と出し始めたのです。それぞれが作った同じ品種を見比べ、お互いに厳しい指摘が始まります。一束一束はとてもきれいなのですが、比べてみると微妙な品質の差が分るのです。このばらつきの差が少ないことが産地の信頼になるというのです。
ラナンキュラスは全国的に九州や長野などがすでに大産地として存在しています。そんな中、東京の花市場では「新興勢力だけど、最新北海道の花はいいぞ、誰がラナンキュラスをつくっているのだ?」と噂になっているそうです。「いつも良い物しか出さない」という努力が実を結んでいるのです。
仲間と試行錯誤してきた5年ですが、実はこのメンバーだから品質を高めてここまでこられたのだと納得しました。
厳しい抜き打ち検査をしていたメンバーのひとり、築城さんは実は元JAの職員。しかも花の担当から花農家に転身した人。だからこそ、どんな花が市場で信頼を得るのかを知っています。最年長メンバー川村さんは花の専業農家で肥料や農薬の効果について詳しい知識を持っています。今回の取材にこられなかったもう一人のメンバーは、温度や湿度など栽培環境の管理がとても上手だそうです。このように農家仲間それぞれに強い分野があり、それぞれの情報や技術を教えあうことで生産技術を高めてこられたのだと分りました。
そうして池田さん達は夢ではなく、目標として「日本一のラナンキュラス」を目指しているのです。