NHK札幌放送局

農業もする!“パラレルノーカー” #十勝農業放送局

十勝チャンネル

2021年6月14日(月)午後8時26分 更新

3回目のテーマは「パラレルノーカー」です。初めて聞く人もいるのではないでしょうか。キーワードは「農業をする」から「農業もする」です。 コロナ禍の中、農業現場で広がる新たな働き方に注目します。

(NHK帯広 三藤紫乃記者)

酪農家?本業は・・・

パラレルノーカーとはどんな働き方なのでしょうか。5月下旬、十勝の更別村の牧場を訪ねました。

その牧場で働く、小西勇哉さん(24)との待ち合わせの時間は、午前6時。酪農家の朝は早いのです。あいさつもそこそこに仕事が始まりました。

この日搾乳するのはおよそ100頭の牛。小西さんを含むスタッフたちは、手際よく装置を取り付けては、牛乳を搾っていきます。

慣れた様子で仕事をこなす小西さん、実は酪農家ではありません。ふだんは旅行会社で営業を担当する会社員なんです。
会社に勤めながら、酪農にも取り組むこの働き方こそ、「パラレルノーカー」です。


パラレルノーカーって?

「パラレルノーカー」とはパラレル、つまり並行して複数の仕事をし、収入を得る働き方、「パラレルワーカー」をヒントにJAグループ北海道がつくった造語です。
JAは人手不足の解消につなげようとこれまで農業とかかわりが薄かった人に副業(複業)として農業現場の新たな担い手になってもらいたいと考えています。
JA北海道中央会で、このプロジェクトを担当する川村麻衣さんに聞きました。

JA北海道中央会 川村麻衣さん
「これまでは外国の技能実習生やパートの方に期間限定で農業をしていただくこともあったんですが、コロナ禍によってこうした人の流れが止まってしまいました。これまでも担い手の確保は大きな課題でしたが、コロナ禍でより浮き彫りになった形です。
これまで農業に関心のなかったような人たちにも農業を知ってもらい、職業として1つの選択肢になってほしいです」


コロナ禍で広がる 新たな働き方

新型コロナウイルスをきっかけにして動き出したパラレルノーカーの取り組み。この新たな働き方は、いま広がりを見せています。
冒頭に紹介した小西さん、ふだんは帯広市の旅行会社で働いていますが、コロナ禍の影響で旅行需要は激減しました。

キャンセルになったツアーの一覧には、来年3月末までの期間に予定されていた予約320件ほどが載っています。

この会社では、休業が増えたことから去年5月副業が認められました。
休みが増えたことで減った分の給料を補おうと小西さんが新たに挑戦したのが酪農でした。
牧場で働き始めておよそ1年。搾乳や牛舎の掃除など、酪農の仕事にも慣れてきたといいます。

小西勇哉さん
「正直酪農っていうのが未知数だったので、とりあえず飛び込んでみようっていうくらいな意識ではありましたが、自分の本業以外に別の仕事をすることで新たな視点で物事を考えることもできるようになりました。この経験を本業にも生かしていきたいです」

小西さんの働く牧場の経営者も、人手不足が深刻な酪農現場ではパラレルノーカーは貴重な戦力だといいます。

酪農家 渡辺浩明さん
「全体の作業の中で、特別なスキルがなくても教えれば慣れて取り組めることが多いので、副業として農業とか酪農とかそういった選択肢を選んでもらえるような環境がもっと整えていければすごくいいと思います」

酪農現場は知識や経験がないと踏み出せないといったイメージが強く、特に家族経営のような小規模な牧場には人が集まりにくいという課題があったといいます。渡辺さんはパラレルノーカーの働き方が浸透することで、気軽に仕事がはじめられるような環境がさらに整っていくことを期待しています。

パラレルノーカーは、酪農だけでなく畑作など、道内のさまざまな農業の現場で活躍しています。空港での業務が減った航空会社の社員が各地の畑で農作業にあたったケースもありました。


アプリで仕事探しも

副業として農業現場で働きたいという人を後押ししようと、新たなアプリも開発されています。

「デイワーク」という名前のアプリで、人手がほしい生産者と仕事を求める人をつなぎ、1日単位で仕事を見つけることができます。
およそ2年前に十勝地方で運用がはじまってから、その手軽さと充実した機能で、登録者が増え続けています。

一方、アプリの登録者数が増えるに伴って、これまでの農業現場では考えられなかった問題も出てきました。それは、仕事を求める人の数に対して、求人が少ないということです。
こちらはアプリに登録された十勝地方の求職者数と求人数のグラフです。

赤で示した求職者が求人の数を上回る状態が続いています。
例えば、ことし5月5日には、23人の求人に対して、その8倍以上にあたる197人が応募していたことがわかりました。
農家側の立場から、このアプリの普及を進める幕別町農協の担当部長は —。

とかちアグリワーク準備会(幕別町農協営農部長) 下山一志会長
「秋の収穫時期は農家が一斉に人手を募集するため、現在の登録者数だけでは足りないくらいですが、それ以外の時期は求職者が求人の数を上回るため、仕事を求める人の期待に十分応えられていない状況です」

農業現場には人手が足りていないはずなのに、なぜこのようなことが起こるのか。それは、農家の間でまだアプリが十分に普及していないことが理由だと考えられています。
幕別町農協の昨年度の「デイワーク」の利用状況を見ると、町内におよそ260戸ある生産者のうち、実際に利用しているのは33戸にとどまっています。
また、時期を問わず一定の人手が必要な酪農や畜産の場合、1日単位で1人ずつ募集をかけるよりも、一定の期間で雇用したいという生産者が多く、アプリの利用を控えているのではないかとみられています。
農協は、今後、人手不足に悩む農家にアプリの利便性について説明するなど、さまざまな取り組みを進め、アプリの普及を図っていくことにしています。
さらに、気軽に人を集められるようになったことで農業現場では別の課題も見えてきました。


働きたい農家・働きたくない農家 お宅はどっち?

少しドキッとするタイトルがつけられているのは、十勝の農協でつくる「とかちアグリワーク準備会」が制作した動画です。

アプリなどを活用して幅広く人を集められるようになったことで、農業現場ではアルバイトの受け入れに慣れていない一部の農家のマナーが問題になっています。このため、農業アルバイトを経験した人たちの声をもとにこの動画がつくられました。

動画は「求人内容にあった仕事と全く別の仕事をさせられた」「“親戚が見つかったので”など、キャンセルの言い訳が勝手」「怒鳴られた」など実際に寄せられた意見を参考に制作されました。
動画には十勝の農家も出演し、良い例と悪い例を紹介しながら、アルバイトを雇用する際の注意点を伝えています。
動画を見た生産者からは「ありそうでなかった内容」「参考になる」と反響があったということです。

とかちアグリワーク準備会(幕別町農協営農部長) 下山一志会長
「“農業に初めて触れてみたい”“体験してみたい”そういうことで仕事を選ばれる方もいますので、農業のファンになってもらえるような取り組みを農家さんにもお願いしたい」

コロナ禍をきっかけに広がる新たなスタイルの働き方、「パラレルノーカー」。
北海道の農業現場を支える大きな力となりそうです。

【取材を終えて】
パラレルノーカーは、農業現場を支える新たな働き方として期待されますが、裏返せば新型コロナウイルスによって、いやおうなしにこれまでの働き方を変えざるをえない人たちがいるということです。
取材に応じてくれた小西さんや旅行会社の人たちは、実情を知ってほしいと旅行業界の厳しい現状も教えてくれました。
そんな中でも、小西さんをはじめとしてコロナ禍をきっかけに新たな道を切り開いていく人たちもいます。
JA北海道中央会は「副業」を「複業」とも表現していました。どちらかの仕事が「主」でもう片方の仕事が「副」という位置づけではなく、複数の仕事を平行して行うという考え方に基づいています。
今後、働き方の多様性は進んでいくと思いますし、アフターコロナの時代にも、その動きは続いていくと思います。
「パラレルノーカー」という働き方をまずは知ってもらい、職業の選択肢として選ばれるような環境、仕組みづくりが進んでいってほしいと思います。

2021年6月4日放送

これまでの取材報告はこちら▼
#1「新型コロナと農業」現場で何が
十勝の特産品、小豆生産の現場で起きていること…

#2 外科医が農家になりました
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