NHK札幌放送局

第2回「海洋ゴミと知床」

知るトコ、知床チャンネル

2020年7月21日(火)午後1時01分 更新

シリーズ「知床に生きる」。今回は「人が出す海洋ごみと知床」をテーマに伝えます。 知床は、海から陸へとつながる生態系が評価され、世界自然遺産に登録されました。豊かな生態系は、海流が運ぶ栄養分が源になっています。しかし、この海流人が出した多くの海洋ごみも知床に運んでいることが、北海道大学の最新の研究で分かりました。 (取材・北見放送局記者 五十嵐菜希)

海洋ごみが押し寄せている場所は、知床の奥地にある「核心地域」です。世界遺産の地域の中で、最も貴重で、ありのままの自然を守る必要がある場所です。
一昨年から、北海道大学の研究チームは知床半島の核心地域にどれだけの海洋ごみが漂着しているのか、そしてそれらはどこから運ばれてくるのか調査を始めました。調査方法は300平方メートルの調査区画を数か所設定、ドローンで定期的に上空から撮影し、ごみの個数や種類を特定するというものです。
これまでの3回の調査の中で、もっとも多かった場所では1200個以上の海洋ごみが漂着していました。

大半は漁具やペットボトルなどプラスチックごみで、ハングルが書かれた袋など海外からも流れ着いていることも分かりました。
プラスチックは紫外線による劣化や波にもまれて砕けるなどして、5ミリ以下のマイクロプラスチックに変化します。生物が取り込み、生態系全体で蓄積されるなど深刻な影響を与えるおそれもあります。

北海道大学低温科学研究所 白岩孝行 准教授 
「最も豊かな自然が残っているシンボルのような地域です。こういう所にごみがあるというのはそれなりに我々にとってもショッキング。」

知床になぜ多くの海洋ごみが集まってしまうのか。
白岩准教授は、この地域特有の海流が要因となっているといいます。知床半島の沿岸にはオホーツク海の寒流と日本海からの暖流が流れ込んでいます。
この海流が栄養を運び豊かな生態系を作り出しているのですが同時に、知床に海洋ごみを集める結果になってしまっているのです。

北海道大学低温科学研究所 白岩孝行 准教授
「大きな海洋循環に対して、知床半島は少し飛び出して循環を邪魔するような位置にあります。知床にいろいろなものが集まってくるという意味で循環の終着点のような場所になっている。」

また、知床の海洋ごみは、簡単には回収できないのが課題となっています。「核心地域」は、深い森に囲まれています。たどり着くには、細く険しい林道を通るしかなく、大量のごみを処理するために必要な重機を持ち込むことが簡単にはできないのです。
環境省の許可を受けたボランティアが、年に2回程度、手作業で回収していますがすべてを持ち帰ることはできず、大きなものは残さざるを得ないのです。

(今年6月撮影、搬出されるのを待つ漂着ごみ)

北海道大学低温科学研究所 白岩孝行 准教授
「地元のボランティアの皆さんがこの地域に入っていますがごみの収集の量も限られてしまい、大量にあるごみのほんの一部しか回収できない。大部分は非常に大型のごみなので、人力で回収するのが大変難しい。こういうボランティアではどうしても解決できない問題がこの地域にはある。」

海洋ごみが知床に着く前に減らすことができないか、活動を続けている人がいます。地元・斜里町の漁業者、伊藤正吉さんです。
4年前から網にかかったごみを回収したり、船の上のごみの持ち帰りを徹底したりしています。

「現状を知ってもらいたい」と知床の海のいまをインスタグラムで発信。
去年7月には網にかかったのは大量のプラスチックごみについて投稿しました。
「魚の数よりも多い」と衝撃を受けたからです。

伊藤正吉さん
「毎年清掃しているにもかかわらず、これかという残念な気持ちもありました。」

6月、伊藤さんは、知床の核心地域から50キロ以上離れている地元の浜辺の海洋ごみを回収しました。仲間の漁業者、そしてインスタグラムを通して伊藤さんの活動を知った、網走市と斜里町の女性も参加しました。

斜里町ウトロに住む藍さん
「漁師の友達がたくさんいますが、漁師さんがごみ拾いをすることを全然想像したことがなかった。やっている人がいるということがうれしくて、参加しました。」
網走市に住む水島さん
「ことしから網走の方で知り合いを誘って同じように海岸の清掃をしています。いずれ数珠つなぎのようにオホーツク沿岸でこういう活動が広がってほしい。」

伊藤さんたちは強い日ざしのなか、砂浜を往復3キロ、ごみを拾いながら歩きました。プラスチックのじょうろや漁に使う浮き、それにペットボトルやレジャーシートなど、およそ2時間で4トントラック1台分のごみを回収しました。

伊藤さん
「自分の庭というか生活の一部になっている、きれいなのが当たり前であってほしいなと思います、家の庭にはごみを捨てないと思う、海も同じ、そういう思いでやっていきたいと思います。」

北海道の大自然の象徴、知床の海を守るためにはどうすればいいのか。
北海道大学の白岩准教授は知床に住む人たちだけではなく、私たち自身の生活も見直す必要があると指摘しています。

北海道大学低温科学研究所 白岩孝行 准教授
「知床にごみが来るというのは知床の問題ではなくて、むしろそれ以外の地域です。それ以外の地域の方々にプラスチック製品を廃棄しないとか、使用を少なくするとか、いろいろな取り組みが必要です。成果がでるまでに大変長い時間がかかると思う、そういう取り組みを進めつつ、現場のごみを少なくしていくという両方の面からの取り組みが必要です。」

知床国立公園を管理する環境省は地元の人たちやボランティアなどと一緒に手作業で回収する地道な対策しかないとしています。
一方、北海道大学の白岩さんは知床のごみの全体量を推定したりもっとも多くなる時期を調査していて、知床の管理について有識者が助言している「知床科学委員会」に効果的な回収の方法や時期を提案したいとしています。

オホーツク海側では、いま海洋ごみの問題について徐々に関心が高まっています。伊藤さんの活動に参加した2人はことしから、網走市と斜里町ウトロでそれぞれ定期的にごみを拾っています。
伊藤さんの「家の庭にごみを捨てない」言葉のとおり、ごみを減らすこと、ごみを拾うことを日常にすることが大切なことだと感じました。

(取材・北見放送局記者 五十嵐菜希)

第3回「海の魅力伝える観光船の船長」web記事はこちら

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