NHK札幌放送局

マイカー規制へ 変わる知床の観光

ほっとニュース北海道

2020年12月18日(金)午前11時53分 更新

これまでマイカーで自由に観光ができていた世界自然遺産「知床」。知床が世界遺産になって15年、年間100万人が訪れる観光地は、過去にないほどに、ヒグマによる人身事故の危険性が高まっています。人慣れクマをこれ以上増やさないために、これまでの観光のあり方を大きく見直し、ヒグマの保護にかじを切ろうと動き出しています。 (北見放送局 住田達)

マイカー規制がクマを守る!?

10月の知床・斜里町、3日間限定ながら、大規模なマイカー規制が行われました。やってきた人はすべて、世界遺産エリアの入り口の駐車場でシャトルバスに乗り換え、知床五湖など景勝地に向かいました。
世界遺産地域のほぼすべての道路を規制したことで、道路わきのヒグマを見るためにマイカーを止める「ヒグマ渋滞」や野生動物への餌やりは起きませんでした。
一方、観光客が乗り換えたシャトルバスの一部にはガイドが乗り込み、マイカーで自由に行き来できないかわりに、世界的に貴重な自然についての解説を聞きながら道中を過ごすことになりました。

シャトルバスに乗った観光客
「マイカーではなかなか気づけないところを保護されている方の話を聞くことができるのでよかったです」

その1か月後の11月。規制が解かれた世界遺産内の道路で、ヒグマを見るための車列が出来ていました。
遺産地域の入り口の道路には、“おにぎり”がありました。観光客が餌やりをしたとみられています。

一時的な対策が終わったとたんに、ヒグマとの危険な遭遇につながるおそれがある行為が、再び繰り返されていました。ひとたびヒグマが人を傷つける事故が起きれば、そのヒグマをそのままにできないだけでなく、知床の現在のあり方そのものを揺るがすことになりかねません。

チェンジ! ヒグマの活動期 マイカー→シャトルバス

知床では今、これまでの観光のあり方を抜本的に変えようとしています。
目指すのは、今回のような短期間ではなく、7月から10月までの夏のヒグマの活動期にあわせた継続的な道路規制です。

この構想の中心的な役割を担っているのは、斜里町役場の南出さんと知床財団の秋葉さんです。

斜里町環境課 南出課長
「新しい公園計画のデザイン作りや魅力ある知床をつくっていくことが必要だと思っています。ここ何年かで課題となっているクマと人のあつれきや、それに関連した交通渋滞などを、知床の魅力をつくっていく中で、解決を同時に図っていきたい」
知床財団・秋葉さん
「保全上の問題や、野生動物とどうやっていくかという問題を考えた上で、交通や道路の利用などが、解決の糸口になるのではないかと思います。観光の構造というか、利用のしかたを変えていかなければいけないのは確かだと思います」

実現には「輸送力」が課題 観光客が減る!?

知床本来の自然を守り続けるための挑戦。2人が洗い出した大きな課題のひとつがバスの「輸送力」です。
知床最大の観光地「知床五湖」には、マイカーを中心にシーズンに30万人が訪れます。10月のマイカー規制の際には、44人乗りのバスを1日34便、運行しました。仮に、開園期間のおよそ半年、毎日、同じ便数を運行したとしても、輸送可能な人員は18万人。受け入れ可能な観光客は、4割も減る試算になりました。

さらに「コスト」「運営体制」「仕組みづくり」など、乗り越えるべき課題は数限りなくあることがわかりました。こうした課題を解決していくため、登山道へつながる道路など、需要が少ないバス路線には、自動運転技術などを活用していくことも考えています。

知床財団・秋葉さん
「課題はまさに山積でやるべきことはたくさんありますが、長い目で見たときに、ここの場所をどうしていきたいのか、どうありたいのかということを、もっと言葉を尽くして議論していかないといけないと思います」

「滞在型」へのきかっけに

知床の世界遺産エリアに隣接して営業しているホテルの中には、マイカー規制が、知床観光の変化につながると期待を寄せているホテルがあります。
これまでの数に依存する通過型の利用から、より長い時間過ごす滞在型に移行するきっかけのひとつになると考えているからです。
新型コロナウイルスの影響が長引く中で、数から質に転換することへの期待は大きくなっています。

ホテル 桑島専務
「大量消費の時代から意味のある消費の時代に変わってくると思います。規制によって客の数が減る可能性があることは理解していますので、制度設計の中で滞在時間を増やしていただき、いい方向に今回の規制がいけばいい」

今後はどうする?

世界遺産エリアでのマイカー規制とシャトルバスの運行をどうしていくのか。12月7日に開かれた知床世界自然遺産地域適正利用・エコツーリズム検討会議の部会に、関係者が集まり今後の方向性について意見が交わされました。

知床温泉旅館協同組合から出席
「シャトルバスの運行は、いいことだと思いますし、将来、知床にプレミアム感が出ればいいと思います」
知床ガイド協議会から出席
「シャトルバスの利用者の満足度も高かったと聞いているので、来年度もまた持続してできればと考えています」

取り組みの方向に同意する声がある一方、長い期間にわたるマイカー規制には、慎重な意見もあります。

知床斜里町観光協会から出席
「通年とか3か月とかロングスパンになるときつい部分もあります。観光業界としては、地域の経済が崩れてしまうようでは元も子もないので、慎重に議論を重ねながら、いい方向に進めていければと思っています」

世界遺産にくる人は?

マイカー規制とシャトルバスでの利用について、観光客自身はどう考えているのでしょうか。北海道大学花卉・緑地計画学研究室が、ことし8月から10月にかけて知床にやってきた観光客にアンケート調査をした結果が、会議の席上、報告されました。

【望ましいマイカー規制の期間について】
「通年で行う」28.7%
「特に利用が多い時期に、数か月連続して」38.3%
「特に利用が多い時期に、数週間程度」19.5%
「特に利用が多い時期に、数日だけ」10.7%
「その他」1.5%
「無回答」1.3%
(調査:北海道大学 花卉・緑地計画学研究室)

2020年のシーズン中、知床で行われた、マイカー規制に伴うシャトルバス運行は2回、8月の7日間【知床五湖〜カムイワッカ】と、10月の3日間【知床自然センターから遺産エリアすべて】です。
この2回の期間中、シャトルバスに乗った人の回答を分析すると、「通年」・「数か月連続」が望ましいと答えた人の割合が71.2%にのぼり、実際に利用した人は、長期間にわたるマイカー規制とシャトルバスの運行を望む傾向にあることが分かりました。

3年間のマイカー規制継続へ

会議では、今後3年間、ヒグマの活動期にあわせたマイカー規制とシャトルバスの運行を試験的に続け、その期間については議論を重ねていくことになりました。また、同時に、滞在型の観光地としての魅力を増やす方法についても、検討することになりました。

斜里町・南出さん
「地域の皆さんに10月に実施した結果がある程度よかったと受け止めていただいたと感じています。今回は、3年間の中で試行していくことを確認したので、3年後の目標を定めた上で、改めて地域の皆さんにご提案・ご説明させていただき、よりよいものにしていければと思います」
知床財団・秋葉さん
「皆さんいろいろな考えがあるので、すぐに1つにはならないですし、できるとも思っていません。ほかの国立公園では10年や20年をかけて完全なマイカー規制などを達成していますので、時間をかけながら徐々にステップアップをしていく。ここの自然を守って受け継ぐという変わらない目標を達成するために、変わり続けなければいけない」

2020年12月9日放送


【次回の取材に向けて】
ヒグマと人のあつれきに関する問題は、知床で長年議論されてきました。しかし、「どうすれば観光業の落ち込みを防ぐことができるか」が課題となり、議論が行き詰まってきた過去があります。こうした中で、今回、3年間のマイカー規制の試行が決まったことは、変革への大きな一歩なのだと思います。
取材の中で知床財団の秋葉さんは「観光客数と滞在時間、消費額をかけ算した合計を大きくする方法を追い求めていくことが必要だ」と話していました。
知床に訪れる観光客のうち宿泊する人は35%程度です。マイカー規制を行いながら、どうすれば知床が滞在型の観光地へと変わっていけるのか。具体的な道筋が提示できるかが議論の焦点となりそうです。

(北見放送局カメラマン 住田達)

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