本州では連日、記録的な暑さとなっていますが北海道も夏本番を迎えます。この時期に心配なのは熱中症。実は都道府県別の熱中症による救急搬送数で、去年は北海道が9位。福岡県や千葉県とほぼ同じくらいの人が救急搬送されているのです。

本州と比べて涼しく過ごしやすいはずの北海道で、なぜ多くの人が熱中症にかかるのか―。私、丸山が体を張って熱中症の危険性について体験するとともに、北海道で熱中症にかかる人が多い理由と、今からできる対策についてお伝えします。
丸山予報士が熱中症の危険性を体験!

実験は季節外れのストーブと加湿器を持ち込んで、NHK函館放送局の1室で熱中症の危険性が高い環境を再現。そこで20分間過ごしてみるという形で行いました。

「暑さ指数26℃」を超えると熱中症の危険性
では、具体的に熱中症の危険性が高い環境とはどのような状態なのか。熱中症の危険度を表す指標に「暑さ指数」というものがあります。環境省の資料によると、道内では暑さ指数26℃を超えると救急搬送される人の数がぐっと増えると指摘されています。そこで今回の実験では、暑さ指数26℃の環境を再現してみました。

大まかな計算ですが、暑さ指数26℃は気温28度、湿度80%くらいの環境になります。函館の最高気温(平年値)は7月で約24℃、8月で約26℃、湿度は7月、8月とも80%くらいです。つまり、道南で暑さ指数26℃になるのは、平年より2~4℃気温が高い日の日中くらいの環境といえます。

いざ実験!
実験は環境省の資料などをもとに、水分や塩分、体を冷やす冷却まくらなどを用意して万全の安全対策を行ったうえで実施しました。

実験を始めてみると、日ざしがあるわけでもなく、30℃を大きく超えるような気温でもなかったため、とてつもない暑さを感じるというわけではありませんでした。

ただ、開始1分程度で湿気が肌にまとわりつくような感覚があり、息が詰まるようなじめじめとした空気に包まれるのを感じました。

次第にじわじわと汗が出てきて、その汗が乾かないため体の熱がこもっているように感じました。
ひっきりなしに汗を拭きますが、なかなか体の熱が逃げていかず、終了5分前くらいには頭がぼーっとしてきました。

水分と塩分をこまめに補給しながらなんとか20分の実験を終えることができました。高校時代、野球部で炎天下の練習に励んでいたため、体力には自信があった私。「20分くらいなら大丈夫だろう」とたかをくくっていましたが、救急搬送数が増えてくる暑さ指数の環境で長く過ごすことは熱中症の危険性を高めるということを身をもって学ぶことができました。
暑さ指数が高くなる理由は?カギは「湿度の高さ」

暑さ指数を算出する要素は「気温」「湿度」「ふく射熱(日ざしなどから受ける熱)」の3つで、このうち湿度が7割を占めています。湿度が高くなると、かいた汗が乾きづらくなり、体から熱を逃がしにくくなります。そのため、熱中症の危険度を測る際には湿度が重要な要素となります。では、道南の湿度はほかの地域と比べて高いのでしょうか?

こちらは平年の各地の7月、8月の平均湿度です。去年の救急搬送数が全国1位の東京都や、北海道より気温が高く救急搬送数が北海道とほぼ同数の福岡県に比べて、函館市の湿度が高いことがわかります。海から湿った空気が入りやすいため、函館市をはじめ道南の夏はほかの地域と比べて蒸し暑くなりやすい傾向にあります。
これからできる対策とは
暑さ指数は25℃以上で「警戒」(運動などの際は定期的に十分な休憩を取る)、28℃以上で「厳重警戒」(外出時は炎天下を避ける、室内でも気温の上昇に注意する)、31℃以上で「危険」(外出はなるべく避けて涼しい室内に移動する)-となっています。私が体験した暑さ指数26℃は「警戒」のレベルにあたります。

函館市の去年の暑さ指数はご覧の通りです。7月中旬から「警戒」「厳重警戒」がぐっと増えて、8月上旬ごろまで同様の状態が続きます。それ以降は「厳重警戒」以上こそ減るものの、引き続き「警戒」の多い状態が続きます。気象庁の長期予報などから、ことしの7月、8月も同じような傾向になるか、「警戒」以上の日がさらに多くなる可能性があります。

熱中症のリスクが一気に高まる7月中旬までにできる対策が「暑熱順化」です。「暑熱順化」とは、暑くなり始めた時期に汗をかきやすい体づくりをすることで、熱中症になりにくい体の状態にすることです。
具体的には1日30分程度のウォーキングやジョギング、ストレッチなどの軽い運動を週5日程度行ったり、湯船にしっかりとつかる入浴を2日に1回程度行ったりするとよいとされています。個人差はありますが、2週間ほど続けることで汗をかきやすく、熱中症になりにくい体をつくることができます。
7月3日には道南でも最高気温30度以上の真夏日となった地域がありました。すでに昼ごろの時間帯は熱中症の危険性が高い日が多くなるため、朝や夕方以降の比較的過ごしやすい時間帯を使って、ぜひ暑熱順化に取り組んでみてください。暑さに強い体をつくって夏本番を迎えましょう!
取材:丸山 将(まるやま しょう)気象予報士
神奈川県横浜市出身。大学卒業後は俳優や司会業、全国紙記者などを経て2021年、気象予報士の資格取得。2022年4月からNHK函館放送局で気象キャスターを務める。
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