NHK札幌放送局

これからの“地方移住”の話をしよう

北海道道

2021年1月27日(水)午後6時00分 更新

コロナ禍で働き方が多様化する中、注目が高まっているのが「地方移住」です。北海道はこれを好機とできるのか、ポテンシャルと課題を探った北海道道「地方移住 ようこそ北海道へ」(2020年12月11日初回放送)。移住政策に力を入れる上川町の佐藤芳治町長、北海道を含め全国でホテルを経営する龍崎翔子さん、今年本社を東京からニセコへ移転させた会社の水口博喜会長の3人のインタビューを、番組でお伝えしきれなかった分も含めて公開します。

総合で全国放送されます!
【総合】1月29日(金)午前10:15~10:40

上川町・佐藤芳治町長「地方の豊かさ 外から掘り起こして」

いま町を挙げて移住者の呼び込みと定住に力を入れている自治体のひとつが、道北の上川町です。佐藤芳治町長は、地方が注目される今こそ、行政が積極的に打って出ていく時だと話します。

―地方に目を向ける流れは、コロナで加速したと感じていますか?

コロナでそういう動きに拍車がかかった、あるいはもう一度我々の暮らし方なり働き方を見つめ直してみようという価値観の変化が間違いなく起きていると思います。
国は「地方創生、地方こそが主役」なんて言いますけど、そんなかっこいいもんじゃなく、大変ですよ地方は。でも全体的に、地方の豊かさといったものに目が向けられてきたかなと。
田園回帰とかだけではなく、人が暮らし働いていく上で、真の豊かさ、幸福感と言うのは何なんだろうか。そういうことも含めて相当人々の心、意識が変化しているのは事実かなと言う気がします。

〈大雪山系の豊かな自然に囲まれた上川町〉

―上川町が、移住者が起業したり就業したりするための準備ができるような施設や制度作りに力を入れるのはどうしてでしょうか?

「仕事があるのか」というところが、移住者にとっては大きな問題じゃないですか。それにどれだけ応えられるかですよね。選択肢を広げるような取り組みは、徐々にやって広げていかなければと思います。
なかなか座して待っていてもそんな状況にはならないでしょうし、個々人や企業任せだけではそういった状況になっていかないでしょうから、ある程度行政が主導権を持ってそういった整備をしたり、雇用の場を拡大したりする努力が求められていると思います。

〈2019年に町がオープンさせたカフェ「大雪かみかわヌクモ」では飲食店の開業を目指す移住者がノウハウを学んでいる〉

―移住者に期待することはありますか?

上川町は自然が素晴らしいんですよね。きっと北海道全体がそうなんですけれど、特にこの大雪山系の町と言うのは、ましてや国立公園の町ですから本当に素晴らしいです。
町の中心が自然をいかした観光になっているのは間違いないわけで、それをベースにしてどうこれを拡大していくのか、あるいは中身をもっと良いものにしていくのか、そう考えたときにまだまだ不足している部分がたくさんあると思っているんです。そういったところに入り込んできて新たな事業を創出することは、外から移住して来られる若い人がやれる部分だろうと。
町の人だけでは新しい発想をするのがなかなか難しいところもあります。だから外から見て「こんな素晴らしい素材があるじゃないか」と新しいものを掘り起こしてもらえればと期待もしていますし、受け入れたいと思っています。

〈町は全国の学生を招いて上川町の魅力を活かしたビジネスプランを考えてもらう取り組みをおこなっている〉

例えば、これだけの素晴らしい自然に恵まれていながら、若い人たちの動きについていけるような整備がされているかと言ったら、そういう状況は不足しています。今や本当にインバウンドなんて言っていられないですから。近場から若い人たちが来て、気軽にちょっとしたカフェで時間を過ごすようなところが少ない。
今来ている移住者の中にもそういう事業をこの町で展開したいという人がいます。そういう人たちを呼び込みたいですよね。それは間違いなく町の活性化につながっていくでしょうし、魅力度がアップしていくでしょうし、そういった動きを見てさらに外からの関心が強まっていくでしょうから。
小さいことかもしれないけれど、そういうイメージでこの町のこれからを考えたいなと思うんです。こうやって人が来ることは地元の農業などの価値が高まることにも間違いなくつながりますよね。

―外からの視点をいかして、来た人がやりたいことをやってもらうと?

そうです。これは私が勝手に考えていることで、そういったものが合致していけばいいかなと。そこはあくまでも来た人たちが選択することですから、そういう動きがあるとしたら、ぜひいろんな形で行政も応援したいですし、町の人もみんな応援していると思います。
今吹いてきている風をしっかり受け止めて、そして新しい動きに向けてさらに展開していきたい。いろんな人たちの力も借りたいと思っています。まさにみんなで作っていきたいですよね、この町を。


龍崎翔子さん「今こそ変化のためのチャンス」

上川町にある層雲峡でホテルを経営するのが、番組にゲストとして出演したホテルプロデューサーの龍崎翔子さん。京都を拠点に全国で5つのホテルを経営しています。コロナが社会に大きな変化を迫る中、地方や北海道の可能性を聞きました。

―龍崎さんが上川町の層雲峡で経営するホテルでは、新しいプランを検討中だと伺いました。

はい、1週間から数週間などの長期で滞在し、層雲峡の自然を活用しながら身体の調子を整えるプランを考えています。
コロナショックの影響でリモートワークが一般的になり、以前に比べるとワーケーションなど旅先で仕事をするスタイルが広まったので、地方での長期滞在もしやすいと思います。
またお休みが取れたとしてもなかなか海外には行けないので、日本国内でありながら日本離れしたようなダイナミックな光景が広がる場所という意味でも、層雲峡の立地はすごく価値があると感じています。東京から飛行機に乗って、そこからまたバスを乗り継いで2時間という“秘境”のような場所だからこそ体験できるようなプランかなと感じています。
圧倒的な大自然は北海道全体の強みでもありますよね。また、ホテルなどでの長期滞在が移住のきっかけになる可能性もあると思います。

〈宿泊者は上川町の森に生えるマツを使った香りの良い蒸留水を作る体験などに参加できる〉

―コロナでホテル業界はもちろん、企業や自治体も苦境に立たされていますが、この危機をどう捉えていますか?

本当に求められるサービスをどう作っていくかというのをしっかり考えやすくなった、変化するためのチャンスだなと思っていますね。層雲峡のホテルは、コロナ以前であれば一般の登山客がたくさんいらっしゃるので、その中で思い切った変化というのはどうしてもチャレンジしづらかったのですが、今の層雲峡はそういう方がいらっしゃらないので、自分たちが可能性を感じる方向性に対してチャレンジしやすくなっていると言えます。一概にお客様が来なくなって困ったと捉えるのはもったいないのかなと感じます。
自分にとってコロナというのは、観光業が一気に鼻をへし折られるような状態かというとそうではなくて、本来変わるべき方向に変わるためのスピードがものすごく速くなっただけという認識をしています。
それこそ企業で言えば、リモートワークとかも以前は効率が良い悪いみたいな議論だったと思うんですけど、ものすごいスピードでそっちに移行していったじゃないですか。それと同じで、変わるべき方向に変わってきていると思います。
自治体もそうですね。上川町なども移住者が増えているかもしれないんですけれど、やっぱりそれはコロナが潜在的にいつか地方に行きたいと思っていた人の背中を押しているからだろうと思いますし。

―全国でビジネスを手がけている龍崎さんから見て、いま地方だからこそできることは何だと思いますか?

私もホテルを地方だったり都市部でもちょっと辺鄙な場所でやることが多いのですが、やっぱり自由度が圧倒的に違うなと思うことが多くて。
特に上川町の場合は、役場の方が住んでいる人のやりたいことやこういうことにチャレンジしたいという夢を全力でサポートしてくれるので、すごく元気が良いと感じます。住んでいる方の自己実現やQOLのことを第一に考えてくれるような自治体であれば、叶えられる夢もすごくあるんじゃないかなと思っていて。
周りの人がサポートしてくれるというのは、地方だからこそできることなのかなと思います。何かにチャレンジしたい人は、今こそ地方を選んでみるのがいいかもしれないですね。


ルピシア・水口博喜会長「地方こそクリエイティブ」

移住の動きは、個人にとどまらず企業でも進んでいます。お茶や加工食品の販売を手がけるルピシアグループは、今年の夏、本社を東京からニセコへ移転させました。水口博喜会長は「自然豊かな地方でこそクリエイティブなことができる」と話します。

―どうして今年、会社の移転を決断したのでしょうか?

2年以上前からニセコに移そうと決めてはいましたが、コロナが加速させたという感じですね。東京で本社を構えているメリットを感じなくなったんです。
今通信は何でもできるし、東京にいても物価は高い。都会はおしゃれでおいしいものがあってという良さがありますが、コロナでおいしい店もいけないし、通勤も怖いとなったら、都市の良さ自体も、この一時期かもしれないですけれど、非常に薄れていますよね。
逆にコロナで出てきたことは、都会のリスクです。震災にしてもウイルスにしても、密の所のリスクってあるじゃないですか。東京が怖いと言う人たちが増えてきたんです。
社員の意識も変わりました。以前は東京に残りたいと言う人が多かったのですが、だんだん移住希望者が増えています。

〈ビール工場や野菜工場が新設され、本社も2年後完成予定〉

―食品を扱う会社ということも関係していますか?

それはありますね。野菜も野菜も魚も肉も、この辺は近くに生産者がいっぱいいるから、直結型でいいですよね。こっちからそのまま農産物を東京に送ったら、物流費がかかってしまって勝てない。だけど何らかの付加価値をつけて大都会に提供するには、便利なところだと思います。

―ニセコの良さはどんなところでしょうか?

やはり自然の豊かさですね。クリエイティブな環境というのは、僕は都会じゃないと思います。都会じゃなきゃいけないデザイナーの人とかもいるんですが、僕は都会じゃなくて地方のほうが、四季がはっきりとあるし、クリエイティブになれるだろうと。

〈道の駅にある新鮮な食材から商品のアイデアがわくと話す開発担当者〉

都会の人間は一直線に生きているんですよ。四季を感じるところは四季の回転で進んでいく。それが本当は人間らしいじゃないですか。「この冬越せるかな」というような。だけど都会は四季を感じないからずっと一直線。するとあまり面白くないじゃないですか。
鳥の声だって、この辺だけでも26種類の鳥の声が聞こえるんですよ。もう発見の毎日です。いろいろ刺激してくれるわけです。その刺激ってインプットじゃないですか。刺激がいっぱいあってアウトプットが出てくるという感じです。商品の企画や開発にはぴったりだと思いますね。


取材を終えて

コロナでテレワークになるなら、地方でのびのびと仕事したい…今年、そう思った方も少なくないのではないでしょうか。取材を通じて、「地方“でも”仕事ができる」ようになりつつあるだけでなく、「地方“だからこそ”できる」仕事もあることが見えてきました。
自然をはじめとした魅力、まだ手をつけられていない課題…ビジネスチャンスは地方にこそ転がっているのかもしれません。そこに惹かれてやって来る人が増えれば、地域全体が元気になることにつながりそうだと感じました。
(ディレクター 川畑真帆)

総合「NHK地域局発」で全国放送されます
「北海道道 地方移住 ようこそ北海道へ」
【総合】1月29日(金)午前10:15~10:40

(2020年12月21日)

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