NHK札幌放送局

13歳の企業説明会 #稚内だからなんて

ほっとニュース北海道

2019年11月20日(水)午後2時03分 更新

地元企業がビジネストークを繰り広げる相手は、まだあどけない表情の13歳。なんと稚内市内全域の中学1年生が集まっての「企業説明会」が行われていました。漁協も、スーパーも、市役所も、警察署も、新聞社も、町をあげての大作戦。その行方は?

日本の“てっぺん”で何が!?

取材のきっかけは、地元の新聞・稚内プレスに載っていた小さな記事でした。僕はこの夏に東京から赴任してきたばかりの35歳。いわば北海道初心者です。そんな僕には、その見出しは「?」でした。書かれていたのは、「中学生向け企業説明会 市内にある47社参加」。
ん、中学生!? しかも対象は、小学校を卒業したばかりの中1、つまり13歳。ずいぶん早くないか? そんな疑問から、この企業説明会を取材してみることにしました。

稚内市(わっかないし)は、地図でいえば北海道の“てっぺん”に位置する、日本最北の市です(ちなみに「最北端」は北方領土の択捉島です)。人口は3万3千人ほど。札幌からは電車やバスで5~6時間。新千歳空港から稚内空港へは1日2便が出ています。

説明会の日取りは2019年11月6日(火)。朝、いきなりアラレが降りました。そう稚内は、今年も北海道の平野部でいちばん早く雪が降った場所。さすが日本のてっぺんです。

圧巻! 主要産業47社が勢ぞろい 

会場では、町の大人たちがブースの設営をしていました。様々な職種の制服が入り交じっていましたが、その表情の真剣さに、ドキッとしました。たとえばこの写真の右側は、消防士さん。その後ろはガソリンスタンドの店員さん。さらに左には建設会社の社員さんです。

他にも稚内の特色である漁業や水産加工業、畜産業、さらに林業に、高等学校、市立病院、フェリー会社、新聞社に、建設業など、47の民間企業と公共団体。まさに、町がぎゅっとここに集まってきたような印象を受けます。
1人がこう漏らしました。「緊張して寝られなかった」。その理由は、そのときはまだ知りませんでした。

そこに現れたのは、まだあどけない表情の中学1年生。7つの学校から272人が招かれました。市内の中学1年生「全員」が招待されたのです。市の北端、宗谷岬の学校からも参加できるよう、自治体がバスを用意したそうです。こうして、ただならぬ熱気と緊張感のなかで、説明会がはじまりました。

ペンキ塗り体験を提供する職人さん

指紋採取を実演する鑑識の警察官!

葬儀業の仕事を紹介する社員さんは、手作り紙芝居を用意

みんながこれほど真剣に、企業説明に向き合う理由は? 端的に答えてくれたのは、和洋菓子店の社長さんです。

和洋菓子店の社長
「だいたいが稚内から出ちゃうでしょ。稚内にこういう仕事がありますよってことすら知らない。こういうPRの場をつくることによって、帰ってくれる人が10分の1でも20分の1でもあればやったかいがある」


衝撃の事実「高校生の3人に1人しか地元就職を希望しない」

人々を突き動かしていたのは、「このままでは町が維持できない」という強烈な危機感。稚内の若者たちは、高校に進学する15歳で、早くも札幌などの進学校へ流出しはじめます。さらに大学進学や就職でも、その流れは加速するといいます。2年前、かねてから地元企業に人材が集まらないという悩みを抱えていた稚内商工会議所青年部が、「高校生」にアンケートを実施。すると「就職希望場所」で稚内市内と答えたのは、わずか3分の1でした。
もはや「残って欲しい」と悠長に願っているだけではダメだ!地元の魅力を、本気で、自分たちが子どもに伝えなければ!そうして、この取り組みは始まっていたのです。


高校生では遅すぎる

この問題への解決策として持ち上がったのが、「中学生への地元企業PR」。高校生では、もはや市外に出る決意が固まってしまい遅すぎる、ならば先手を打って、中学生にアプローチ、と考えたそう。2018年に第1回がひらかれました。


最北の市・稚内が直面する「人口流出問題」

同僚のNHK稚内報道室・有水崇記者によれば、今、稚内では深刻な人口流出の課題に直面しているといいます。
戦前はサハリンと定期航路で結ばれた交通の要衝として、戦後は日本有数の底引き網漁の基地として栄えた町。ピーク時には5万人以上の人口を誇りました。しかし、200海里の規制が始まるとともに、漁は衰退。関連産業にも影響が出て、働き口も減っていきました。市は漁業と酪農、観光を主要産業と位置づけていますが、現場では担い手や後継者が不足するなどの問題も抱えています。
 
稚内市の小中学校では、1学年250人を下回る学年もあります。少なくとも6割以上の高校生が卒業後に進学などを目的に地元を離れている事実もあり、若者の流出に歯止めをかけることはできていません。


有効求人倍率33倍!? 人手不足の実情

この事実を知った後に、それぞれの企業のブースを見てみると、胃がキリキリするような切迫感が伝わってきました。
もっとも人材不足が深刻な産業のひとつが建築業です。ことし9月、稚内職安管内の「建築・土木・測量技術者」の有効求人倍率は「33倍」を記録しました。33の仕事があるのに1の人材しかいないのです。
この建設会社では、かつては大学で建築を学んだ学生を採用しようとしていましたが、いまは高卒者を採用して、資格取得を支援しているそうです。中学生にも身近な建物を手掛けていることをPRして、まずは会社の存在を知ってもらおうとしていました。


地元の味を未来に残したい

稚内の主要産業はどうでしょうか。こちらの水産加工業者は、タラを乾燥させた「棒たら」を製造してきました。

「とても風が強いということで、稚内でしかこの棒たらはつくれないと言われています」

高級食材として京都の料亭でも使われているそうです。しかし、人手不足の中で、近年はベトナム人に頼らざるをえないといいます。

外国人労働者はありがたい存在ですが、3年の契約期間が過ぎると帰ってしまうので、会社の将来を担う人材にはなりません。「ここでしか作れない地元の味」の価値を、最も丁寧に伝えなければいけない相手は、実は地元の子どもたちかもしれない!少しでも若い人が興味をもってくれたらと、この説明会に参加しました。

印象的だったのは、多くの企業が「Uターン狙い」を公言していることです。高校や大学卒業時に市外に就職してしまうのは仕方ない。その後で地元企業を思い出してほしい、というスタンスでした。つまりこの日の企業説明会は10年後、20年後を見据えた、長期作戦だったのです。


「地元に残りますか?」

 さてさてしかし、肝心の中学生のリアクションはというと…。
市内すべての中学校が集まり、学園祭のようで楽しげ。でも、将来の進路は彼らにとっても重大な問題。熱意は分かるけど、「分かりました、地元に残ります」と簡単には言えないわけで・・・

中学1年生
「林業と漁業に、興味をもって友達といってみました」
「面白そうな仕事いっぱいあって、(地元で)やってみることに関して『やってみてもいいかな』と思いました。」
中学1年生
「稚内って狭いほうで、札幌とかのほうが大きいじゃないですか。より多くの人からありがとうという気持ちがうまれるので(都会のほうが良い)」
「とりあえず大学は出て、決めていければと思います」

そう、彼らには選択の自由があり、夢がある。大人の思惑は分かるけど、将来の約束はできない。

**
今回の取材で、ずっと感じていたことがあります。僕らメディアはいつも、課題や問題点ばかりを見て、その先の解決策を探ることができていなかったのではないか。子どもたちに本気で働きかけ始めた稚内の人々を見て、そう思いました。
現実は矛盾だらけ。でも、じゃあ今、どう行動すればいいんだ??
僕自身、地元を出た人間ですので、議論の一つ一つが突き刺さってくる思いです。
日本に、世界に、「若者の流出」に向き合ったアイデアなんてないだろうか? ほかの地域の方々にも、いろんな事例を聞いてまわりたいと思っています。
実は、僕はこの取材のあと、稚内市内である高校生に出会って、その思いを強くします。次回は、そんな熱い言葉を紹介します。

#稚内だからなんて
今後も ハッシュタグ #稚内だからなんて で議論を深めていきたいと思います

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