テレビやインターネットで見る、海中を悠々と泳ぐ魚。
「どのくらいの大きさなんだろう?」と思ったことはありませんか?
実は水の中だと魚が実際より大きく見えるので、ダイバーでも正確にはわからないのです。
そうしたなか、泳ぐ魚の大きさを水中で計測できる最新のカメラが開発され、注目を集めています。(取材:NHK函館 館岡篤志)
魚群探知機などを販売するメーカーが開発した「AI ステレオカメラ」です。
2つのカメラで対象の魚を立体的に捉え、AIが自動的に大きさを計測します。
今回、私たちNHK潜水取材班は北海道大学の研究チームと協力し、マグロの王様と呼ばれるクロマグロの水中計測に挑戦しました。

向かったのは道南の松前町沖。最近この海ではクロマグロの大群が頻繁に目撃されているんです。
沖合2キロ、クロマグロがイワシを追いかける時に海面が白く泡立つ「ナブラ」を発見。私はすかさず海に入ってマグロを追いかけます。
しかし、「AI ステレオカメラ」は船上の電源と40メートルのケーブルにつながれていて動きが制限される上、正確に計測するにはマグロに対して7メートル以内で撮影しなければなりません。
時速70キロで泳ぐというクロマグロに近づくのは簡単ではありませんでした。

取材を開始して5日目。魚群探知機に大きな反応がありました。
潜ってみると船の真下、水深20メートルにクロマグロの大群がいました。
私を取り囲むように周りをぐるぐると回り、次から次へと群れがやってきます。今まで取材してきた中でも密度の高い、大きな群れでした。
少しでも近づけるように必死に泳ぎながらカメラを向けました。実は「AI ステレオカメラ」にはファインダーがありません。水中ではちゃんと撮影できているかどうかがわからないのです。海面に浮上して、「バッチリ撮れていましたよ」と声をかけられて、心底ほっとしました。

結果的には松前町沖の3か所でクロマグロの群れを水中計測することができました。
AIが体長を計算すると、岸の近くは平均92センチ、沖は少し大きくて平均96センチ。体重はおよそ20キロと推定され、マグロの専門家によると2歳くらいの若いマグロだということです。
松前町の岸近くには若いマグロが集まる“ホットスポット”になっている可能性がでてきました。

北海道大学研究チームの米山和良(こめやま・かずよし)准教授は、「今まで天然の魚は釣り上げたり、網で上げたりして船上や陸上で計測していたが、AI ステレオカメラで撮影できれば漁獲せずに、魚を殺さずにどの海域にどんな魚がいるかがわかるようになる。資源を守りながら魚の生態の研究や資源評価をすることができる、一つのツールになるのではないか」と話していました。

私も潜水カメラマンとして、実際に海の中で見たクロマグロの大きさが正確にわかったのは初めての経験でした。
この他にもシイラ(66センチ)やイスズミ(19センチ)なども水中計測できました。魚の大きさがわかると「この魚はまだ子どもなのだな」とか「1メートルを超えていて大きい」など、より情報を持って撮影できると感じました。
松前沖のまだ2歳のクロマグロも元気に育って、また来年も戻ってきて欲しいですね。
NHK潜水取材班 潜水歴30年
館岡篤志
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