第23回でご紹介するのは、札幌放送局で映像制作を担当する三砂職員。入局2年目の彼女は、ニュース映像の編集はもちろん、デジタル発信や自ら企画した取材にも力を入れています。新しいことに挑戦し続ける彼女を突き動かす原動力は何か?これまでの取り組みや大学時代の経験などについて聞きました。
[Photo By 原田 直樹]
[聞き手 呉藤 美由梨]
※感染対策を十分とったうえで撮影しています。
三砂 安純 -Misago Azumi-
大阪府大阪市出身。総合政策学部メディア情報学科卒業。
2021年入局、初任地・札幌放送局。
体を動かすことが好き。
小学生から高校生までやっていたダンスを今も趣味で続けている。

<目次>
1. 「伝わる映像」をデザインする
2. 放送にとどまらない発信を
3. 中途半端に終わらせたくないから

1. 「伝わる映像」をデザインする
――「映像制作」はふだんどんな仕事をしているんですか?

基本的にはニュースの編集業務をしています。事故や事件もそうですし、たとえば子供たちの交通安全教室のようすや、野菜の収穫とかも。記者がニュース現場に行って、カメラマンが撮影した映像を、 私たちが放送時間尺に合わせて編集しています。
――お昼や夜のニュースを制作しているんですね

そうですね。制作するニュースの時間帯によって働く時間も変わります。お昼や夕方の放送に向けて朝10時半から出局する日もあれば、次の日の朝のニュースを担当するときは15時30分から出局したり……。
12時15分に放送するニュースで、11時くらいに映像が手元に届いたりします。
――映像が届いてから放送まで、想像よりも短いですね……!

前もって取材内容が分かっているものもありますが、事故など急なニュースが入ることもあります。北朝鮮から弾道ミサイル発射があった2023年2月18日、私たちに情報が入ってきたのは皆さんと同じ、テレビの速報からでした。夕方のニュースで放送するは午後6時45分から!たくさんの人が駆けつけて、ロボットカメラの映像をチェックしたり原稿を書いたり……記者や映像制作などいろんな職種が協力してなんとか放送に間に合わせることができました。
――そうだったんですね。1日にどれくらいの映像を編集するんですか?

札幌局では、日によりますが大体2本くらいですかね。長い尺の時は2日間かけて5分の映像を編集したりもします。
多い日には3本ぐらい作る日もあるし、逆に少ない日だと1本で、空いた時間には自分が企画・取材するもののリサーチをしています。
――自分の企画も両立されているんですね!

自分の企画の取材や、デジタルコンテンツを作ったりもしています!NHK北海道のTwitter用に、ニュースを短く編集したものを制作することもあります。

――編集をしていて、難しさを感じる瞬間はありますか?

企画でも普段のニュースでも、「これで視聴者に伝えたいことが伝わるかな」って考えながらやっています。映像の中から、こういう映像がこのコメントの時にあれば伝わるかっていうのをデザインするというか……いかに絵(映像)の組み合わせで伝えられるかを考えるのはやっぱりすごく難しいです。
――確かにそうですね。どの映像を切り取るかどうやって決めているんですか?

直感的に選ぶものもあれば、論理的に組み合わせたりすることもありますね。動きがある映像は使いやすいですし、説明的に順序立てて場面を編集したり。一方で、たとえば幼稚園児が振り返って、ニコってしている映像など、直感的に自分が「このシーン使いたいな」と選んだものが見やすかったりもします。そこをうまく組み合わせながらやるのは、難しさであり、面白いところかもしれないですね。
――達成感を感じる瞬間はありますか?

どうやったらこの人の魅力が伝わるかなって考えながら取材したものが、いざ放送した後にSNSや本人、見てくれた視聴者の方から、「このシーンよかった」「ジンときた」など反応があると「伝わったんだ!」とすごく嬉しくなりますね。
――SNSで視聴者の声が見えますもんね。

そうですね。最近だと小樽のシンガーソングライターを取材したんですが、ファンの人たちはどう受け取るのかとか、でも私が感じた「この人だからこその魅力」は意識していました。ピックアップする歌詞を選ぶのは難しかったですね。
2. 放送にとどまらない発信を
【孤独に寄り添う 小樽市のシンガーソングライター花男さん | NHK | WEB特集】
小樽市を拠点に活動するシンガーソングライターを取材。花男(はなお)さんの曲の歌詞とともに、音楽に支えられたファンの方々や、花男さん自身の話を紹介した。
――どういうきっかけで花男さんを取材されたんですか?

音楽が好きなので、北海道の音楽がどんな感じなのか興味があって、 色々調べていました。元々はコロナ禍のライブハウス支援について取材しようと思っていて、その時に見つけたのが、花男さんが運営しているライブハウス支援団体でした。
――そうだったんですね。

いろいろと話を聞いているうちに、花男さん自身が面白い人だなって思い始めて、取材することになりました。
――どのくらいの期間取材されていたんですか?

昨年の1月か2月くらいからですかね。取材をしていく中で、8月にテレビで放送。その後12月に、NHK NEWS WEBに掲載しました。
――放送だけにとどまらない発信ですね。

「SNSでネット展開したいです」って東京のニュースデスクに伝えたんです。そうしたら、「もう1回追加取材してweb特集を書いてみよう」って話をしてくれて。何も分からず「やります!」って言って、3ヶ月ぐらいかけてもう一度取材しました。
――どうしてWEB特集にしようと思ったんですか?

WEB記事だとテレビに比べて字数制限がないので、伝えたいことをより伝えられるかなと。結構シビアな内容を伝えるとき、放送だとどうやって表現しようかなと考えますが、WEBだと文章で解説を補えたりするのかなと思います。

――デリケートな部分を取材するときに意識することはありますか?

おそらく私以上に記者は日々悩みながら取材をしていると思うんですけど、私の場合は下手に共感しようとしないように意識しています。
知ったかぶりになるのは良くないし、その人の苦しみはその人にしか分からない。もちろん理解しようと努力することは大事だけど、 そこを全部分かりきろうとすると、自分もしんどいし、相手も「そうじゃないんだけどな」ってなる部分が出てくるかもしれない。あくまで「その人の気持ち」として取材するようにしていたかなと思います。
――実際に取材をして花男さんや周りから何か反応はありましたか?

半年以上の長い期間、取材させていただいたっていうのもあって、いろんな話をたくさん聞きました。だからこそ、ファンの人も「理解してくれる人がいてよかったね」と話をしてくれたし、いまだにあの記事についてすごく良かったって連絡が来たりします。
――ほかにもWEB展開に力を入れているイメージがあります。

【雪対策メモ番外編 冬の北海道観光の服装術 | NHK北海道】
冬の北海道の服装術をNHK北海道のホームページ・Twitter・Instagramで紹介。
――最近だと「冬の装いシリーズ」をTwitterやInstagramで発信していましたよね。

あれは私が北海道に赴任してから、友達に「北海道行くけど、冬ってどんな服を着ればいいの?」ってすごく聞かれたのがきっかけです。まず「どこに行くの?」って(笑)。北海道って札幌に行くのか、根室に行くのか、函館に行くのか……場所によって気温や気候が全然違うじゃないですか。だったらコンテンツにしてみよう!と思い、企画しました。道内各局の記者に立ちリポートをしてもらってSNSに投稿すれば、私が友達に答える手間が省けるなって(笑)
――「これを見て!」みたいな感じですね。

そうそう!ちょうどコロナも以前よりは落ち着いてきて、外国人観光客も増えてきたので、これを英語で投稿すれば海外の人も参考にできると思い、英語版も合わせて制作しました。
――英語版も!?

高校生の時に1年間カナダへ留学していて少し英語ができるので。海外に精通しているニュースデスクもいるので、英語版も制作することが出来ました。
――そのほか、2022年の参議院選挙の時にもデジタルコンテンツを制作したんですよね。

まずは若い人たちに選挙に関心をもってもらうことで、投票率向上に繋げたいと思い、デジタルコンテンツを作りました。インフォグラフィックスと言うんですが、アニメーションなどで分かりやすく説明するコンテンツです。
▽特に力を入れたという
【センキョの疑問答えます!⑥「ネット投票はできるようにならないの?」 | NHK北海道】

文字にすると難しい内容を、視覚的に表現するようにしています。このマイナンバーカードも自分で作りました。イラストの女の子も、しわを加えたり、目や眉毛の形を変えながら、より分かりやすい表現を工夫しました。様々なページを制作するのに、準備期間を含めると3か月くらいかかって大変でした……(笑)。
――デジタルコンテンツに力を入れる理由はありますか?

私はテレビ好きなので普段テレビを見ますけど、やっぱり周りを見ると、テレビを持っていないっていう人も身近にいて、悲しくなることも多く……その人たちが「テレビを買おう」とまで思うのはハードルが高いかもしれませんが、まずはNHKに親しみを持ってもらうとか。雪対策や選挙など皆さんの生活に直結するコンテンツを継続的に発信することで、最終的には災害の時とかに頼りにしてもらえるメディアでありたいと思って取り組んでいます。

3. 中途半端に終わらせたくないから
――学生時代はどんなことに力を入れていましたか?

いわゆる「ガクチカ」ですね(笑)。私は、海外へボランティアに行ったり、阪神淡路大震災の取材をしたり、映像番組を作るゼミに入って勉強したり……就活時代はいろんなことをまとめて「主体性を持って取り組むことを頑張りました」って言っていました。
でも、テレビ局に最終的に行こうって思った1番の理由は、阪神淡路大震災の伝承活動を中途半端に終わらせたくない、海外ボランティアも行って終わりにしたくないと思ったからですね。
――阪神淡路大震災の取材はどんなことをされていたんですか?

阪神淡路大震災の伝承活動のボランティアで、当時の経験をしている人にインタビューして、その人たちの声を映像で残していく活動をしていました。
何分間かの番組や小冊子を自分で作ったり、チーム取材もしていました。
――海外でのボランティアというのは?

カンボジアに2回行って、日本語学校で日本語を教えたり、授業をしてみたり。あと、スタディツアーで、カンボジアの歴史を学んだり、自分が教えたりしました。
――すごいですね。

こうやって取り組んできたことを、中途半端に終わらせたくないって思ったんです。ボランティアはもちろん自分の力にもなるけど、継続的にやることがすごく大事なんだなって、カンボジアでも、阪神淡路大震災の取材でも思いました。
ボランティアに4年間行って、それを就活の「ガクチカ」で話して、「じゃあもう私は大学卒業なので、お疲れ様でした」みたいな、もちろんそのサークル自体続いていくものだから意味のあることですが、そうなるのって無責任だなと私は感じる部分があって。少しでも多くの人が活動を続けていく方がいいと思うし、そういう人をもっと増やしていくことを、NHKに入ればできるかなって思いました。
――そもそもボランティアをやろうと思ったきっかけは何だったんですか?

一番はたぶん高校生の時に行った留学だと思います。カナダに1年間留学で行った時に、すごく簡単に言うと、「世界は広いんだ」って感じたんです。 カナダって多民族国家・多文化共生と言われてる国で、行く前は白人の国のイメージがあったんですけど、行ったらアジアの人やインドの人、いろんな国籍の人がいました。その中でも、自分自身アジア人差別をなんとなく受けたこともあったり、そもそもこういう差別って何で起きるんだろうって考えたりもしました。
――そうだったんですね。

カナダで知った貧困問題や差別の問題に対して、尽力している人たちがたくさんいて、その人たちの活動を伝える人になりたい。そう思ってメディアを志望しました。
――マスメディアの中でも、編集の仕事を希望されていたんですか?

編集がやっぱり好きだったので、映像関係の制作会社など編集職で就活していました。大学時代、ゼミで「視覚芸術」を学んでいたんです。簡単に言うと、広告デザインや映像デザインなど、自ら映像や広告を作るゼミでした。
たとえば、課題が与えられてポスターを作ったり、モノをどうデザインするか考えるプロダクトデザインっていうのも学びました。
――大学時代で学んだことが活かされているなと思う瞬間はありますか?

学んではいましたが、プロとして実際に編集するとなると新しく学ぶ知識がいっぱいありますね。自分が持っているものを変に出そうとすると、「ちょっと違うな」となることの方が多かったり……日々学びながら、自分の直感を大切にしながらやっています。
――将来の目標などはありますか?

映像制作の仕事だけではなく、色々挑戦したいなって思っています。もちろん、編集を極めて「この人の編集がいい!」って言われる編集マンになれたらかっこいいなと思っていますが、編集のプロはたぶんたくさんいるので、その中で、自分のアイデアを形にできる人でありたいです。今、放送やデジタルコンテンツなど色々な形の発信に挑戦して、どれに一番反応があるのか、どれが一番視聴者に伝わるのかを模索しています。いろんな武器を持った編集マンになれるのが一番かっこいいんじゃないかなと、私は思っています。
<おまけ>
最後に私生活の話も聞きました。
プライベートでは、飲みに行っているか、ダンスに行っているか、家で寝ているかですかね(笑)
ダンスはスタジオに通っていて、なんでもやります。ジャズもやりますし、ヒップホップもロックもガールズも、ファンクみたいなものもやります。ブレイキンはやらないですが……曜日が決まったレッスンっていうよりは、チケット制でいつでも来ていいよみたいな。行きたい時に行きたい分だけ行っていて、多い時は週に3、4回とか行ったり、チケットが使いきれないときは1日で4レッスン受けたりで、最後は体がバッキバキで(笑)
あとはスノボとかもするので、冬はスノボ、夏はドライブなど季節ごとにいろんな場所に遊びに行けて、ご飯も美味しくて。北海道生活楽しいですね。


