ことし7月に道が発表した津波の被害想定。函館市に最大8.7メートルの津波が押し寄せ、最悪の場合、函館市だけでおよそ2万9000人もの死者がでるという衝撃的なシミュレーションが明らかになりました。喫緊の課題となっている津波対策の現状を取材しました。

まず、取材したのは函館市役所の災害対策課です。津波の浸水域や避難所が一目でわかる津波ハザードマップの改訂を急いでいます。正しい情報を分かりやすく伝えようと、職員がデザインなどのチェックを念入りに重ねています。

9年ぶりに改訂されるハザードマップ
9年ぶりに改訂される函館市の新しい津波ハザードマップには、新たに13の町が浸水域に追加され、避難所の情報などが更新されます。9月中旬から、函館市の全世帯に配られるのを前に作業は最終盤を迎えています。

左側がこれまでの津波ハザードマップで、右側が現在作成中のものです。
右側の地図で、赤色に塗られているのが浸水域で、町の内側まで広がっているのが分かります。遠い陸地に避難が間に合わないことも想定して、団地が新たに津波避難ビルに指定されていることなどがわかります。

「早く避難すれば被害約9割減らせる」 函館市災害対策課の井上徹也課長
「函館では2万人以上の方が人的被害を受けるということが公表されています。ただしこれは早く避難すれば、約9割近くの人が被害から逃れられるということもあわせて公表されています。今回のハザードマップなどを活用しながら、新しい情報を伝えていきたいと思っています」。

また、市は津波避難ビルの確保にも取り組んでいます。市民や観光客が多く集まる函館駅は、海岸に近く、避難場所の確保が特に課題になっています。市はこれまでに市内の17の施設を新たに津波避難ビルに指定しました。
JRイン函館 宮川岳三 支配人
「津波避難ビルの一員として、お客様の安全、そして函館市内にご滞在の全ての皆様の安全につながるように日々努力していきたいです」

新たに浸水域となった住民は
新たに浸水域に加わった住民はどのような反応なのでしょうか。
取材した函館市人見町の住民たちは避難訓練に参加したこともあり、町の防災について考えてきたということですが、不安も残るといいます。

町内で考えてやるしかないんじゃないか
「避難場所まで距離もありますよね。歩いて20分ほどかかる住宅もあり、大きな津波が来ることを考えると不安はあります」
「この町には高齢者が多く、いざという時に全員が遠い避難所まで避難できるか分かりません」
「町内会が色々なことをやるべきなんじゃないかと思いますけどね。行政を頼っても、どうなんでしょう。町内で考えてやるしかないんじゃないですか」
市民から不安の声も上がる中、もう1歩踏み込んだ津波対策のために何が求められているのか。津波対策にも詳しい、海岸・海洋工学が専門の宮武誠教授に話を聞きました。
函館工業高等専門学校 宮武誠 教授
「津波ハザードマップの作成や避難ビルの確保などの他に、市が積極的に町内会単位に防災を働きかけるようなことが今後必要になってきます。地域防災は町内会の意識の高さにクオリティが左右される。町内会長が「やろう」と狼煙を上げない限り、なかなかそういうところまで行動はいかないと思います。なのでそこを自治体の方が後押しして、確実な避難訓練の実施に繋げられるような体制づくり・仕組みづくりの支援があるといいと思ってます」

今回の取材を通じて、津波ハザードマップは地域防災のスタートに過ぎないことが分かりました。避難がうまくできれば、想定される被害の9割を減らせるという予想もあります。市民と行政が双方向の取り組みを通して、万が一の事態に備えることが求められていると思います。
(NHK函館放送局 白野宏太朗記者)
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