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道南の〝防災意識〟を高めたい

  • 2023年3月30日

~伊藤友彦(いとう・ともひろ)さん・北海道防災士会道南ブロック代表~

 防災・減災の教育活動や情報提供を行う北海道防災士会の「道南ブロック」が3月11日に設立されました。広大な北海道をブロック化し、地域ごとの事情や特性に合わせた防災活動を行おうというもので、道南ブロックは北海道防災士会にとって最初の地域組織です。代表に就任した伊藤友彦(いとう・ともひろ)さんに、防災に取り組む理由や活動の目標などを聞きました。  

防災活動の原点は北海道南西沖地震
伊藤さんは道南・北斗市の出身です。防災活動に取り組むようになったきっかけは30年前、函館の大学に通っていた時に起きた「北海道南西沖地震」だったと言います。

伊藤さん
夜10時すぎの地震で、私にとって初めての大きな揺れでした。地学の研究室にいましたので、その後奥尻島に行く機会がありました。そこで、建物がなくなって土台だけが残されている青苗地区の住宅の跡を見たことが強烈な印象として残っています。普段の生活の中でどうしたら災害への危機感を持ってもらえるのか。それは今も常に考えています。

道南には避難所体験が必要
その後、伊藤さんは高校の理科の教員になりました。2011年、東日本大震災の時にはテレビで津波被害を目の当たりにして、「子どもたちが“自分で自分の身を守れる”ようになるためには、私自身が防災についてさらに学ぶ必要がある」と防災士の資格を取得しました。現在は生まれ育った北斗市にある上磯高校で、授業を通して子どもたちに防災について伝えています。

防災士会は大雨や地震津波など様々な災害に備え、体験会や研修を行います。伊藤さんはそうしたノウハウを活かして、授業の中で大雨や津波を想定した避難所体験などを積極的に行ってきました。伊藤さんはいま、こうした避難所についての情報を学校の生徒だけでなく道南に住む多くの人に知ってもらうことが必要だと感じています。

きっかけは去年8月の大雨です。道南では11の自治体のおよそ4万9000人に避難指示などが出され、各地で浸水被害が出ました。ところがその後、北海道防災士会と渡島総合振興局が行ったアンケート調査では回答者の「8割近くの人が避難行動をとらなかった」ことが明らかになったのです。伊藤さんは「避難所に行くことに対して心理的なハードルが高い」と指摘し、それを変えていきたいと言います。

伊藤さん
どういう方が避難所の運営をするスタッフとしているのかとか、どのくらいのスペースがあって、どんな感じで2~3日過ごすことになるのかとか、一回体験することで避難所に集まるという心理的なハードルは少し下がると思うんです。大雨の災害は毎年のように起こりえますし、避難所体験を多くの人にしてもらいたいと考えています。

そして伊藤さんをはじめ、このアンケート結果に危機感を抱き「道南の防災意識を高めるために連携して行動できないか」と声を上げた防災士たちが中心となって、北海道防災士会道南ブロックが設立されたのです。

本気の防災士たちのネットワーク
これまで、防災士の資格は持っていても、札幌だけが活動の拠点だった北海道防災士会に入会して活動する人は少ないのが現状でした。しかし北海道防災士会道南ブロックの設立に合わせ18人が会員登録しました。観光、メディア、行政、NPOなど幅広い職業の経験者が集まりました。

伊藤さん
正直言うと5人か6人集まってくれたらうれしいと思っていたんですが、これだけ参加して頂けたというのはものすごくうれしいです。同時に、これだけの人が今までなかなか活動の機会が得られずこの地域にいたことを考えると、きっかけとタイミングがうまくかみ合った結果なのかなと思います。

設立総会では規約の内容や今後の活動方針などについて活発な質疑が行われていました。伊藤さんは「こんなに意見が出ると思わなかった」と汗をぬぐいながらも、集まった道南の防災士一人一人の本気度を頼もしく感じているようでした。

函館市内の町会役員をしている会員
防災ってそれぞれバラバラにやっているんです。町会や役所もやっていますけど意外とつながりがないんです。今日みたいにいろんなメンバーが来ることによってつながりができます。防災の方向性がだんだん広がってくると思います。

救命処置や防災活動に取り組むNPO団体役員の会員
自分が住んでいるところや勤務している場所以外だと地区の特性がわからないところがあります。いろんな職種の方と関わって、渡島桧山の災害が起きやすい地区についても勉強していきたいと思っています。

この道南各地で活躍する防災士のネットワークを生かして、伊藤さんは今後「避難所体験の普及」と同時に、「災害伝承記録の収集」も活動の柱にしたいと考えています。かつてどこでどんな災害があったのかは未来の防災のための重要な資料となります。北海道の中でも歴史がある道南では、江戸時代の火山噴火や津波の記録がお寺に残っているなど、貴重な資料が多いと伊藤さんは言います。道南各地の石碑や古文書などさまざまな伝承記録から過去の教訓を掘り起こし、地域の防災活動に生かしていこうとしています。

伊藤さん
大きな災害は300年、400年というスパンで繰り返してきました。役場の方々は普段の仕事があって難しくても、情報と場所を提供して頂いたら我々が調査することができます。一方で、大きな災害も30年たつと記憶が薄れていくと言われています。ことしは奥尻島の地震からちょうど30年です。たった30年でも、もう「記録」としてしか知らないという人が増えています。当事者の声をまとめるなど、何らかの形で災害の「記憶」を後世に伝えることも重要だと考えています。

北海道防災士会道南ブロックでは、避難所体験会を開催したい学校、町会、自治体などからの相談を受け付けるほか、道南各地に伝わる災害の伝承記録の情報を募っています。

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