NHK札幌放送局

大地と森と星を愛する案内人

ローカルフレンズ制作班

2021年12月23日(木)午後4時49分 更新

足寄町滞在4週目を迎えました。カメラマンのフランクです。 「1ヶ月は長いようであっという間に過ぎていくよ」とローカルフレンズ経験者の先輩が出発前に言っていましたが、はやすぎました。新幹線がホームを通過するときくらい豪快に過ぎ去りました。振り返れば毎日が出会いの連続で、笑いと感動の瞬間に満ちていました。今や足寄町への移住を具体的に提案してくれる人がいらっしゃるくらい、町の皆さんに受け入れていただき、共に充実した時間を過ごすことができました。 こんなに彩りに満ちた足寄の日々と別れを告げ、札幌の一人暮らしのアパートに戻れるのでしょうか。ハードボイルドな私でも、うるっときています。 最終週、張り切っていきましょう! 

湖の案内人

ローカルフレンズの儀間さんと鹿肉を食べながら、談笑していたある夜のこと。学生時代にカナダの山や各地の自然を撮影していたことを話したら、「足寄にも自然をこよなく愛する人がいますよ」と儀間さんが教えてくれました。

名前は金根(きん・こん)さん。中国出身で、森林生態学を日本で学び、足寄町に地域おこし協力隊としてやってきたとのこと。町の皆さんからは、“金ちゃん”と呼ばれ、愛されています。

足寄町の広報誌に目を通すとさっそく彼のコラムが載っていました。

その名も「金根観光=キンコンカンコー」。ユーモアを交えて足寄町にある神秘の湖「オンネトー」の案内をしていました。町の中心部にある道の駅では、金さんが撮影した野鳥の映像なども見ることができます。

笑顔が素敵な金ちゃん

さっそく金さんに会うためにオンネトーへ向かいました。オンネトーは、足寄町の北東部にある湖で、雌阿寒岳や阿寒富士を含めた「オンネトー地区」に位置しています。太陽の光の差し方によって、湖面が青や緑に色が変化することから五色沼とも呼ばれている景勝地です。湖へは町から車で40分ほど、道中も牧場や森林が広がり、足寄を満喫できる時間です。

金さんのもとへ行くと、丸いめがねをかけた青年が「こんにちは!」と笑顔で林の奥から声をかけてくれました。取材とオンネトーの案内をお願いしたところ、「もちろんですよー!」と二つ返事で引き受けてくれました!うわさ以上に素敵な笑顔の持ち主です。金ちゃんとフランクのオンネトー物語が始まりました。(以降、敬意を込めて金ちゃんと呼ばせていただきます。)

大自然の中で育った金ちゃん

金ちゃんは中国出身です。それも都市部ではなく、黒竜江省というロシアとの国境に近い、自然豊かな環境で育ちました。

「小さい頃は本当に田舎に住んでいました。子どもの頃の遊びといえば、ヘビや虫を捕まえたり、友達と山で走り回ったり、山奥ならではの遊びをしていました。学生時代も研究の一環として、森林に1ヶ月こもることなどがあったのですが、そうしたことが全く苦ではなくて、今やっているオンネトーの仕事も体力がいる仕事ですが、本当に楽しくやっています。」

大自然を目一杯楽しみながら仕事をする金ちゃん。

オンネトーの湖畔にある「オンネトー国設野営場」管理をしながら、コラムなどでの情報発信、オンネトー周辺の水質管理、公園内のガイドといった多様な業務を行っています。

母国のごみ問題を知って森林環境学を学ぶ

大自然の中で育った金ちゃん。いまや自然環境に並々ならぬ思いを抱いていますが、元々は中国古代史を勉強したかったとのこと。しかし、2010年に日本に来て転機が訪れます。語学留学生として来日していたときに、千葉県で東日本大震災を経験。家族を安心させるために、一時帰国をしたときに自分の故郷がごみ問題に対して、きちんと対策をしていないことに気がつきます。

「故郷の空港に着いて、飛行機から降りたときに衝撃的な経験をしました。町がごみだらけということに気がついたのです。日本から帰ってきて初めて“自分はこういうところで生活をしていたのか”と気がつきました。日本のきれいな町をみて、改めて自分のふるさとを見ると、ごみ問題が深刻化していることがわかりました。」

故郷から離れて、はじめて気がついたごみ処理の問題。そうした問題に対して、自分が何かできないか考え、環境問題や森林について学べる信州大学農学部森林科学科に進学しました。

日本の自然観がすきになった

日本の自然観が好きになり、祖国を離れ日本で学ぶことを思い立ったと言います。

金ちゃん
私が日本に来て一番好きになった考え方は“里山”という概念なんです。海外だと一つの言葉として里山っていう言葉はないんですよね。里山は日本では人間社会と大自然の境界線になっていて、人は里山から必要な分だけ資源をとるけれど、その先にある大自然は過剰に開発しない。里山という境界線があるからこそ、北海道には今も豊かな自然があるのだと思います。」

故郷の黒竜江省と北海道の森林環境が似ていることと、学生時代の恩師・岡野哲朗教授が林長をつとめていた九州大学演習林が足寄町にあったことから、学生時代のときから足寄町に通うようになりました。「これはトドマツ、こちらはアカエゾマツ、これはハイマツ」と森の植生を熟知しているからこそできる森の案内をしてくれました。

そんな研究者であった金ちゃんはオンネトーの森への愛も並大抵ではありません。

「オンネトー周辺の森は“アカエゾマツ純林” といって森林が発達する初期段階の森が広がっているのです。言い換えると、200年から300年前の状態が残っているので、北海道の土地が開拓される前の時代の森が残っているといえます。北海道に奥深い森がまだ残っていた当時、アイヌの人たちがみていたのはこういった森なのではないかと思います。常に時代の感覚を持ちながら、この森に生きる植物や野生動物を見ていきたいです。」

足寄町という地域の歴史をしっかりとふまえながら、自然環境を楽しむ事を金ちゃんは教えてくれました。

森で耳をすます

オンネトーへの道は冬の間、通行止めになるため、雌阿寒温泉から1時間ほど遊歩道を歩いて向かう必要があります。金ちゃんはとても話し好きで、山の中を歩くときも様々なお話をしてくれました。故郷のことや学生時代の話、食材が豊富な足寄で食べ過ぎて太ってしまった話など(私もです。ダイエットします)、話が尽きません。けれども、ある瞬間突然金ちゃんが立ち止まり、静かになりました。

「聞こえますか?」

耳を澄ませると、どこか遠くからキツツキがコンコンコン、、、と木をたたく音が聞こえます。

金ちゃんはオンネトーで野鳥の写真を撮り、生態の記録もしているのです。

深い森で鳥を見つけるのは至難の業、金ちゃんは「目ではなく、耳を使って鳥を探す」ことが大事だと教えてくれました。

金ちゃんに導かれるままに、音の方向へそっと近寄るとかわいいアカゲラがいました。「ほら、いたでしょ!」とうれしそうに、金ちゃんは私に目で合図を送り、その後ふたりで一緒にクマゲラを撮影しました。

オンネトーの森は、他にもシマエナガやクマゲラなど、多くの野鳥が息づく豊かな環境です。

芸術の湖

鳥たちが歌う森を抜けると大きな湖が姿を現しました。

今回の旅の大本命である、オンネトーです。標高は600メートル、周囲2.5キロほどの オンネトーは12月になると早くも氷に覆われ始めます。

凍った湖を歩いてみると、不思議な泡のようなものを見つけました。
「アイスバブル」です。湖の中から湧き出るガスが凍ってできあがるものです。

大小様々な気泡が湖の至る所にあり、冬ならではの自然の芸術を生み出しています。

ほかにも氷で覆われた湖の上を歩いていると、水の中が透けて見え、オンネトーの森から流れてきた流木も見ることができます。

そして金ちゃんもなかなか見ることのできなかった「フロストフラワー」に今回は出会うことができました。「厳冬期にしか咲かない花」とも言われ、冷え込んだ朝に水蒸気が“氷の花”のように結晶します。

星々に包まれる

「朝日を見に行きましょう!」

金ちゃんがオンネトーで一番好きな時間帯は早朝とのこと。
午前3時に町を出発して、足寄滞在最後の絶景を金ちゃんと見に行くことにしました。

湖に着くとあたりは真っ暗。満天の星空に包まれました。

金ちゃん
「星空の写真を撮るたびに自分の目を悪くしたことを後悔します。これを肉眼で見たかったんだなーって」

笑いながらも、丸眼鏡の奥にある瞳は夜空をずっと見つめていました。

湖にこだまする不思議な音

夜空を見上げていると不思議な音がしました。
ぴょん、ぴょん、ぴょーん、ぴょーん
と湖に不思議な音が響き渡ります。

実は金ちゃんのもう一つのねらいは、この音にありました。
夜から朝にかけて、この音が鳴ることが多いとのこと。
湖全体に張った氷が様々な要因で揺れて、音を鳴らすのです。

そして朝が来る

阿寒富士の麓から朝日がのぼってきました。
白く樹氷したオンネトーの木々が、朝日を浴びて輝きます。

鳥たちも徐々に目覚めはじめ、森が眠りから覚めました。

金ちゃんは、愛おしそうに朝のひとときをみつめていました。

「あっクマゲラだ!おはよー!」

見えぬものこそ

取材中、金ちゃんが繰り返し話してくれたことがあります。

それは「自然の静けさ」を楽しむこと。オンネトーをはじめとし、北海道は日本でも屈指のダイナミックな自然が残る地域で、多くの人が他の地域では目にすることのできない風景や動植物を求めてやってきます。

しかし、金ちゃんは静まりかえったオンネトーが一番好きだと話します。本格的な冬を迎え、オンネトーでの人の活動が少なくなると、森の音や生き物たちの活動を体で感じる。その環境に身を委ね、自然の一員として静かにその空間を楽しむ。

静けさに身を委ねる中で、様々なことを考えました。

森に生きる鳥や獣のこと、朝日を浴びて輝く木々のこと、そして森の奥でひっそりと倒れた大木とそこから生まれてくる新しい命のこと。

出会いと別れを繰り返しながら、その瞬間を懸命に生きて、次の世代へ命をつないでいく。

そうした普遍的な営みを感じました。

足寄という時間

ローカルフレンズ滞在記で足寄町に滞在した1ヶ月間を振り返ってみると、自分が受け取ったものは本当に計り知れません。足寄の皆さんが、札幌からやってきた自分を受け入れてくださり、心の内を話してくれたりする瞬間が数多くありました。

4週間の滞在を終え、札幌へ帰ることとなりますが、それでも日々のどこかに足寄での時間を感じることができると思います。自分が足寄から遠く離れた町で、仕事をしていようとも、足寄で人々が笑い合い、自然は季節を超えて生き続けていく。そうした足寄の時間が心のどこかで流れていることを知ることができて、本当に良かったです。

先行きが見えない時代だからこそ、今生きているその瞬間を大切に過ごしたい。 出会えたら心が揺さぶられる風景や、思いが通じ合う人がどこかにいる。 そう思えるからこそ、この世界をこの先もずっと生き続けていきたいのだと感じました。

ローカルフレンズ滞在記 前川フランク光
2021年12月23日

注意事項:
オンネトーは道道が冬季通行止めになるため、雌阿寒温泉から遊歩道を1時間ほど歩いて行く必要があります。厳冬期には積雪も多く天候も変わりやすいため、十分な冬山装備やスノーシューが必要となります。凍った湖面には、穴が開いている部分もあり、訪れる際にはガイドを伴うなど、安全に配慮してください。野営場は直火の利用が禁止されており、冬季期間中はトイレなどの施設は利用できません。
問い合わせ先:「あしょろ観光協会」TEL:0156―25―6131




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