政府の新たな観光需要の喚起策、「全国旅行支援」と水際対策の緩和が始まってから、11月11日で1か月。道内有数の観光都市、函館市では観光客の姿が戻り始めていて、宿泊施設の予約が大幅に伸びるなど、観光業界からは久しぶりにうれしい悲鳴が上がっています。一方で、急激な観光需要の拡大に伴って、受け入れ側の課題も見えてきました。
函館市の老舗旅館です。ことしで創業から100年と湯の川温泉の宿泊施設の中では最も古く、昭和天皇が宿泊したこともあります。

旅館では新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、1年以上休業を余儀なくされるなど、苦しい経営が続いてきました。しかし、全国旅行支援が始まった10月以降、宿泊予約が大幅に増加しているといいます。

さらに水際対策の緩和で外国人旅行客も増えていて、12月の宿泊予約は、半数以上が海外からの宿泊客で占められているということです。

割烹旅館「若松」長江亨支配人
「おかげさまで、2018年のコロナ前までの売り上げ実績と比べて、70%ほどの宿泊予約の受注を頂戴しています。それに『全国旅行支援』だけではなく、地域割りの『はこだて割』が併用できるという特典もあったので、非常に恩恵があったのかなと思っています。またインバウンドは、水際対策が緩和されたこともあり、12月はオーストラリア、アメリカ、香港などのお客様も入り込みが見られるという非常にありがたい状況になっています」
一方で、課題となっているのが人手の確保です。この旅館では、食事を部屋に配膳する形式をとっていますが、その配膳の役割などを担う「仲居」が不足しているといいます。

「仲居」の業務は宿泊客のお迎えや案内、料理の配膳、それに見送りなど多岐にわたっていて、すぐに補充がきく仕事ではないため、人手の確保は簡単ではないといいます。こうした中、旅館では客室の稼働率を下げたり営業を縮小したりはせず、食事のない素泊まりプランを販売するなどして、対応しているということです。
割烹旅館「若松」長江亨支配人
「サービスという面で、この業界全体がマンパワー不足に直面していると思います。こうした中、サービスのクオリティー(質)を下げるのではなく、素泊まりプランの販売など、自助努力で稼働率を下げない方法を目標として掲げてやっています」
客足が戻る中、急激な観光需要拡大に人手確保が追いつかない状況は宿泊施設以外でも起きています。

函館市にあるこのタクシー会社では「全国旅行支援」の開始以降、利用客が増加し、乗車件数と売り上げのいずれも新型コロナウイルスの感染が拡大する前とほぼ同じ水準にまで回復しました。

一方で、長引くコロナ禍の影響で、過去2年半に乗務員が相次ぎ離職し、今も15人ほどが足りていないということです。このため、会社ではシフトを見直し、利用客が多い夕方の時間帯に乗務員を手厚く配置することで人手不足を補おうとしています。

「道南ハイヤー」佐々木龍也常務取締役
「人手不足はタクシー業界全体の悩みだと思います。背景の1つにあるのが高齢化です。平均年齢が65歳に近づいているタクシー会社がほとんどで、うちのタクシー会社もそうです。また、現役世代がなかなか入ってこない現状があるため、退職される乗務員さんの数に、入ってくる乗務員さんの数が追いついていません。ただ、既存のタクシーの乗務員を取り合うのではなくて、新しく免許を取って頂いて、異業種からの転向組といいますか、そういう発想でこれから取り組んでいかないと、なかなか人手不足は解決しないと思います」

「全国旅行支援」と水際対策の緩和で高まる観光業回復への期待。今後も観光需要の増加が見込まれる中、人手不足は業界全体の大きな課題となっています。

鮎合記者が取材した記事はこちらもどうぞ!
全国の生徒募集中 北海道福島町の高校は存続危機を脱せるか
函館の夜景、町会が支えています