NHK札幌放送局

“夢で息子を抱きしめた” 観光船事故から半年 家族を待つ男性の思い

ほっとニュースぐるっと道東!

2022年11月16日(水)午後4時22分 更新

“10月20日。息子とお風呂に入っている夢を見た。息子が膝の上に座っていて、お尻の骨が当たって痛かった。息子は痩せているから・・。久しぶりに思い出した感覚。やっぱり会えなくなるのが分かっていて、後ろから息子を抱きしめた。”
 十勝地方に住む50歳の男性は、事故から4か月がたった8月から、息子(7)と元妻(42)が出てきた夢をノートに記録するようになった。 観光船「KAZU Ⅰ」の沈没事故から半年。いまも、乗船していた2人の行方は分かっていない。 

夢に出てきた姿 残したい

「夢を見ても、やっぱり時間がたつと忘れてしまうので、忘れないように書きとめておこうと思って」。そう言って、男性は日記を見せてくれた。日記は数日に一回のペースで記録されている。
ラムネを持ってきて、ご飯の上にのせてほしいとせがむ息子。
カレーを食べて、体中に黄色いルーを付けてしまった息子。
そして、居間のソファーで寝てしまった自分の顔を優しく触って「パジャマに着替えたら?」と語りかけてくれる元妻。
書き記した情景は、息子を後ろから抱きしめて終わることが多い。「夢の中でも、2人と会えなくなるのは分かっていることが多いから」。男性はこの半年間、何をしていても2人のことを考えてしまうという。

男性
「気を紛らわそうと、テレビを見ても、食べ物1つを見ても、ああ、2人これ好きだったなとか、何かどこかの景色を見ても、3人で行ったなとか。そういうことをどうしてもやっぱり考えてしまいますね。スーパーやコンビニに買い物に行っても、やっぱり思い出してしまいます」

“頼む、無事でいてくれ”届かなかったメッセージ

4月23日午後。男性は観光船の事故をテレビのニュースで知った。この日の朝までラインでやりとりをしていた元妻は、息子と観光船に乗ると言っていた。あわてて安否を確認するメッセージを送ったが、1時間たっても返信がない。運航会社に確認すると、乗船名簿には2人の名前が記載されていた。「無事でいてくれ」。男性はそう祈りながら、知床に向かって車を走らせた。しかし、メッセージに既読がつくことはなかった。

電車が好きだった息子

部屋いっぱいに広げた鉄道模型。小学2年生の息子は電車が大好きで、よく近所の踏切まで電車を見に行った。愛用していたのは新幹線が描かれたリュックサック。事故から半年、男性のもとに戻ってきたのは、そのリュックサックだけだ。事故発生からおよそ1週間後、知床岬の沖合で浮いているのが見つかった。「やっぱり乗船していたんだ・・」。リュックサックを見たときに、涙が出た。

それ以降、2人につながる手がかりは一切見つかっていない。捜索を続ける海上保安庁からは、捜索状況について知らせるメールが毎日届く。しかし、半年が経過するなかで、報告を待つ心境にも変化が表れている。

男性
「“本日は巡視船何隻が出て捜索しましたけど、現在のところ行方不明者の発見には至っておりません”という通知が、もうずっと、何か月も続いています。最近はメールで送られてくるものに対して、期待をして待っているという気持ちではないです」

雪が降る前に捜索を・・・

事故から半年を前にした10月21日から3日間、海上保安庁と警察は知床半島先端部の海岸で集中捜索を行った。しかし、ダイバーなどを派遣して沿岸部を捜索する機会は日を追うごとに減っていて、海上からの目視による捜索が主体だ。

10月下旬、男性は焦りを募らせていた。間もなく雪が降り、捜索の条件はより厳しくなる。男性が望んでいるのは、沿岸部を捜索する機会を増やしてほしいということ。海上保安庁が毎週火曜日と金曜日に開いている家族向けの説明会でも、繰り返し発言して訴えてきた。しかし、今年はあと何回捜索が行われるのか、明確な回答は得られていない。

男性
「説明会の時にも“次に沿岸部を捜索する予定はいつですか”とは聞いてるんですけど、質問しても、いつもなんだかちゃんと質問に対する答えが返ってこないんです。知床の海はこれから荒れると聞いています。なので、今のうちにできるだけ捜索してほしいと思っています」

国の対応にも不信感

海上保安庁の家族向け説明会では、運航会社を管理していた国の体制や監査体制について報告が行われる。男性は国の対応についても不信感を募らせているという。

男性
「捜索の初動の遅さや観光船の検査や監査の緩さなどを放置してきた国には不信感を持っています。救助要請を受けてから現場に到着するまでに時間がかかる海域を放置してきたことにも不信感があります。利益優先で安全をまるっきり無視していたような運航会社を管理できていなかった国の責任もかなり大きいと思います」

そして、事故直後に会見を開いてから姿を見せていない、運航会社の桂田社長にも説明責任を果たしてほしいと訴えている。

男性
「以前、『逃げも隠れもしません』と言っていたが、今その言葉が全く守られていないと感じます。事故原因についてどう思っているのか、もう一度きちんと説明してほしいです」

どこか別の場所で生きていてくれたら

9月、息子と元妻が住んでいた住宅が引き払われることになった。男性は気持ちの整理ができていなかったが、2人の荷物を整理しなければならなかった。部屋からは息子が作った電車の工作や、学童保育で描いた似顔絵も出てきた。男性はいくつもの段ボールに思い出の品を入れて、自宅に運び入れた。

ある日突然、目の前からいなくなってしまった大切な家族。男性は記者にみせてくれた息子の工作をひとつひとつ丁寧に段ボールにしまいながら、こう語った。「生存の可能性は厳しいというのはわかっているんですけど、まだやっぱり自分の中で2人がいなくなったということが受け入れられないです」。そして、絞り出すようにして今の思いを打ち明けてくれた。

男性
「なんかこんなこと言ったら笑われるのかもしれないけど、奇跡が起きて、例えばUFOでもいいから、宇宙人が現れて、2人を連れ去っていてくれて、どこか別の場所で生きていてくれたらなとか。違う時間軸に迷い込んでいて、発見されていないで、いつかひょっこり2人が帰ってきてくれたらとか、そういうことを考えてしまって。生きていてほしいって、今でもそういう思いがあります」

2022年11月16日

歩道を歩いていただけなのに~奪われた女子高校生の未来~ 
敏感すぎる心 HSPとは
確認から40年 謎の樹木は新変種だった
北海道農業の転換点?消える防風林

関連情報

デパート再建のカギは?再開したデパートを徹底取材

ほっとニュースぐるっと道東!

2023年1月12日(木)午後7時22分 更新

#1 学芸員が語る 直行さんの魅力

ほっとニュースぐるっと道東!

2022年7月22日(金)午後4時03分 更新

飼料価格高騰でライ麦に活路を

ほっとニュースぐるっと道東!

2022年6月7日(火)午後4時53分 更新

上に戻る