皆さんから寄せられた疑問に答える「シラベルカ」。
今回、調査したのは、こちらの投稿についてです。
「北海道でスープカレーが有名ですが、どこが発祥か知りたいです」
(cibさん・35歳)
北海道の名物ともなっているスープカレー。
札幌の街中にはたくさんの専門店がありますね。
しかし、その発祥は?と聞かれると、はて…。
シラベルカチームが、そのルーツをたどって調べてきました。
作り手に聞いてみよう
実際にスープカレーを出しているお店の人なら知っているのでは?
まずは札幌のスープカレー屋さんで聞き込みをしてみました。
「TREASURE」店長
「詳しくは知らなくて。カレーといえばインド料理のイメージがあるので、何かと何かを組み合わせたものかなって予想はしています」

「しゃば蔵」社員
「スープカレーの発祥ですか。わからないですねぇ」

作り手ならすぐに分かるものかと思いきや、そうでもないようです。
いきなり、壁にぶち当たりました。
カギを握るのは“タツジリさん”
次に、専門誌を出している人なら詳しいのでは?と考え、関連書籍を手がける編集者に聞いてみることに。
訪ねたのは、「玉ヴァーソン」のペンネームでスープカレーの情報発信を行う玉木雅人さんです。
玉木さんがこれまでに携わったスープカレーの関連書籍は実に40冊以上。
日本にとどまらず世界各地を周り、スープカレーを食べ歩いてきた玉木さんなら、手がかりを知っているはず…。
玉木さん、発祥について教えてください!
スープカレーに詳しい「玉ヴァーソン」こと玉木雅人さん
「“タツジリさん”という方がいます。その方が、今のスープカレーの原型ともなるチキンレッグが入った形のスープを出していました。詳しくは、“タツジリさん”のお弟子さんがお店をやられているので、その方に聞いてみるといいかと思います」

旅するマスター
玉木さんが教えてくれた“タツジリさん”とは、かつて札幌市で飲食店を経営していた辰尻宗男さんという方です。
10年ほど前に亡くなられたとのお話でした。
辰尻さんとは、いったい、どんな人物なのか。
玉木さんの情報をもとに、早速、辰尻さんの下で料理を学んだ1人、金子正則さんを訪ねてみることにしました。
「辰尻さんはね、旅をして歩くマスターでした。中でもインドが好きで時間があってはスパイスの勉強をするために出かけていましたね」

辰尻さんは、旅先で巡り会った各地のスパイスを掛け合わせ、鶏肉の『だし』をベースにして調理したオリジナルのスープを作っていたんだそうです。
自分で飲むために作り始めたスープでしたが、ある時、お客さんに「飲みたい」と言われたことをきっかけに、店でも提供を始めました。

スープカレーの原点
辰尻さんのもともとの目的はスープで、『だし』をとった後の骨付きの鶏肉は捨てていました。
ところが、お客さんからは「どうせ捨てるならスープの中に残してよ」という要望が。
これを受けて辰尻さんはスープに具材を入れて店で出すようになりました。
スパイシーな具入りのスープ料理、「薬膳カリィ」の誕生です。
今から50年前、1970年代初めのことでした。

金子さんが作った辰尻さん仕込みの「薬膳カリィ」
スープカレー専門誌の編集者、玉木さんによると、辰尻さんが考案したこのスープ料理にこそ、今のスープカレーの「原点」とも言える特徴があるのだと言います。
「玉ヴァーソン」こと玉木雅人さん
「チキンレッグが入った形のスープというのが大きな特徴です。今のスープカレーのスタイルの原型と言えると思います。同じカレーって付いてますけど、(カレーとは)作り方から食べ方から全く違うものなんですよね」
金子正則さん
「まずスープを先に作って、別で調理した具材を後から掛け合わせていく。スープカレーというのは普通のルーカレーと違うんです。“スープ命”の料理なんですよ」
北海道で普及した理由は、なに?
では、スープカレーは、どうして、ここまで北海道で広まり、有名になったのか。
玉木さんは、次のような点を挙げています。
▼“ネーミング”の効果
1990年代に専門店「マジックスパイス」が「スープカレー」の名前で売り出しを開始。なじみやすいネーミングから多くの店が「スープカレー」の名前で同種の料理を出すようになり、定着していった。
▼イメージとの“ギャップ”
「スープカレー」と聞いて「普通のカレーを薄めただけなのでは?」といった印象を持った人が、実際に食べてみて、そのイメージと深い味わいのギャップにはまってしまい、広める結果となったのではないか。
▼“北海道の星”大泉洋さんの存在
北海道出身の俳優・大泉洋さんが全国に向けてスープカレーの魅力を発信したことで広まった。
(いずれも「玉ヴァーソン」こと玉木雅人さんの分析)
北海道の『食文化』との関係性
このほか、北海道の食文化との関係性を指摘する専門家もいます。
「北海道はスープやラーメンなども有名で『だし』の文化がとても普及していました。その点、スープの『だし』を生かした形のカレーが出てきたことは非常に地域として受け入れやすい環境だったのでしょう」
こう語るのは、食をめぐる問題に詳しい札幌保健医療大学・荒川義人教授です。

さらに、荒川教授は北海道の気候や特産の農産物もスープカレーの普及を後押しする要因として挙げています。
札幌保健医療大学・荒川義人教授
「スープの表面上に『だし』を取った肉の油分が浮かび、膜ができることで、スープカレーは温度が高く保たれます。このことも北海道の寒冷な気候と相性がよかったのだと思います。また、スープカレーに定番のジャガイモとか、タマネギ、ニンジンといった農作物の全国シェアも高い。これらの要因が重なって非常に安定した人気メニューになっていったのだと思います」
スープカレーのルーツ、そして、この北海道で広まった背景。
そこに思いをはせてみると、スープカレーの味わいもグンと深みを増してきますね。
投稿、お寄せいただき、ありがとうございました!
(札幌放送局 記者 髙山もえか)

取材終わりにシラベルカとパシャリ
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