NHK札幌放送局

繰り返された暴行 障害者施設で何が

北海道WEBニュース特集

2021年1月18日(月)午後4時00分 更新

「パンッ!」というほほをたたく乾いた音。横たわる相手に執ように暴行を加える男の姿。法廷のモニターに映し出された映像に、私はメモを取るのを忘れて見入っていました。
映像が撮影されたのは江差町の障害者施設でした。去年の秋、入所者に暴行を加えていたとして施設職員が相次いで逮捕されたのです。障害者の生活を手助けするはずの施設でなぜ暴行が行われていたのか、保護者はどのような気持ちでこの事件を受け止めているのか。私はこの事件の全容を知りたいと思い、これまで半年近く取材を進めてきました。 
(取材:函館放送局 小柳玲華)

匿名の通報が発端に

事件の舞台になったのは江差町の障害者支援施設「あすなろ学園」です。重度の知的障害者40人を受け入れています。
被害者は20代の男性入所者。重い知的障害があるこの男性に暴行を加えたとして、去年9月から10月にかけて相次いで3人の職員が逮捕されました。暴行の内容は顔などを複数回たたいたり、首に腕を回して締め付けたりするものでした。暴行は施設の共有スペースで行われることもあり、周囲に職員や入所者もいたということです。
逮捕された元職員のうち2人は裁判で刑が確定し、もう1人の職員は不起訴になりました。警察は施設で日常的に入所者に暴行が加えられていたとみて、今も捜査を進めています。

発端は行政に寄せられた匿名の通報でした。情報公開請求をして入手した報告書にはおととし、複数回にわたって施設内で暴行が繰り返されているという通報内容が記されています。報告書の中には施設関係者が撮影したとみられる映像が提供された旨も記されていました。
これが決め手になって檜山振興局は入所者への虐待が行われていると認定し、去年2月に施設に対して再発防止を求める行政処分を行っていました。同じ内容は警察にも提供され、行政処分が行われた後、相次いで職員が逮捕されました。

証言が明かす“日常的な暴行”

去年11月、元職員たちの裁判が始まりました。裁判では証拠として法廷内のモニターに暴行の様子が撮影された映像が流されました。
被害者に平手打ちを加える職員。ほほがたたかれる乾いた音。横たわる被害者に対してさらに腕を振り上げて執拗に頭や顔をたたく職員の姿。
数十秒の短い映像でしたが、私はメモを取るのも忘れるほど恐怖をおぼえました。
法廷に立った元職員は淡々とした様子でこう証言しました。

「被害者の不穏な行動に対し腹が立ち、暴力を振るった」
「職場のパワハラにストレスを感じて、暴力を振るうことが普通になった」

施設内で暴行が日常的に行われていることが明らかになったのです。

なぜこのような異常な状況が生まれてしまうのか。私は障害者施設での虐待防止に詳しい日本女子大学教授で日本障害者虐待防止学会の小山聡子会長に話を聞きました。

日本障害者虐待防止学会 小山聡子会長
「現場の環境を改善していくことが必要ですが、それは非常に時間も労力もかかることです。施設では不穏な状態になる入所者をとにかく上から力で押さえるようなことが起きがちです。本人の中に虐待しているつもりはなくて、業務の中でやむをえずやることが常態化していく。第三者的に見たらおかしい対応が、普通のことになってしまう」

“運営に意見できない”

事件が起きた「あすなろ学園」はどのような施設なのでしょうか。
学園を運営しているのは江差町に本部を置く「江差福祉会」。道南12か所で福祉施設などを運営していて、軽度から重度の知的障害者420人余りを受け入れている道内でも有数の社会福祉法人です。
最近では事業を拡大していて、「江差福祉会」のホームページによると江差町の人口の1割が「江差福祉会」の従業員など関係者だということです。

施設の関係者からは「狭い町で非常に大きな力を持っているため、施設の運営などについてなかなか意見することができない」という声も聞かれました。

「江差福祉会」トップの理事長は事件をどう考えているのか。私は2時間近くにわたって電話で理事長にインタビューをしました。
私が「施設では日常的に入所者への暴行が繰り返されていたのではないか」と聞いたところ、理事長は「暴行は日常的なものではなかった」と否定しました。

江差福祉会理事長の話
「事件当時は『あすなろ学園』では施設長によるパワハラが横行していた。そのため職場の人間関係の問題が今回の事件につながったのではないか」

理事長はこの事件を受けて、施設長を交代させて職員も介護福祉士などの資格を持つ職員を積極的に登用したりするなど体制を整えたほか、学園を移設して入所者の部屋をそれまでの2人部屋から個室に切り替えるなどして環境を改善したと述べました。

入所者家族が抱えるジレンマ

入所者の家族はこの事件をどう受け止めているのだろうかー。
事件のあと、私は複数の入所者の保護者に話を聞くことができました。中には自らの子どもが暴力を振るわれたという方もいました。
私は当初、保護者は施設に対して相当な憤りを感じているのだろうと思っていました。確かに保護者の方々は今回の事件のことに関しては口をそろえて「許せない」と言っていました。
しかし、入所者の家族への取材で見えてきたことがあります。それは重い障害のあるこどもたちの「預け先がない」という現実でした。

保護者の話
「暴行事件が起きことは納得がいかない。でも自分たちで面倒を見ることができず、ここにしか預けられない」
「障害者を受け入れることができる施設は限られている。警察の捜査や行政処分で施設がなくなってしまうのではないか」

共通していたのはこの施設が良くなっていってほしいと願う気持ちでした。そのために今後、保護者会を組織して一緒に施設をよくしていくつもりだと話す人もいました。

繰り返される暴行を防ぐには

道内では平成30年度(2018年度)、障害者施設などで認知された障害者への身体的虐待は78件にのぼっていて、今回の事件は氷山の一角です。全国でも同様の問題は起きていて、年々増加傾向にあります。
日本障害者虐待防止学会の小山聡子会長はこう話しています。

「第三者を入れた検証委員会を設置する。なぜこういうことが起きたのかという要因分析をきちんとした上で、特定の異常な人の犯した罪にするのではなくて、その背景ごとにきちんと原因を探って先につなげていこうとする取り組みが必要だと思います。それからもう1つは時間をかけながらきちんとその後がどうなのかをモニタリングしていく。そこら辺を抜本的に見直すことがなければ、まだまだ施設内での虐待は起こりうる事だと思います」

厚生労働省は障害者施設の暴行が後を絶たないことから、来年4月から虐待防止の研修を実施することや、職員のストレスがたまりやすい職場になっていないか点検したりすることを施設に義務づけることにしています。

《取材後記》

「あなたも障害のある子どもがいたら分かる」。ある保護者は自宅で障害者をみることの大変さを強く語りました。取材する難しさを感じながら、私は“もし自分に障害のある子どもがいたら”と想像しながら取材してきました。言葉で意思疎通が難しい重度の障害者への暴行が日常的に行われていたことに強いショックを受けました。
しかし、まだこの事件の捜査は終わっていません。施設は今回の事件を丁寧に検証していくとともに、再発防止策を徹底することが求められていると思います。施設がなくなることは誰も望んでいません。入所者の家族が話していたように、私もこの施設が良くなっていってほしいと願います。
施設がこれからどう変わっていくのか、今後も取材を続けて見ていきたいと思います。

(函館放送局・小柳玲華 2021年1月12日放送)

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