NHK札幌放送局

バスターミナルで過疎地域ににぎわいを!

ほっとニュースぐるっと道東!

2023年1月19日(木)午後5時55分 更新

長年存続の危機に瀕してきた全国の地方の公共交通は、新型コロナ感染症で市民の生活や行動が変わる中でさらに疲弊しています。そこで国は地方の交通の持つ価値や役割を 見直し、地域の多様な異業種の人たちが参加して新しい事業のモデルを生み出してもらいたいと全国15ヶ所で実証実験を始めました。 帯広市内で行われているのもそのひとつです。帯広のバス会社が提案したのが「路線バス 沿線ににぎわいを創りだすバスターミナル」です。地域の暮らしと交通を一体で捉え、 さまざまな分野の事業者も参加するこの取り組みは国交省の実証実験に採択されました。(取材 NHK帯広 柳澤 啓)

店舗を利用したバスターミナル

帯広市郊外の大空町に姿を現したのは他に類を見ないバスターミナルです。バス会社が経営する焼き肉店にバスを待つスペースを設けてみました。更にそこで様々なサービスを行うことで地域住民のバスターミナルとバス利用のニーズを探るのが狙いです。また将来的に主要路線に小さなバスターミナルを設置して新しい事業を始めるためのヒントを探ります。

にぎわいターミナルという名前には過疎化高齢化が進む大空町に、にぎわいを取り戻したいという願いが込められています。実証実験期間中は十勝バスの社員が常駐し、路線や運航時刻などについて案内をします。バスについての質問は大歓迎です。

バスターミナルにはコンシェルジュがいる

自社のバス路線を利用して隣の芽室町の事業者から野菜を仕入れて販売する取り組みでは、適切な輸送量や利用者のニーズを探ります。車を手放したり、運転免許を返納した人たちに気軽に買い物に来てもらうのが狙いです。訪れた人からはお惣菜や和洋のお菓子があると良いという声が聞かれました。また欲しいものを注文したいという意見もありました。

貨客混載で野菜を運び販売する

実証実験で行った健康相談では、医療行為にあたらない範囲でバスターミナルの一室と帯広市内の診療所をオンラインで結んで参加者の体温、脈拍、血圧、血中酸素濃度の4項目を計測します。診療所の医師が住民の相談にのることで体調の変化に気づきやすくなります。身近な場所で健康相談を受けられるのがポイントです。

バスターミナルではオンラインの健康相談も受けられる

十勝地方の15市町村にバス路線をもつ十勝バス。250人の従業員と130台の車両でバス事業を中心にサービスを提供しています。

平成20年に経営難が迫り会社の存続が危ぶまれた時には社員が路線に近い住宅を戸別訪問して利用者のニーズを聞いたり、学校や商業施設、病院などを分かりやすくイラストで書いたバス路線の地図をつくるなど地道な取り組みを行い、平成23年度には40年ぶりに乗客が増加し増収にも成功しました。

しかしコロナ禍で生活のスタイルが変わると乗客が大きく減りました。

収益の増加に成功した経験がある

十勝地方の15市町村にバス路線をもつ十勝バス。250人の従業員と130台の車両でバス事業を中心にサービスを提供しています。

平成20年に経営難が迫り会社の存続が危ぶまれた時には社員が路線に近い住宅を戸別訪問して利用者のニーズを聞いたり、学校や商業施設、病院などを分かりやすくイラストで書いたバス路線の地図をつくるなど地道な取り組みを行い、平成23年度には40年ぶりに乗客が増加し増収にも成功しました。

しかし、コロナ禍で生活のスタイルが変わると乗客が大きく減りました。

十勝バス 長沢敏彦事業本部長
「2020年の2月頃からコロナウイルスの感染拡大の影響を受けて利用者はコロナ前に比べると25%から30%少なく、非常に厳しい状況にはなっています。利用者の生活スタイルやビジネススタイルが変わり、いまからコロナ前の状態に戻ることはほぼ無いのではというふうに考えていますので、今までと同じやり方で路線バス事業を維持していくというのはかなり難しいと思います。この状況を逆にチャンスとして捉えて新しい事業にもチャレンジをしていきたい」

この3年間に、十勝バスは帯広市大空町で様々な取り組みを始めました。

十勝バスが注目する大空町はどのような場所なのか。帯広市の中心からおよそ7kmにある大空町は55年前に畑を造成して分譲住宅や公営団地の建設が始まった新興住宅地です。

当初は陸の孤島と揶揄された大空町ですが、建設開始から10年ほど経って人気が出てくると20代から30代の子育て世代が入ってきて最盛期には9000人を超える人たちが住むようになりました。やがて子どもたちが独立して離れていくと人口が減り続け、現在人口は半減しました。

『帯広市郊外の大空団地』(写真提供:帯広百年記念館 S57撮影)

大空町を歩いてみると最近立てられたと思われる新しい家が90軒ほど建っていました。調べてみると北海道や帯広市などの公営住宅や民間企業の社宅などの跡地が開発されて新しい住宅が建ち、そこに新しい子育て世代が入居して、人口はわずかに増えてきています。

帯広市は大空町で耐用年数が過ぎる市営住宅の立て替えを行う中で、空いた土地の民間への払い下げを10年ほど前から始めています。現在建設中の最新の市営住宅は5階建て。帯広市は完成後には古い住宅の跡地の利用方法を検討しています。

大空町に移り住んで55年になる久保竹雄さんは、大空町内に36ある町内会の
連合自治会長を務めています。長年久保さんは移り変わる大空町を見てきました。

久保竹雄さん
「最盛期には2軒あったスーパーマーケットは閉店してしまいました。車の免許を返納したり、車を手放した高齢者にとって大空町と街中を結ぶ2路線30分間隔で来るバスに乗って買い物や病院に行けるのは便利です。2年前に大空町民から総合病院を通る路線を設けて欲しいという要望を出したところ、バス会社が大規模商業施設も通るルートをつくってくれてありがたい」
55年間、大空町を見守ってきた久保竹雄さん

大空町には45年前から続く大空まつりがあります。コロナ禍で休止していた祭りを去年町内会が主催して3年ぶりに行いました。

久保さん
「盆踊りはコロナのために中止になりましたが、大空まつりはなんとか実施することができました。予想以上に来る人が多くて600人くらいがこの会場に集まりました。主催した私たちは大変驚きました」

9年制の大空学園義務教育学校は大空町民とも連携を深めていて、大空まつりでは吹奏楽部の生徒たちが細川たかしの「北酒場」や美空ひばりの「川にながれのように」、ラッツ&スターの「ランナウエイ」のメドレーなどの演奏を披露して祭りはとても盛り上がりました。生徒たちはコロナで演奏の機会が減っていた中で地元の観客の前で演奏ができてとても喜んだということです。

大空学園の吹奏楽部が演奏

大空町に住んで6年。学校に通う本吉くんは3年ぶりの大空まつりを満喫しました。

本吉くん
「いろいろな食べ物の出店が多くて楽しかったです。特にフランクフルト食べてジュースいっぱい飲んでアイスクリームもいっぱい食べました」

本吉くんは休日になると路線バスに乗って図書館や街中の散策に出かけるといいます。また塾の冬期や夏期の講習会にもバスを利用します。都会では公共交通機関を小学生から普通に利用する一方、地方では親が送り迎えをするのが一般的ですが本吉くんは郊外の大空町に住みながら積極的にバスを使っています。

本吉くんにバスターミナルに期待することを聞くと「冬は防寒がしっかりしていて座れる場所が良い。運行の状況がリアルタイムで分かることも大切だ」という答えが返ってきました。

大空町の小学生に聞いてみた

バスターミナルを自由に使えると聞いた3人が演奏練習をしたいと訪ねてきました。バスターミナルに演奏者が来るのは全く想定外の事でした。

この日は昭和の楽曲を2時間にわたり練習しました。グループの代表者の森春夫さんは「バスを待つ人に演奏を聞いてもらえたら良いですね。」と話していました。これはバスターミナルを多目的で利用するヒントになる出来事でした。

十勝バス 長沢敏彦事業本部長
「そこに行けば誰かに会える。地域の方に久しぶりに会えてどこか心が落ち着く。そのような場所になっていくと目的がなくても行ってみると良いことあるのではないかなというようなターミナルになるといいなあと思います」
みんなが楽しめるバスターミナルを目指したい

実証実験が始まって2ヶ月が経った今年の1月中旬、十勝バスと卸売市場という2つの業種が連携して新しいサービスが始まりました。

十勝バスが注目したのは肉や魚、野菜などの食料品を取り扱う総合卸売市場の帯広地方卸売市場です。十勝バスでは去年12月に品物の仕入れやセリに参加できる帯広地方卸売市場の買受人の資格を取得。

はじめは36の商品のなど写真と値段を掲載したチラシを家庭に配り、大空町民から注文を聞いて卸売市場から取り寄せる仕組みです。

これはスーパーマーケットや商店が身近に無い地域に住む人たちのニーズに応えるサービスです。

商品を注文した大空町に住む70代の女性
「今後免許を返納して車が無くなっても今回のサービスに助けられながら住み慣れた大空町で元気にお買い物をして過ごしたいというのが私の希望です」

十勝バスでは近い将来、より大型の車両を利用して商品を十勝地方各地のバス路線の沿線で販売したいとしています。

帯広地方卸売市場 藤井 延哉 取締役
「毎日十勝で運行されている路線バスを活用できないかと考えていたところに、去年5月に十勝バスさんからバス会社でも市場で食品を購入できるんですか?という問い合わせがありました。これは渡りに舟だということでさっそく共通の使命や目標に向けて話し合いをしてきました。人口の少ない地域では地域の商店がどんどん減少しています。十勝バスさんと提携することでさまざまなノウハウを学び、十勝の各地域に食品の安定供給を続けていきたい。旬のものや市場でつくるお寿司などを楽しみながら美味しく食べていただきたいです」
以前から路線バスを活用できないか考えていた

2023年1月19日

帯広の黒曜石 十勝石のルーツを追う
NHK帯広放送局ホームページ
NHK釧路放送局ホームページ
十勝の話題を集めました


関連情報

ぐるっと道東!中継ウィーク 道東を盛り上げる特産品を大特集

ほっとニュースぐるっと道東!

2024年3月1日(金)午後0時00分 更新

国産第一号の蓄音機を集いの中心に

ほっとニュースぐるっと道東!

2023年5月16日(火)午前10時30分 更新

ぐるっと道東!新メンバーと新年度スタート!

ほっとニュースぐるっと道東!

2023年4月5日(水)午後6時30分 更新

上に戻る