NHK札幌放送局

LA特派員から弟子屈町に 異色の川湯温泉広報マンの挑戦

ほっとニュースweb

2022年1月20日(木)午後3時26分 更新

「知り合いの元ロサンゼルス特派員が、北海道東部、弟子屈町の川湯温泉にあるホテルで働いているらしい」
東京で働くNHKの同僚が、ふと思い出したように教えてくれました。
なぜテレビ局から川湯温泉のホテルに転職したのか。川湯温泉では何をしているのか。確かめるために取材に向かいました。(北見放送局 記者 徳田亮祐)

なぜLA特派員から川湯温泉に?

NHK北見放送局から車で雪道を2時間ほど行ったところに川湯温泉があります。
氷点下まで冷え込む寒さでしたが、温泉が流れ込んだ川から湯気が立ち上る情緒のある温泉街です。

私たちがホテルに到着すると、40歳の星野慎吾さんが優しく迎え入れてくれました。去年8月からホテルの総務担当として、働き始めたといいます。

星野さんに話を聞くと、転職の直前までは名古屋市のテレビ局に勤務し、愛知県警担当のキャップとして数々の事件の取材を指揮。
2014年からの3年間は、TBS系列のロサンゼルス特派員として、アカデミー賞やリオデジャネイロオリンピックなどの現場を取材しました。

やり手の記者が持つ独特のオーラがありました。

星野さんは、特派員時代の写真を見ながら「ダイナミックな取材ができたのはとても楽しかったですね。東京から連絡があって『あしたペルーに行ってきて』とか、いきなり言われることもありましたね」と笑顔で話していました。

記者の仕事にやりがいを感じる中で、なぜ、星野さんは転職を決意したのか。
あいさつもそこそこに話を聞こうとすると、星野さんは私をホテルの屋上に連れて行ってくれました。

星野慎吾さん
「奥にちょっと見える、煙が上がっているのが硫黄山なんですよ。
川湯温泉が森の中にあるっていうのがすごくわかる場所なので、お気に入りの場所の1つです」

星野さんは20代前半のころ、バイク乗りとして、たびたび北海道を旅し、その後も雄大な自然に囲まれた川湯温泉の魅力を長年忘れられなかったといいます。
記者として20年近く勤務する中で、テレビ局での仕事をやりきったとも考え、新たな挑戦を決意したといいます。

星野慎吾さん
「転職するかめちゃくちゃ悩みました。何かを伝えるという仕事が天職なのかなとも感じていましたし。その一方で、もともと北海道にずっと来たかったという淡い夢と昔から好きだった川湯温泉というものがずっと頭の中にあって、まず一回こちらにちょっと飛び込んでみようと決断しました」

温泉広報マンに

ホテルでは総務を担当する星野さん。転職直後は不慣れな仕事も多かったといいます。

星野慎吾さん
「テレビ局にいた時は、こうやってお金を数えることは全くなかったので、転職したばかりのころは、10円、50円合わないということが結構あって、それで頭を抱えていました。今はだいぶ慣れてきた感じですね」

星野さん、記者時代の経験を生かせる広報の仕事を任されています。
ホテルは去年から、近くにあった別のホテルを再建する事業に挑戦しています。
節目の時期にさらなる魅力の発信が期待されています。

この日、テレビ局時代の相棒であるハンディカメラを持って向かったのは、12月にホテルの向かいに設けられた施設です。
レモンよりも酸性が強いとされる川湯温泉のお湯を飲むことができます。

動画を見た人が温泉の味を想像できるようにと、味のリポートもしながら撮影をしていきます。

撮影後は、コメントはもちろん、字幕のデザインも考えます。

記者時代に原稿を声に出して読み上げてチェックしたのと同じように、完成した動画のコメントを声に出して読み上げて最終確認し、YouTubeに動画を公開しました。撮影開始からわずか1時間ほどの作業でした。

星野慎吾さん
「日々のことについては、がっつり編集するというよりは、
カットを並べてニュースっぽい感じで早く出すことを心がけていますね」

ホテルの雰囲気が変わる

星野さんが来てからホテルの雰囲気も変わってきたといいます。

社長と話し合った星野さんが朝、訪れたのは調理場。
大量廃棄が懸念されていた地元の牛乳を使った特別メニューを出せないか、料理長に相談しました。

川湯ホテルプラザ 弟子文人 料理長
「僕らは板前ですから、星野さんから特別メニューの提供の話を持ってこられると、血が騒ぎますよね。星野さんからはホテルのSNSなどで発信するため、『旬の食材が何か入ったら、一報下さい』とふだんから常々よく言われています。ホテルの発信力というのは、まさしく以前とはまるで違うと感じていますね」

すると、料理長は、その日の夕食で2品の特別メニューを提供。
星野さんは「#ミルクに恩返し」のハッシュタグをつけて、日課のツイッターで発信しました。

臆することなくさまざまな現場に突撃してホテルの魅力を発信する星野さんに、周囲も信頼と期待を寄せています。

川湯ホテルプラザ 榎本竜太郎 社長
「調理場などの現場に入っていくのは、実は結構、勇気がいるんですよね。
 星野さんはホテルに入って数か月で、さまざまなところに行って撮影をして動画を出していて、すごいですよね。期待していた以上の仕事をしてくれていると思います」

川湯温泉全体を盛り上げる

星野さんには、ことし、さらなる目標があります。

川湯温泉では、ほかの温泉地との競争の激化もあり、ホテルの数がピーク時の3分の1程度にまで減少しました。
そうした中、新型コロナウイルスが直撃しました。

星野さんは、アフターコロナを見据え、地域全体の魅力を発信しようとしています。
川湯温泉の飲食店で作る組合と打合せをし、地域の飲食店も支援して、おすすめメニューなどの動画を公開することにしました。

川湯料飲店組合 宮﨑健一 副組合長
「星野さんが来てから、今まで発言しなかった飲食店の人たちも発言するようになってきているので、すごい変わってきているなと感じる。
星野さんにサポートしていただいて、一緒に作って、一緒に発信して、温泉街を盛り上げたい」
星野慎吾さん
「2022年は川湯温泉が大きく変わる年だと思います。なんとか川湯温泉のことを1人でも多くの方に知ってもらえるように頑張りたいと思います」

取材を終えて

取材をして真っ先に感じたことは「川湯温泉、本当にいいところだ!」ということです。
これは想像を上回っていました。
温泉街を囲う森の静けさや煙を上げ続ける硫黄山の荘厳さ、五寸くぎすらもとかしてしまう強酸性の温泉、どれも川湯温泉にしかない魅力だと感じました。
そして、その魅力を伝えようと奔走する星野さんのいきいきとした姿です。

テレビ局時代には、若手記者を厳しく指導したこともあると話していた星野さん。

川湯温泉では地域の人たちと笑顔で交流してとけ込みながら、魅力を伝えているのが印象的でした。

変わっていく川湯温泉の姿を、星野さんの発信を通じて、今後も見ていきたいと思います。


2022年1月20日

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