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“未開の地”富良野で高まる投資熱~海外投資家の戦略は

ほっとニュースweb

2021年3月9日(火)午後1時38分 更新

北海道有数のスキーリゾートとして知られるニセコ地区。ゲレンデのふもとには海外の投資家が所有する高級物件が所狭しと建ち並ぶが、今、同じ北海道で投資先として急速に関心が高まっている場所がある。ラベンダー畑で有名な富良野地域だ。近年、地元の人たちが所有していた物件が次々と海外の投資家たちの手に渡り、開発が進んでいる。
投資家たちの熱視線がなぜ富良野に集まっているのか。そして、加熱する投資を住民はどう受け止めているのか。現地で取材した。

海外資本が次々と 進む開発の実態

富良野地域担当の記者としてよく訪れていた、富良野市のスキー場のふもとにある北の峰地区。“訪れるたびに新しい建物を工事している”と感じたのが、今回の取材の大きなきっかけだった。
北海道有数の観光地とはいえ、高齢化が進む地方でなぜ急速に開発が進んでいるのか。誰がいったいどんな目的で開発を行っているのか。取材を進めていくと、巨大な“海外マネー”の存在が見えてきた。

これは去年、北の峰地区でスキー場のすぐそばに完成したコンドミニアムだ。香港の企業が開発を手がけ、最も高価な部屋は広さ100平方メートルで2億円余り。33戸すべてが中国やベトナムなど海外の投資家に購入された。
これだけではなく、住宅街もある北の峰地区では近年、海外資本によるコンドミニアムやペンションの建設が急増している。

地元の不動産仲介会社によると、コロナ禍にもかかわらず、物件を購入したいという海外の投資家からの問い合わせは絶えないという。実際、この地区では不動産の売却により、地元の住民から海外の投資家へ次々と土地や建物の所有者が移行している。
それでは、どれくらい海外資本の不動産があるのか。私たちは北の峰地区の開発が進むエリアでおよそ260件の登記簿をとり、1件ずつ所有者を洗い出した。

すると、驚くべき結果が浮かび上がった。最も開発が進んでいる一角だけを見ても、海外資本の不動産は70件以上にも上ったのだ。赤い色が該当の物件だが、地図が真っ赤になっていることが分かる。
なぜ、これほどまでに富良野で投資が進んでいるのか。私たちは実際に物件の購入を検討している投資家に取材した。

“買われたら無くなる”コロナ禍中の投資熱

1月下旬、不動産会社が中国・北京の投資家、岳耀国さんにオンラインで北の峰地区の一軒家を案内する現場に同行することができた。
岳さんは一軒家の使い道は決まっていないとしながらも、海外の企業家の間で人気が高まる富良野で今のうちに不動産を確保しておきたいという。不動産会社の担当者から物件の説明を受けた岳さんは、販売値段を尋ねて3500万円だと教えられると「安い、安い」と言って、購入への強い意欲をのぞかせた。

中国人投資家 岳耀国さん
「富良野は中国人にものすごく人気がある場所です。北海道の土地はこのまま買われると無くなってしまいます。安い時期に購入してそのままキープするか、投資目的で買いにいく方もいるでしょう。いずれにしても価格は今後、もっと上がっていくと思います」

岳さんのように物件を購入目的で視察したいという海外の投資家からの問い合わせは、コロナ禍でも絶えることはないという。投資家たちは投資先として未開の地である富良野で不動産を所有し、将来は転売も視野に入れながら、利益を得ようと考えているのだ。

富良野の不動産会社 石井秀幸社長
「ニセコ地区が投資先として有名になって以降、海外の投資家たちの間で北海道の別の地域への関心が急速に高まりました。富良野の物件価値がこれから爆発的にアジアの中で高まると思います」

“未開の地”富良野に注目する投資家

では、なぜ富良野なのか。一番の理由は価格の安さだ。
路線価に基づく富良野市の土地の価格は、ニセコ地区と比べて30分の1程度。ニセコ地区に引けを取らない極上のパウダースノーを楽しめるスキー場に加え、夏には一面に広がるラベンダー畑が国内外から観光客を呼び込む。年間を通じて観光資源に恵まれている富良野は、コロナ後も安定した需要が期待できるという。“未開の地”として、投資家たちにとっては今が絶好の買い時なのだ。

富良野市によると、市内で海外の投資家や企業などが所有する不動産は2020年の時点で186。スキー場に近い北の峰地区を中心に、2年前に比べると2倍以上に急増している。
このように加速する海外からの投資を地元ではどのように受け止めているのか。私たちは北の峰地区で民家やペンションを1軒1軒訪ね歩いた。

地域の急激な変化 地元住民は

生川敦さんは4年前、北の峰地区にペンションを建て、オーナーを務めている。念願だったというペンションはバーカウンターのあるおしゃれな建物だ。

実は生川さんは海外からの投資が熱を帯びる中、愛着のあるペンションを売却することを決断した。その理由は次の事業を始めるためだ。コロナ禍で客足が遠のき、苦しい経営が続く中、売却して資金に充てたいという。

生川敦さん
「世の中の動きや世界の動きに合わせて、投資ということを柔軟に考えていかないといけない。外資だからとか、分からないから怖いとか、そういう感覚ではなく、あくまでもビジネス感覚として売却を検討している」 

一方、住み慣れた地域の急速な変化に不安を感じている住民も少なくない。町内会長の高橋秀雄さんの自宅があるのは北の峰地区でも最も海外からの投資が増えているエリアで、およそ3割が売却されたという。

高橋さんに地元を案内してもらった。海外資本に売却された物件の中には手つかずになっていて、窓ガラスが割れているものもあった。しかし、物件をどのような形で使うのか、所有者から直接情報を得ることは難しく、住民からは不安の声が上がっているという。

北の峰地区の町内会長 高橋秀雄さん
「誰もいなくなったら、ガラスが割れていた。そういうことがあると、やっぱり不気味。先行きがどうなるのかという心配だけですよね」 

コントロールが難しい民間投資 

地元の自治体も複雑な思いだ。富良野市は海外からの投資を歓迎する一方、持ち主や使い道が分からない不動産が増えることに懸念を強める。
ニセコ地区と違い、住宅街でも開発が進む富良野市。景観を保護するほか、いわゆる乱開発を防ごうと、建物の高さを制限したり、開発を希望する企業に住民説明会を求めたりする条例も制定した。しかし、民間の不動産売買に介入するのは難しいのが現状だ。

富良野市 稲葉総務部長
「新しいホテルが建設されるなどして、いい動きだと思います。しかし、転売目的の投資ではどうしても使われない土地が増えていきます。そうなると行政的にも悩ましいですね」

それでは、自治体はどのように海外からの投資を受け止めればよいのか。北海道大学の小磯修二客員教授は「投資の目的を見極め、どのような地域を目指すか行政が全体像を描き、規制づくりの議論も行う必要がある」と指摘する。

海外からの投資は人口流失や高齢化に悩む自治体にとって起爆剤にもなり得る。その一方、行政のコントロールが効かず、住民が置き去りにされるような開発では元も子もない。住民の不安を解消し、富良野が投資熱を地元のためにどう生かすのか。引き続き取材していきたい。

(旭川放送局・内匠彩果 2021年2月12日放送)

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