2020年日本地域コンテンツ大賞・地方創生部門で最優秀賞(内閣府地方創生推進事務局長賞)を受賞した「.doto」。「道東で生きている」人たちのリアルをまとめた道東エリアのガイドブックで、一般社団法人「ドット道東」がクラウンドファンディングを活用し、全国の支援者とともに制作しました。地方創生部門で最優秀賞を受賞した彼らが考える地方創生とはどのようなものなのか。十勝の士幌町での実践を例に探りました。
「ドット道東」とは

おととし、道東各地で活動するフリーランスの5人が設立した一般社団法人。点在する、ローカルプレイヤーと呼ばれる“地域を思い活動する人たち”をつなぎあわせ、新たな価値を生み出そうとしている。設立当初取り組んだのが、アンオフィシャルガイドブック「.doto」の製作でした。NHK北海道は、去年1月、ガイドブック製作の様子を取材しました(当時の取材記はこちら)。あれから一年余り、各地域でさまざまな新たなプロジェクトをはじめていました。

今回は、去年11月から取り組む「#道東ではたらく」という、道東で働きたい人と、人材を募集したい企業らのマッチング事業を軸に、その先にどのような可能性があるのかを探ることにしました。
日本一町民に必要とされる道の駅を目指して
今回取材に訪れたのは、十勝の士幌町の道の駅「ピア21しほろ」。2017年4月にリニューアルした、活気にあふれた場所です。

(左から 北大生の佐藤颯太さん、社長の堀田悠希さん、早大生の右代朝陽さん)
道の駅は「#道東ではたらく」に、インターン生の募集を掲載。2人の大学生を去年11月から受け入れました。なぜ、ドット道東に依頼をしたのか。道の駅の運営会社「at LOCAL」の社長 堀田悠希さんは、その理由をこのように振り返りました。
運営を続ける中、士幌町の魅力を発信したいと思いながら、日々の業務に追われてしまい、士幌の商店街など、まだまだ深く地域の魅力を知りきれていないという点に課題を感じていました。その解決をと思い依頼しました。
一方、2人の大学生に応募した理由を尋ねるとそれぞれ次のような答えが返ってきました。

【北海道大学4年 佐藤颯太さん(22歳 恵庭市出身)】
ドット道東の「.doto」を読んで、こうした活動がすごく羨ましかったというのが最も大きかったです。漠然と、こういう事をやってみたいと思っていたところインターンの募集があり、応募しました。就活生なのですが、コロナで大学も就活もオンラインになったので、今ならいける!と飛び込みました。

【早稲田大学3年 右代朝陽さん(20歳 別海町出身)】
北海道のことを外から見たい、地域のことを勉強したいと思い、あえて東京の大学に進学しました。実際に東京に行って感じたのが、地方創生、地方創生というものの、向いているのは暮らしている人ではなく、多くが経済であり、お金だと感じました。しかし、ドット道東の活動を見ていると、ちゃんと地域で暮らしてる人を見て活動していると感じました。そんな団体が募集をしているインターンだったので、興味をもって応募しました。
しほろ商店街見える化プロジェクト

インターン生は、道の駅で売り場対応などをしながら、あるプロジェクトに取り組みました。それは「しほろ商店街見える化プロジェクト」。地元商工会の協力のもとドット道東が中心となり商店街26店舗を取材し、地域を支えてきた店の歴史やポリシーを聞き取り、町民へのアンケートなども行い、まとめるというもので、サポートメンバーとして参加しました。

取材の結果生まれたのは「しほろよってく?マップ」。表の面にはその店のイチオシが、裏には店主の顔とQRコードが記されています。コードを読み取ると道の駅のホームページに設けられた詳細な取材記を読むことができます。その文章には愛情があふれていて、読めば読むほど取材者の取材対象者への興味の大きさが伝わってきて、店に足を運びたくなります。
取材を通して、大学生らは気づきが多かったといいます。

【右代朝陽さん(写真中央奥)】
東京出身の人は地方のことを知らない。札幌の人も北海道のほかの地域のことを知らない。それに加えて、士幌での取材は、地方に住んでる人こそ、自分たちが住んでる街の事を知らないんじゃないかということを感じました。その上で、知ることってすごく大事だなと思いました。町って、生活と切り離せないものだと思っているので、その町の事を知るっていう事は、日常の光景が豊かになることだと思うんです。地域に目を向けることは地域を変える上で重要だと感じる機会でした。
【佐藤颯太さん(写真右端)】
取材したお店にその後も行くと、どんどんお店の人や常連さんが心を開いてくれて、そういう関係を築く楽しさも感じることができました。でも、インターンだからこそお店に行ったりしますけど、実際自分の町でそれをやっていたかというと、やっていないんですよね。だから地元に帰ったら、地元に店にも行こうと思いました。あと、正直、札幌圏に住んでいるので、都会の便利さとローカルの不便さは感じました。生活はそれなりに苦労はありましたけど、魅力的なはたらく場所や素敵な人はいて、地方の姿を再認識した気がしました。取材でたくさん出会い、話したのが大きかったですね。
取り組みのインパクトはそれぞれに…

(写真左から、デザイナー瀬野祥子さん、航さん、カメラマン岩崎量示さん)
マップに掲載する写真を撮影した士幌町在住のカメラマン岩崎量示さん。タウシュベツ橋梁の写真集をこれまでに3冊制作するなど、地域で知られたカメラマンです。
【カメラマン 岩崎量示さん】
僕は2年前に士幌町に引っ越してきました。住民として関われたのは大きくて、こんなにも魅力的な人がたくさんいたのかということを知ることができたことがよかったです。この先、士幌がもっと面白くなると確信しました。今回、製作に関わった10人ぐらいで、これだけの発見があったので、もっと町に興味を持つ人が増えたらすごくいい町になる、そんな兆しを感じました。その最初の一歩として、お店に入るきっかけ、話を聞く時間をもらえてすごく楽しかったです。
さらに、マップのデザインはおとなり上士幌町在住のデザイナー、ワンズプロダクツの瀬野さん夫妻。チームワークの良さに感嘆していました。
【ワンズプロダクツ 瀬野航さん(グラフィック)&祥子さん(イラスト)】
今回、表の面に記すイチオシメニューは、町民のみなさん、常連さんのおすすめにしたいと思ってアンケートをとってもらったんです。そのアンケートの製作や配布、回収がとてもスムーズで、思いを実現する力がここにはあると感じました。みなさんと一緒に仕事ができて活力をもらった気がしました。
さらに、道の駅に在籍するインターン生と同年代のスタッフも多くの刺激を受けていました。

【山部緋将さん(22歳 写真左から2人目)】
考え方がすごいなと感じて、教えることよりも教わることが多かった印象がありました。いつしか、吸収しようと思って一緒に過ごす自分がいました。
【浅野準哉さん(21歳 写真左端)】
20年この町に住んでいますけど、行ったことがない店が大半でした。仮に行ったとしても人柄までは知らなかったので、取材ではじめて地域について知ることが多く、士幌の印象が変わりました。

一方、実際に取材を受けた店はどう感じているのか。今回、お食事処「祥」の坂口修さん、昭子さん夫妻にお話を伺いました。
「しほろよってく?マップ」を道の駅で手に取って、ホームページにもアクセスして読んでくれた人がお店に来てくれたんです。他の店にも行ったみたいで、嬉しいですよね。実は、私たちも「こんなお店があったんだ」と思ったり発見があったんです。何より、道の駅の存在の大きさも知りました。「新しいことを仕掛けていて面白い」と道の駅を褒められた時に私も嬉しくなったんです。士幌の顔だなと思って。こういうことを大学生のふたりに伝えたら、よその人なのに、我が事のように喜んでいるんです。そういう姿を見ながら、改めて士幌を見直しましたし、これをきっかけにまとまりが強くなるんじゃないかなと感じています。道の駅や他のお店とお互いに交流ができそうですし、それぞれの顔と考えを知ることができたことは大きな変化ですね。

課題を感じてインターン生を募集し、道の駅のスタッフと共にこの製作活動に参加した堀田さんは確かな手応えを感じていました。
こういう仕事ってお金をかけて、広告代理店に頼んだらいくらでも作れると思います。でも、こうやっていろんなメンバーを集めて、知恵を出しながら、そして町民の人たちも巻き込んだプロジェクトの方が、面白いと確信しています。なによりも町民の皆さんたちの共感が得られるし、わたしたちもやりがいにつながるし、もっともっとこの街が好きになると思うんですよね。わたしたちも取材された方たちも、きっとこのマップだったり、ウェブ記事を読んでくれたお客様も。かけがえのない経験をできたなと思ってます。そして、インターン生が加わってくれたことで第三者寄りの立場の学生が本気でこの町の価値や面白さを語っていて、町の皆さんも喜んでくれたようにも感じています。今回のつながりをきっかけに、商店街の人たちの人柄だったり人生だったり歴史をこの地域に住む子どもたちと共有するような何かをやりたいと思ってます。
企画伴走集団でありたい

今回の取り組みは、ドット道東が道内各地で進めるインナーブランディングです。このインナーブランディングとは、主に企業活動などで使われる言葉で、社員向けに自社の強みを認識させることを指しています。そうした考えを地域に対して行うことで、魅力を高め、より強い発信ができると考えて始めました。士幌町の他にも、例えば「阿寒摩周国立公園」では環境省から受託して「自然の郷ものがたり」というタイトルで取り組みを進めています。同時並行で行われていた士幌町での実践。ドット道東は、多くの地域の人たちが関わり、超ローカルなメンバーで進めたこの取り組みは、地方創生と伴走のひとつのロールモデルになると感じていました。

【ドット道東 理事 野澤一盛さん(帯広在住)】
僕たちメンバーも道東各地で暮らしていますけど、それぞれに住んでいる人がいて、実践している人がいるので、そういう地場の超ローカルな人が取り組むというのは今後に向けてヒントになると感じました。士幌がまさにそうでしたが、そこにいる人が率先して取り組むからこその発見、発掘、気づきが多かったことが大きいです。想像をしていましたが、想像を超えました。実は、ガイドブックを発売したあと「地方で暮らしたい」「道東で暮らしたい」「ふるさとに帰りたい」という人の存在が見えてきたんです。そうした人たちと地域を結ぶことが、僕たちならできると感じているので、プラットフォームとして機能していきたいと思っています。その上で、僕の信条としては、今ここにいる理由を語れる、誇れる、自分が住んでいる地域を好きでいられるということが重要で、多くの人にその自信をもって人生を過ごしてほしいと考えています。そういう状況をどれだけつくっていけるか、そして、つくったあとに伴走し続けられるかを意識して活動していきたいと考えています。

【ドット道東 代表理事 中西拓郎さん(北見在住)】
道東は広い分、接点が少ないと感じているんです。僕らの役割はそういう接点づくりにあると考えていて、それがしっかり結ばれれば今までにない価値はまだまだ作り出せると考えているんです。個人、企業、自治体。それらを行き来してつなげていきたいというのが当初からの考えです。キーワード的にいうと、「つながっていないことこそ道東のポテンシャル」といえると思います。僕たちもまだまだ知らない道東があって、いまもよく「こんなものがあったのか」と驚かされます。その気づきを多くの人にもしてもらうということが重要なので、インナーブランディングに力を入れています。関連して、関係人口というと、どうしても東京や海外など遠い地域に目が行きがちですが、僕たちは隣町の人にも自分の町のことを好きになってくれることもその一つだと考えているんです。そう捉えれば、いまできることまだまだありますよね?とも思っています。視点を変える、視野を編集するということです。一発逆転なんて都合のいいものはないと思うんです。これからも、小さな積み重ねを泥臭くやって、ひとりずつでも、わかっていただける人たちと一緒に仕掛けていきたいと思います。
取材を終えて

彼らとはじめて出会ったのは2019年の冬。当時、彼らが示してくれたビジョンは、いい意味でド・ローカルな視点から地域の未来を変える可能性そのものでした。彼らの話を聞きながら「夢はあるけど社会は必ずしもそう動いていない面もある」と、難しさも感じたことを覚えています。しかし、夢を見たことも事実で、興味を持って、その後を自分なりに追わせてもらいました。そして、一年あまりを経て、「点在する人や企業をつなぎ、地域の力を結集させれば、外から何かを持ちこまなくても新たな価値を生み出せる」という当時示してくれた彼らの仮説は形になりはじめていました。ただ楽観視はできず、今はまだ道半ばです。注目が集まる今、どれだけ活動への共感を広げ、実績に変えていけるのか。真価が問われるのはこれからです。地域のメディアとして、可能性あふれる取り組みをこれからも見続けていきたいと思います