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沖縄から北海道へ 広がる「憲法九条の碑」

  • 2023年12月20日

2023年11月、室蘭市で「戦争の放棄」を定めた憲法9条の条文を刻んだ石碑の除幕式が行われました。その名も「憲法九条の碑」。同様の碑は全国にあり、最初に設置されたのは、住民を巻き込み激しい地上戦が行われた沖縄です。平和への願いは南から北へ広がっています。室蘭で碑の設置に尽力した男性の思いを取材しました。 (室蘭放送局  篁慶一) 

戦争の歴史を刻んだ街、室蘭

「憲法九条の碑」は、室蘭港や工場群を見下ろす室蘭市海岸町の高台に建立されました。黒御影石の碑には「恒久平和」の文字とともに、「戦争の放棄」、そして「戦力の不保持」と「交戦権の否認」を定めた9条の条文が刻まれています。碑の高さは台座を含めると2メートルを超え、幅は70センチあります。

憲法九条の碑  室蘭市

碑の設置を進めたのは「憲法を守る室蘭地域ネット」という市民団体の有志で、代表の増岡敏三さん(80)が中心となりました。2021年から募金を呼びかけましたが、約200万円の費用が思うように集まらず、設置場所の確保も難航しました。それでも、粘り強く活動を続け、土地も室蘭市が所有する空き地の1坪を購入し、当初の予定から1年遅れで建設にこぎ着けました。

碑の設置を目指した背景には室蘭市の戦争体験があります。78年前の1945年7月15日、大規模な軍需工場があった室蘭市はアメリカ軍の艦砲射撃を受け、400人以上が亡くなりました。その一方で、戦時中は多くの中国や朝鮮半島出身の人たちが工場や港で働いていました。「新室蘭市史」では、1800人以上の中国人が劣悪な労働環境に置かれ、約3割にあたる560人あまりが死亡したとされています。室蘭には、戦争の「被害」と「加害」、どちらの歴史も刻まれています。

増岡敏三さん
「室蘭に生きる人間として、戦争によって被害者も加害者も生み出したくないという思いを強く持っています。ただ、ここ10年ほどの政治の動きを見ると、憲法9条の理念がないがしろにされているように感じます。碑が、室蘭の人たちが平和について考えるきっかけになってほしいのです」

沖縄から始まった「憲法九条の碑」

憲法9条の条文が書かれ、「憲法九条の碑」と呼ばれる碑は、全国各地に設置されています。「九条の碑」を調べているジャーナリストの伊藤千尋さんによると、国内で33か所、海外に3か所あるということです。道内では、2019年に小樽市でも建立されています。

沖縄県那覇市の憲法九条の碑

その中で最も古いものは、沖縄県那覇市の与儀公園にあります。20万人を超える人たちが命を落とした沖縄戦から40年となる1985年に那覇市が建立したのです。碑には、「憲法の目指す恒久平和主義が名実共に定着し二度と戦争の惨禍が起こることのないよう祈念し」と設置の理由が刻まれています。その後、沖縄県内では「憲法九条の碑」が次々と建てられ、今では全国最多の8か所にのぼっています。

市民団体の増岡さんは、10年ほど前に沖縄で碑の存在を知ったと言います。在日アメリカ軍基地が集中する現状や普天間基地の県内移設に疑問を感じた増岡さんは、新型コロナウイルスの感染が拡大する前の2019年まで10年以上、毎年沖縄へ通って名護市辺野古などでの抗議活動に参加していました。平和を強く願う沖縄の人たちとふれ合う中で、室蘭市にも「憲法九条の碑」を設置したいという思いが芽生えたということです。

沖縄の思いを北海道に

増岡さんは沖縄の思いも碑に込めたいと考え、知人である沖縄県読谷村の彫刻家、金城実さん(85)に台座のレリーフの制作を依頼しました。完成した木板には、鬼のようにも見える沖縄の守り神シーサーが口を大きく開けて子どもたちを中に入れている様子が表現されています。金城さんは、幼い頃に経験した沖縄戦で洞窟に隠れていたときの記憶を再現し、「子どもたちを守る」というメッセージを込めたということです。

金城さんは、日本国憲法が公布されたことを記念する祝日、11月3日の「文化の日」に合わせて行われた除幕式に招かれ、室蘭を訪れました。式では100人近い参加者を前に声を張り上げ、戦後、アメリカ軍の統治下にあった沖縄で憲法9条があるからこそ、多くの県民が復帰を強く望んでいたこと、そして九条の碑への思いを語りました。

彫刻家  金城実さん
「1945年から27年間、私たちは米軍の統治下に置かれ、理不尽な扱いを受け続けてきた。だからこそ、沖縄県民は憲法9条がある日本に早く帰りたいと思い、血と汗を流して祖国復帰の運動に取り組んだ。戦争の歴史と縁の切れない街である室蘭に『憲法九条の碑』が建ったことは本当にうれしい」

平良啓子さん  2017年 沖縄県大宜味村

また、今回の碑の設置には、多くの沖縄の人たちも協力しました。その1人が、アメリカ軍に撃沈された疎開船「対馬丸」の生存者、平良啓子さんです。戦争を繰り返してはならないという思いでみずからの体験を語り伝える活動を続け、沖縄県北部の大宜味村で「憲法九条の碑」の建立にも取り組みました。平良さんは、室蘭で碑をつくるための募金への協力を沖縄で広く呼びかけていましたが、2023年7月に88歳で亡くなりました。

憲法9条への考え方は

一方で、中国の軍事力増強や北朝鮮による核・ミサイル開発、それにロシアによるウクライナ侵攻が続く中、憲法9条に対する人々の考え方には変化も生じているようです。2020年のNHKの世論調査では、9条について「改正する必要があると思う」と回答した人が26%、「改正する必要はないと思う」が37%、「どちらともいえない」が32%でした。

これに対し、2023年の調査では「改正する必要があると思う」が32%、「改正する必要はないと思う」が30%、「どちらとも言えない」が34%でした。また、「改正する必要がある」と回答した人に理由を尋ねたところ、最も多かったのは「自衛力を持てることをはっきりと書くべきだから」で62%、「改正する必要はない」と回答した人の中で最も多かった理由は「平和憲法としての最も大事な条文だから」で65%でした。

ただ、日本を取り巻く国際環境が厳しさを増す中でも、戦争の放棄や戦力の不保持を定めた憲法9条について、「非常に評価する」または「ある程度評価する」と回答した人は合計で70%近くに上っています。増岡さんは、こうした9条の理念を支持する人を今後もつなぎ止めたいと願っています。沖縄の人たちの協力もあり、室蘭に新たに設置された「憲法九条の碑」は、今、その活動の大きな支えとなっているということです。

増岡敏三さん
「憲法九条の碑を励みにして、私たち市民が安心して暮らせるような平和な街を目指していきたいです。今の日本の状況には大変な危機感を抱いているので、それぞれの地方で頑張っていかなければならないと思っています。碑は、室蘭としての第一歩なのです」

2023年12月20日


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