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センカクアホウドリ 執念の新発見

ほっとニュースweb

2021年2月15日(月)午後3時35分 更新

これまでの常識を覆す新発見が北海道大学の研究者らによって発表されました。国の特別天然記念物のアホウドリが実は1種類の鳥ではなく、繁殖地によって2種類に分類できることが分かったのです。
新しい種と判明したアホウドリの繁殖地は緊張が続く沖縄県の尖閣諸島。20年近く研究者たちが足を踏み入れられずにいる場所です。そんな状況でどうやって新発見にたどり着いたのでしょうか。
(取材:篁慶一)

アホウドリ かつては北海道にも

アホウドリは日本最大級の海鳥です。翼を広げると2メートルを優に超え、海風に乗って優雅に空を舞います。ただ、飛び立つのが苦手で、簡単に捕まってしまうため、「アホウ」という不名誉な名前が付けられました。
過去には羽毛目的の乱獲によって、絶滅の危機に瀕したこともあります。生息数はおよそ6000羽まで回復していますが、環境省の「絶滅危惧Ⅱ類」に分類されています。

主な繁殖地は伊豆諸島の鳥島と沖縄県の尖閣諸島。冬に子育てをして、春から夏にかけてアリューシャン列島方面の餌が豊富な海へ移動し、秋に再び戻ってきます。

あまり知られていませんが、アホウドリはかつて、北海道周辺にも飛来していました。渡りの経由地になっていたとみられています。道内の遺跡からはアホウドリの骨や、骨を加工した「骨角器」が数多く出土しています。
アイヌ語にもアホウドリを意味する「オシカンペ」という言葉があります。私が今回取材した北海道大学総合博物館の江田真毅准教授は、1990年代に礼文島の遺跡で見つかった骨が研究のきっかけになりました。

北海道大学総合博物館 江田真毅准教授
「礼文島周辺には現在、アホウドリはいないのに、なぜこんなにたくさん骨が出てくるのだろうと疑問を持ちました。そこからアホウドリについていろいろと調べ始めたのです」

骨のDNA分析で新事実が

江田准教授は動物考古学が専門で、遺跡から出土した動物の骨や歯のDNA分析を20年以上続けてきました。礼文島の遺跡で見つかった約1000年前のアホウドリの骨を調べると、今まで知られていなかったことに気付きました。明らかに異なる遺伝子型を持つ2種類のアホウドリが存在していたのです。

その後の分析によって、鳥島のアホウドリの遺伝子型が、発見した2つの遺伝子型の一方と一致。さらに、1990年代に尖閣諸島で採取されたアホウドリの骨のDNAを調べると、もう一方の遺伝子型と一致したのです。これらを根拠に江田准教授は10年前、「鳥島と尖閣諸島のアホウドリは種が異なる」という結論を導き出しました。

遠い尖閣諸島 中国が活動活発化

しかし、種の違いが国際的に広く認められるには遺伝子型だけでなく、形態や行動の違いも証明しなければなりません。データを集めるためには尖閣諸島でのアホウドリの調査が必要ですが、島に上陸はできませんでした。尖閣諸島の領有権を主張する中国が活動を活発化させていたからです。

2010年には尖閣諸島沖の領海で海上保安庁の巡視船に中国漁船が衝突する事件が起きていました。2012年に日本が尖閣諸島を国有化すると、領海侵入する中国の船が急増しました。当時の率直な思いを江田准教授は明かしてくれました。

北海道大学総合博物館 江田真毅准教授
「尖閣諸島に行ってアホウドリを捕まえて計測すれば、2種類存在するという結論が簡単に出せると考えていました。日本の領土なのに行くこともできず、非常に歯がゆい思いでした」

現場の研究が決め手に

行き詰まった江田准教授を救ったのが、千葉県にある鳥類専門の研究機関、山階鳥類研究所でした。30年前から鳥島でアホウドリの保護活動を続けています。研究所では個体を識別するため、ほかの研究者の活動に加わり、ヒナを捕まえて1羽ずつ足輪を装着してきました。

ところが、島には時折、足輪の無い個体が現れていたのです。長年保護活動に携わってきた研究所のフェロー、佐藤文男さんは「ひょっとして尖閣諸島から飛んできたアホウドリではないのか」と考えました。
DNAを採取して調べたところ、尖閣のアホウドリの遺伝子型と一致。佐藤さんはほかの仲間と計14羽の足輪の無い個体を捕まえ、体の計測を行いました。その結果、足輪の無い個体は鳥島の個体に比べて小型で、くちばしが細長いという体型の特徴が判明したのです。

また、鳥島と尖閣諸島のアホウドリ同士がつがいになる確率は、鳥島の個体同士よりも大幅に低いことも明らかになりました。佐藤さんは互いの求愛行動がうまく行かないことが原因だと指摘しています。

山階鳥類研究所 佐藤文男フェロー
「種が違うと求愛のダンスが異なるので、ダンスがそろわないのです。鳥島と尖閣諸島のアホウドリがつがいになりにくいということは、交配も進んでいないことを意味するので、種が異なることの証明になると考えられます」

センカクアホウドリ 難しい保護

現場で得られたデータも踏まえて、江田准教授や佐藤さんは去年11月、「アホウドリは1種類ではなく2種類存在する」という論文をドイツの専門誌に共同発表しました。

江田准教授らは尖閣諸島のアホウドリを「センカクアホウドリ」と名付けることを提案し、保護の必要性を訴えています。尖閣諸島の生息数は鳥島よりも大幅に少ないとみられるからです。
環境省は尖閣諸島のアホウドリの推定生息数を2013年の時点で300羽程度としています。今、研究者らが望むのは、2002年を最後に行われていない尖閣諸島の上陸調査を実施し、生息状況を把握することです。

ただ、上陸調査のハードルはさらに高まっているのが現状です。去年、中国当局の船が尖閣諸島周辺の「接続水域」を航行した日数は333日に上り、過去最多を更新。領海侵入も繰り返されています。ことし2月には海上警備にあたる中国海警局の船が、停船命令などに従わない外国の船舶に武器の使用を認めることなどを盛り込んだ法律が施行されています。

人工衛星で調査も成果懸念

環境省は現在、人工衛星を活用して尖閣諸島の自然環境の調査を実施しています。人工衛星から撮影された高精度の島の写真を通じて、アホウドリの生息状況を把握しようというのです。この調査の結果はことし3月末までに公表される予定です。
ただ、同様の調査を以前に行った山階鳥類研究所の佐藤さんは、今回の手法では十分な情報が得られないのではないかと懸念しています。

山階鳥類研究所 佐藤文男フェロー
「尖閣諸島の場合、アホウドリは断崖の中腹の棚のような場所で繁殖しています。鳥島のように平らな草原で繁殖しているわけではありません。だから、衛星写真から島にいるアホウドリを捉えることは難しく、生息状況を把握するというのは不可能に近いと考えています」

“知恵出し合い調査実現を”

尖閣諸島には固有の動植物が多く生息し、上陸調査を望んでいるのはアホウドリの研究者だけではありません。私は以前、尖閣諸島の上陸調査に参加して新種の「センカクモグラ」を見つけた九州歯科大学の荒井秋晴名誉教授から、当時の話を聞いたことがあります。

<写真:1979年の上陸調査>

今回、10年ぶりに連絡を取ってみると、「今も尖閣の生き物は気になっているが、特にセンカクモグラは心配だ」と話してくれました。島では人が持ち込んだヤギが繁殖して植物を食い荒らし、モグラの生息状況が悪化している可能性があるということです。「出来ることならもう一度現地で調べてみたいけど、今の状況では厳しいよね」と残念そうにつぶやきました。

アホウドリも環境変化の影響が心配されています。かつては尖閣諸島最大の魚釣島に生息していましたが、乱獲に加えて、人が持ち込み野生化した猫に襲われるようになり、姿を消したとも言われています。

現在の生息地は南小島と北小島だけとされています。江田准教授は厳しい国際情勢を理解しつつも、島の現状を把握することは重要だと訴えています。

北海道大学総合博物館 江田真毅准教授
「『センカクアホウドリ』を別の種としてしっかり守っていかなければなりません。もし生息数が少なくなっているのであれば、どう守っていくのかを考える必要があるので、現地調査は欠かせません。どうすれば平和的に調査が実現できるのか、知恵を出し合っていくことが鳥類保護を進める上では大事だと思います」

研究者たちが力を合わせ、ようやくたどり着いた「センカクアホウドリ」の新発見。しかし、喜びもつかの間、その希少な鳥をどうやって守るのかという新たな難題が立ちはだかっています。

(室蘭放送局・篁慶一 2021年1月28日放送)

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