NHK札幌放送局

喜茂別に1か月暮らして見つけた宝物

ローカルフレンズ制作班

2021年5月27日(木)午後5時58分 更新

札幌の隣町ながら、私にとって秘密に包まれた町、喜茂別町。暮らしてみると美しい自然とおいしい食べ物。そして派手さより、しみじみとした豊かさを選んだ仲間たちの素敵なローカルライフがあった。番組企画で1か月この町に暮らしたディレクターによる「滞在ガイド」

もくじ
WEEK 1 アクセス・宿泊・拠点
WEEK 2 野菜・グルメ・アクション
WEEK 3 移住相談
WEEK 4 スキー・ワンダーランド


WEEK 1 アクセス・宿泊・拠点

札幌駅前からバスに乗って1時間15分ほどで中山峠を通る。ここから先が喜茂別(きもべつ)町だ。進行方向に向かって左側の席に座ったのが正解だった。ずっと川に沿って走るのが見えて気持ちがいい。キモベツはアイヌ語で「キム・オ・ペツ」=「山の多い川」だそう。川を眺めていると町に到着した。

アクセス
札幌からバスが1日4便出ていて所要時間は1時間46分。国際的な評価を受けるスキーリゾート、ニセコのスキー場へは40分。ルスツのスキー場へは10分と好立地。新千歳空港からは車で1時間30分ほど。

さて、バス停の近くにあるコンビニで宿泊施設のカギを借りることになっている。なかなか聞いたことのない仕組みだ。レジで「チェックインをお願いします」と言うのにちょっとドギマギした。2,000人ほどが暮らす町にコンビニが3店。スーパーはあるがドラッグストアはない。そのぐらいの規模の町だ。

宿泊 簡易宿泊所きもべつ
商工会が運営する宿泊施設。もともとは病院の女子寮だったらしい。リーズナブルな値段設定で、滞在できるのは4泊5日まで。コンビニでカギを管理している。川沿いの歩道まで徒歩30秒。

1か月この町に滞在しながら「ローカルフレンズ滞在記」というニュースリポートを毎週1本出していくのがディレクターである私の役割だ。そして町の案内人は、地域にディープな人脈を持つ「ローカルフレンズ」がつとめてくれる。

喜茂別のローカルフレンズが営むカフェ「チグリス」を訪ねた。まるメガネと帽子がトレードマークの加藤朝彦さん。店名は、古代メソポタミア文明を生み出したチグリス川からとったもの。人々がここに集い、交わることで新しいアクションを生み出そうとしている。

加藤朝彦さんと町の拠点
1985年、札幌生まれ。東京でウェブなどのデザイナーとして活動した後、3年前に地域おこし協力隊として喜茂別町に移住した。町役場の向かいにあるコーヒー&シェアスペース「Tigris」のオーナー。このカフェにいると、農家や商工会、移住者などあらゆる職種の人が集まってくる。そして雑談からさまざまな事業が生まれていく。

加藤さんがまっさきに見せたいものがあるという。向かった先はパン屋さんだ。加藤さんは東京に住んでいた頃このお店に惹かれ、わざわざ飛行機に乗ってやってきたそう。そして、それをきっかけにここに移住することを考え始めた。

パン屋さん「ソーケシュ製パン×トモエコーヒー」のオーナー・今野智江さんに聞くと「移住相談、よくあるんですよ」という。いったい、なぜそれほど人を惹きつけるのだろう? 話を聞いていくと、喜茂別でも双葉と呼ばれるエリア周辺で、高品質の「パン、チーズ、ソーセージ、野菜、ハーブ」がそろうことがわかってきた。なんて豊かな恵みなんだろう。1週目の放送は、そんな土地の豊かさを伝えた。

1週目の放送内容
パン・ソーセージ・チーズ・ジャガイモ・ハーブ 同じ道に暮らしています


WEEK 2 野菜・グルメ・アクション

毎日加藤さんのカフェに通ってコーヒーを飲んでいると、常連さんの存在に気づく。そのひとり、いつも威勢よく入ってくるのが農家・卸売業の前田昌明さんだ。前田さんはいつも何かやろうと考えている人だ。「加藤ちゃん、こんなのやりたいんだけど、できるかな」と次々に聞いては即断即決していく。

前田さんが営む直売所を訪ねると、なんとジャガイモだけで9種類も置いてあった。何かやろうといろいろ考えているうちに、たくさん作ることになったに違いない。

前田昌明さんと地元の野菜
農作に加えて、野菜の直売所「伏見直売」を営む。もともとダンプカーの運転手をしていたが、家族の事情で生まれ故郷の喜茂別に帰ってきた。だから、というのは偏見かもしれないが農家らしくない雰囲気だ。アスパラ、ジャガイモ、トウキビ、なんでも作る。

前田さんの畑には、このあたりでは珍しい「ハバネロ」が植えてあった。実はこれ、隣に暮らす料理人の要望に応えてはじめたものらしい。前田さんは自分で何かをやろうとするだけでなく、何かをやろうとしている若い人を応援するのも得意なのだ。かっこいいですねと言うと「へへっ」と笑ってくれた。

さて、そのハバネロのオーダーをしたのが、キコさんこと松宮亜樹子さんだ。キコさんはロードサイドで無国籍料理店を営んでいる。車庫を改装した店構えはたいへんユニーク。そのうえ料理のメニューもない。一言で、変わった人なのである。でも大雑把ではまったくない。むしろ繊細だ。知れば知るほどキコさんは面白い人で、あっという間に1本ニュースリポートができあがってしまった。

2週目の放送内容(グルメ)
田舎道にメニューのない料理店 

私がニュースリポートの編集をしていいる間、ローカルフレンズの加藤藤朝彦さんはパワーポイントの資料を作っていた。「ローカルフレンズ滞在記」をきっかけに喜茂別の若手で集まって、町の宝を探すワークショップを企画してくれたのだ。

当日、集まったのは12人。商工会や農協、教育委員会など、町を支える地元の人たちと、移住者が一堂に集って、町を楽しくする作戦会議。喜茂別には「子どもが遊べるアクティビティが少ない」という話が盛り上がって、町の人も、外の人も楽しめるものを考えていくことに決まった。

アクション「ローカルフレンズカフェ」
NHKの番組をきっかけに、喜茂別の若手が集まってアクションを起こしはじめた。その後、番組中で視聴者アンケートを取って「ワイルドコーディネーター」というアイデアが1位に選ばれた。これは喜茂別の厳しい自然環境を逆手にとって、ワイルドな遊びを教えるというものだ。


WEEK 3 移住相談

北海道に新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出た。町の空気は一変した。出歩く人も札幌からの車もめっきり少ないのだ。それまでお世話になっていた飲食店に電話をかけると「もう、やっていても仕方ないから休業したよ」と悲しい声で話してくれた。ローカルフレンズの加藤朝彦さんのカフェも、テイクアウトだけに切り替えた。去年は緊急事態宣言になって売り上げが3分の1に落ちたという。

そんな中で加藤さんは毎日せっせとパソコンに向かっていた。聞けば、年間100人もの人からリモートで移住相談を受けているというではないか。

3週目の放送内容(移住相談)
2000人の町に移住相談100件超! その秘密は?

印象的だったのは50代の移住者、小笠原さんがとっても楽しそうに暮らしていたことだ。それまで大きな企業につとめていたが、子どもたちが成人したタイミングで「第二の人生」を歩み始めた。今は福祉施設で働きながら、自分で育てた野菜を天ぷらにして一日を終える。沈んでいく夕日を見ながら、私もしみじみと喜茂別の空気、流れる時間を楽しんだ。


WEEK 4 スキー・ワンダーランド

この1か月の滞在を通じて、友達のように仲良くなった人がいる。最近、町に帰ってきた27歳の下村雄太さんだ。下村さんは「フリースキーヤー」として、北米やオセアニアの山を滑ってきた。中でも2019年にアラスカで滑った映像は圧巻だ。断崖絶壁、雪がサラサラと流れ落ちるような急斜面。息を切らして降りていく。

フリースキーヤーという言葉には「なにものにもとらわれない」という、彼の強い信念が込められている。小学校低学年から競技スキーをしていたが、高校生の時に気持ちが切れてしまったという。そんなある日、倶知安町にあるカフェで、オーナーの峠ヶ孝高さんから「山スキー」に誘われる。はじめてすべった彼の姿を峠ヶさんはこう振り返る。「消えていった」。誰かと競うのではなく、自分の表現としてのスキーに下村さんはこうして出会った。

フリースキーヤー 下村雄太さん 
喜茂別出身。長野県の白馬を拠点にフリースキーヤーとして国内外で活動してきた。2020年ケガをきっかけに今後の生き方を考え、故郷に帰ってきた。

さて、加藤さんたち町の若手が集まって、ワークショップをしたことは前に書いた。喜茂別には「子どもが遊べるアクティビティが少ない」課題に対して、「ワイルドコーディネーター」という、ワイルドな遊びによる町おこしをする構想だ。放送後、町の人から多くの反響があった。「子どもの頃は丸太を持って川を下っていた」。「山まで七輪を運んでジンギスカンをした」。厳しい自然は、かっこうの遊び場なのだ。

そして実は、喜茂別には「遊びのワンダーランド」と言うべき、ディープな場所があることを知った。廃校になった小学校を改装した「雪月花廊」という施設だ。職員室はレストランに。5・6年生の教室はゲストハウスに。校庭はキャンプ場に。体育館はプレーパークに。といった具合に、あらゆるものが、自由自在にかたちを変えて存在している。それをなんと女性ひとりで切り盛りしているというが…

今関舞子さん
「喜茂別旧双葉小学校資料館」「雪月花廊」オーナー。夫の安雄さんと小学校を改装し、巨大な施設に生まれ変わらせた。2017年に安雄さんが亡くなってからも、宿泊客や地元の人に支えられて、小学校の改装は続いている。

小学校には裏山がある。そこは昔、小学生たちがスキーを練習していた場所だそう。今関さんたちは最近まで尻滑りをして遊んでいたという。最近、雪滑りをする板を自分で作る「雪板」という遊びが流行ってきているが、もしかしたら格好の遊び場になるかもしれない。

ローカルフレンズの加藤さんたち町の若手は、こうした町の「宝」を見つけて、新たな価値を生み出そうとしている。1か月滞在しただけでも、これだけの可能性を見せてくれた町。私はこれから何度もこの町に通うことになるだろう。

NHK北海道ディレクター 大隅亮

2021年5月27日


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